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パン屋日記 #25 東京ばな奈

「もみじまんじゅう20個ゆうたら、
 一人で持てるかのう」

『えーっ、持てませんよ!
 20粒じゃなくて、20箱でしょう?
 片手で10箱。絶対、持てません』

常連客のクマ崎さん(69)は、
20代の頃、東京で働いていたそうです。

こんどその頃の職場の仲間と、
東京で同窓会をするというのです。

『クマ崎さんのことだからきっと、
 大きい箱のを買っていくんでしょう。
 それは、先に会場に送っておいた方が
 いいですよ』

「ほうか」

クマ崎さんは
もみじまんじゅう20箱を
素直に東京に送り、

「東京のまんじゅうを買うてきちゃる」

と言って、
ドヤ顔で旅立ちました。


数日後。

クマ崎さんが買ってきてくれたのは、
ピンクで花柄の「東京ばな奈」でした。

普段のクマ崎さんなら

「なんじゃこりゃ。ようわからん」

と言いそうな、「バナナシェイク味」。


わたしたちのことを想像して、
一番よろこびそうなものを選んで
買ってきてくださったのでしょう。

(わたしたちのこと、こんなに
 かわいい風に思ってるんだあ)

(クマ崎さん、これ持ってレジ並んだんだあ)

と思うと、にやにやが止まりません。


一番うれしいおみやげは、

高級なものでも、有名なものでもなく

あげる人のことを一生懸命考える
気持ちなのだと実感した、

クマ崎さんの東京ばな奈でした。

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