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パン屋日記 #22 クマ崎さんのお子さまカレー

「クマ崎さん」という
常連のお客さまがいます。

クマ崎さんの日課は、

毎朝7:45に来店して
時間ギリギリに出勤するスタッフに、
「遅いじゃないか」とクギを刺すこと。

店長よろしく、
モーニングメニューの看板を表に出すこと。

そんなことを
わたしが生まれる前から続けている、
伝説のお客さまです。


わたしが早朝シフトで出勤するとき

常連客のクマ崎さんは、
ご自分の朝食用に買ったパンを
わたしに分けてくださいます。

パン屋に来て、パンを買って
それを従業員に分けてくださるのです。

最近のお気に入りはミニピザです。

手のひらサイズのミニピザを一つ買って、

「icca。4つに切って、1つ食え」

と言います。

早番の日は、朝起きるのが早すぎて

わたしが朝ごはんを食べていないことを、
知っているのです。


朝のスタッフが偶然もう一人いたある日

クマ崎さんはいつものようにピザを買って、

「icca。4つに切って、2つ取れ」

と言いました。

これにはわたしも、びっくり仰天。

「クマ崎さん。4つに切って2つ取ったら、
 クマ崎さんのピザは半分になっちゃいますよ。
 わたしたちは1つを半分こしますから、
 クマ崎さんが召し上がってください」

クマ崎さんはちょっと考えましたが、

「ええけん、食え」と言って

レストランへコーヒーを飲みに行ってしまいました。

焼き立てでまだほんのり温かいピザを、
ありがたくいただきます。

帰り際に、
「今日は、公民館に行かないかん」
とクマ崎さんが言いました。

『あら、町内会の会議ですか?』

「いや、仕事やないんじゃが……
 カレーを作らんといかん。120人分」

『120人分! それは大変ですね。
 お祭りか何かですか?』


クマ崎さんはちょっとだけ照れながら、

「こども食堂」

と言ってお店を出ていかれました。

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