自責のフラッシュバック

今回は以前書いたこちらの記事とフラッシュバックについて関連付けて書いてみたいと思います。

こちらの記事はざっくり言うと自分を責めるのと他人を責めるのは表裏一体であるというような内容になっています。
つまり自分を責める事に耐えかねると他人を責めてという事です。
また逆に他人に責任転嫁していた人がいよいよそれができなくなると自分を激しく責めるようになるというような原理の話です。

そして「責める」という行為が伴う場合には大抵「反省」が生まれないという話です。
最近トラウマについての本を読んでいてフラッシュバックの中に「自責のフラッシュバック」というものがあると知りました。
これをみた時に自責と他責の原理をふと思い出しました。

※なおフラッシュバックの原因と言われているトラウマについてはこちらの記事を読んでみてください。

自責のフラッシュバックというのは自分に非があるという状況において起こる激しい自責を伴うフラッシュバックの事です。
自分に非がある状況において激しい恐怖を感じて過呼吸や動悸が起きたり、心の中で自分を責める言葉を反芻させたりなどが症状として挙げられます。
重度の場合はこれが原因で妄想や幻覚が起こり、統合失調症と診断されるケースもあるようです。
(「死ね」という言葉を言われているというような幻覚であったり、あの人に殺されるなどの妄想が起こる)

僕がトラウマ症状において特に厄介だなと感じたのがこの自責のフラッシュバックです。
過去に僕が出会ってきた重いトラウマを持っている人たちもそうでしたが、自分に非がある場合にそれを認めたくない心理が強く働き、相手を激しく攻撃したり全ての責任を他人に押し付ける傾向があるのです。

そしてこの作用によって本人の心の中で自分が責任から逃れたという罪悪感が無意識に植え付けられてさらにトラウマが塗り重ねられてしまうのです。
自分という存在に対してバツの悪さのようなものが生まれてしまうのです。
心の奥底では自分が悪いと気がついているどころか何もかも全て自分が悪いんだとすら思っているにも関わらず表面的な態度としては自分には非がないとか周りが悪いという態度を取りがちです。
誰よりも強い罪悪感を持っているにも関わらず、罪の意識がない振る舞いをしてしまうという矛盾が生まれるのです。

そしてこのような態度は周りからの信頼を失います。
トラウマ関連の本を読んでいるとトラウマ患者は罪悪感や恥辱感が強いというような描写が多いのですが、それは外から見ても分からない場合も多いです。
罪悪感や恥辱感を伴う自責のフラッシュバックから逃れる為に非常に他責的で自分の非を認めないケースが多々あるからです。
途中まで全て相手のせいにしていたのに一言それはあなたにも問題があるんじゃないのかという指摘をされて逃げられなくなった途端に全部自分が悪いと責める等のパターンも想定できます。

そしてこのような激しい自責のフラッシュバックを起こした後はその苦しみがトラウマ記憶として本人の脳内に冷凍保存されます。
そもそも自責のフラッシュバックがある人は既にトラウマを持っている状態なのですが、その上にさらにトラウマが上塗りされるような状態です。
トラウマ論の記事でも書いた通りこのトラウマの上にトラウマが重なっていく様がまさに複雑性PTSDの「複雑性」という部分をよく表しているなと僕は捉えています。

そして再び同じフラッシュバックを起こさないように解離を起こして自分を切り離して回避します。
つまり自分の事を他人事にして自分のした事をなかった事にしてしまうという事です。
これによって記憶が喪失されたり捻じ曲がったりする可能性もあります。
そして当人は反省をして自分の非に向き合う事ができなくなります。
責めたり罰を与えるのではなく反省をするという事が自責のフラッシュバックがあると非常に難しくなってしまうのです。

トラウマ体験の発生→解離してやり過ごす→
記憶が冷凍保存される→トラウマを想起する→
フラッシュバックを起こす→解離でやり過ごす→
記憶が冷凍保存される→再びフラッシュバック

このような流れを繰り返すループにハマり、当人は時間の間隔を喪失して辛いトラウマ記憶の再体験に飲み込まれてしまいます。

自責のフラッシュバックは自分に非があるという場面において激しく叱責されたり馬鹿にされたりイジメにあったりし続けた人に多く起こります。
中には非がない場合においてまで何でもかんでもその人のせいにされて責められたというようなパターンも含まれます。

トラウマ症状の改善において自責のフラッシュバックというものが存在するという事を認識しておく事は非常に大切ではないかと考えています。
自分に非があるというシチュエーションそのものがトラウマ化している人がいる、この視点があるのとないのとで人の見え方が大きく変わってくる場合があるのです。
何故なら本当は悪いと思っている場合と悪いとすら思っていない場合では大きく話が変わってくるからです。

このようなケースにおいて1番やってはいけない事は相手を責める事でしょう。
自責のフラッシュバックがある人は責められるとフラッシュバック症状によって激しいストレスを感じ、脳が硬直して頭に何も入ってこない状態になります。
トラウマ論の記事でも書いたように脳が仮死状態になってしまい、仮死状態の時に脳は何かをインプットしたり学習する事ができないのです。
その上、できる限り責めるというニュアンスを出さないようにした場合ですらも自分に非があると相手が少しでも感じてしまうと自責のフラッシュバックが起こるリスクがあるので接し方の面で非常に難しいです。

一見自分を責めているようには見えなかったりそれどころかいつも他人のせいにしているような人の中に実は強烈な自責感情を持ったままそれを抑圧して生きている人がいるのです。
当然ながら統計データを出せるような話でもないので推測にはなりますが、このような人が想像以上にたくさんいるような気がしてなりません。


気に入ってくれた方はサポートお願いします。