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パン屋日記 #4 『僕のことハゲてると思てるやろ』

冗談というのは、
理解力と、創造力と、
瞬発力を必要とします。

年齢差があると、
おもしろみの前提にも差ができる分
切り返しがさらに難しくなります。

しかしながら、
冗談も通じないような若い店員は
つまらないのです。

(私)
「いらっしゃいませ」

(お客様)
『いらっしゃいませなんて、
 思ってないやろ』

この関西弁のお客さまは、
近くの専門学校に通っている、
40代後半くらいの学生さん。

学校の行き帰りに
パンを買ってくださったり、

年下の同級生のみなさんと一緒に、
コーヒーを飲みに来てくださったりします。

「思ってますよ。何名様ですか?」

『今日は4人』

「そうですか。
 お席はたくさん空いておりますので、
 3名様までならお座りいただけます」

『なんで僕をのけものにするんや!』

この方は常連さんの中でも、
特に明るくてフレンドリーな方。
だからこそ、毎日が戦いです。

『iccaちゃ~ん!
 そういえば、病気はもう大丈夫なん?
 なんやったっけ、あれ、美人薄命病?』

「それは……」

『うん』

「完治したとき、いったいどんな気持ちで
 受け止めたらいいんでしょうか」

『僕が悪かった』

そのお客さまは、
こちらがコーヒーをお出しするときなど
スタッフと目が合うたびに

「僕のことハゲてると思てるやろ」

と言って、わたしたちを困らせます。

『iccaちゃんも、
 僕のことハゲてると思てるやろ』

毎度毎度のことですが、
私はにっこりとほほえんで

「そんなこと、心の中でしか思っていませんよ」

と、言って差し上げるのでした。

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