歌唱時機能性発声障害

今回は僕が何年も悩まされている歌唱時機能性発声障害について書いてみようと思います。
今年に入って一度抜けたバンドでまたスタジオ入るようになったりと歌う機会も増えてきました。
しかし歌う機会が増えれば増えるほど歌唱時機能性発声障害は悪化する傾向にあります。
発声障害によるストレスが最近大きすぎて辛いので、いい機会という事で記事にしてみようかなと思います。
同じ悩みを持つ人にも届いてくれたら幸いです。

僕は10年以上前にzahirというバンドに加入しました。
加入時は今とは比べ物にならないくらいに歌唱力が低かったのですが、バンドに加入したタイミングでボイストレーニングを習い始めました。
いわゆるSLS(Speech Level Singing)系のボイトレで、ボイトレをし始めるようになってからみるみる歌唱力が伸びていきました。
そしてそれと同時にバンドのサウンドなどのクオリティも上がり、自分や自分のバンドの可能性が広がる事に楽しさを感じていました。

しかし絶好調の状態でも少し歌うとすぐに声帯が疲労してしまう事が多く、ライブの本数が増えるごとに歌う事に苦しさを感じるようになりました。
かなりヘヴィなサウンドでボーカルが食われそうになるような強烈な演奏の中で歌っていたのもあり、パワフルな声が必要でしたが当時の僕にはそのパワフルな声を支えるだけの土台がなかったように思います。

当時習っていたボイトレは、声帯や喉周りのトレーニングを主体とするようなトレーニングでした。
neyneyだとかmumだとかgaだとか有名な音階練習系のエクササイズが主体でそれで僕の喉はムキムキになった気がします。
逆に呼吸のトレーニングなどはほとんどされないタイプのボイトレで腹式呼吸という単語も一切使われませんでした。
(呼吸のトレーニングは大切ですが、理想的な呼吸法は厳密には腹式呼吸ではないというのが今の僕の見解です)

それもあってか当時の自分は声のパワー自体は成長しているのに持久力的なものが全くついていない状態でした。
喉周りの力みが強くてすぐ疲れるという悩みがいくらトレーニングをしても改善されませんでした。
本番で歌えば歌うほど下手になるという感覚も強かったです。

そしてそんな状態を打破したい気持ちもあり、僕は2016年にバンドを脱退しました。
バンド自体があまり上手くいっていない感じがした事もありますが、自分の声を改善したいという気持ちも非常に強かったです。
目安として30歳になるまでには自分の声の土台を整えて自分の頭の中に湧いてきたアイディアを自由に形にできるようになるという目標も立てていました。

そして2016年のバンド脱退後から2017年に関してはひたすらボイストレーニングをし続ける日々でした。
海外の超大物ボイストレーナーさんの来日レッスンなどにも参加してヒントを掴み、今までにないほど軽やかな声を身につけつつありかなり調子が良くなっていました。

そして、2017年にとあるプロのシンガーがデスボイスのレッスンをやるという事で参加をしました。
ところがそのレッスンの頃はちょうど花粉症などもあり少し声の調子が悪く力みが出やすい状態であった事もあり、そのレッスンで声を壊してしまいました。
あまり言いたくはないのですが、レッスン内容は酷いものでした。
実際に歌ってみて力んでいる場合に指摘をされてもう一回歌い直しをするの繰り返しのレッスンで、なぜ力んでいるのか、力みを抑えるにはどうしたら良いのかという指導がなかった為、力んだシャウトをレッスン中に出し続けるような形になってしまいました。

この経験から、結果だけに着目して過程を理解していない声の指導というのは本当に危険だと思っています。
そのような指導者はたとえシンガーとしては良いシンガーであってもハッキリ言って無能でしょう。
たった1日で1人の人間の声を壊してしまうのですから。
僕が結構な値段のレッスン代と引き換えに得たのは、声帯結節でした。

今までに感じた事のないような声の不調を感じてすぐに声の病院へ行きました。
診断名は「声帯炎」でした。
しばらく声を出さず安静にしておくように指導をされました。
そして確か1ヶ月ほどで声の枯れなどが消失しました。
ところが再びボイトレに通ってみたところ、明らかに以前と自分の声が違うのです。
1ヶ月ボイトレをせずにあまり声を出さない生活をしていた事による反動があったのだろうと思い、しばらくボイトレに通っていました。
少しずつ感覚を取り戻しつつも、なかなか声の不調が治まりませんでした。

そして2017年10月のとある日、僕は高熱を出しました。
2週間以上にわたる高熱、そして異常な回数の下痢、経験した事のない頭が割れるような頭痛、立っていられないほどの重い倦怠感に悩まされました。
原因は潰瘍性大腸炎、そしてその合併症のサイトメガロウィルス感染症による伝染性単核球症でした。
潰瘍性大腸炎については別の記事にて書いているので載せておきます。

潰瘍性大腸炎で入院してもはや僕はボイストレーニングどころではありませんでした。
退院後には声にかなりの衰えを感じました。
地声に張りがなく地に足がついていないようなヘナチョコな声になっていました。
その後、ボイトレを復活してしばらく頑張ってみたのですが声の調子が全く戻りませんでした。
特にハイトーンで異常に喉に痛みを感じる事もあり、再び別の病院へ行きました。
そして声帯結節と診断されました。
医師の指示通りステロイド薬の吸入を続けたところ、1ヶ月後には結節が消失しました。

そしてそこからまたボイトレを復活しました。
ところが、結節があった時のようなハイトーンで痛みを伴う症状などはなくなっていたものの声がひっくり返ったりかすれたりする症状が強くなっていました。
それもその症状が起こるのはB4〜E4あたりの大して高くもない音程でした。
今までその辺りの音程が歌えなくなった事はなかったので明らかにおかしいと思い始めてきました。
その時期は潰瘍性大腸炎の治療も行き詰まっており、薬の副作用などで激しい倦怠感に襲われる事もありそれも関係しているのではないかと考えています。
そこでもう一度病院に行ったところ、慢性上咽頭炎が発覚しました。
上咽頭に炎症があると特に喚声点(ブリッジ)での声のコントロールを難しくなるそうです。
その為、慢性上咽頭炎治療のためにBスポット治療というものを受けました。
塩化亜鉛をつけた長い綿棒で上咽頭をつつくというような治療になります。
炎症がある場合には相当強い痛みが伴い、初回の治療時は激しい痛みに悶絶しました笑
挙句の果てに終わった後にその刺激のせいか永遠にクシャミと鼻水が止まらなくなったのを覚えています。
そしてそんな苦労もあり、慢性上咽頭炎は完治しました。
ところが、慢性上咽頭炎完治後も不調が続いたので、とあるボイストレーナーさんを紹介してもらい、そのボイストレーナーさんに習い始める事になりました。

そこのボイストレーニンでは「舌」に着目していました。
ざっくり言うと舌の位置が上げられなくなる事によって声の不調が起きているという話でした。
実際、発声障害的な症状が出る箇所は「k」「t」「s」など舌を上げる必要がある子音の箇所ばかりでした。
また母音だと「o」が1番歌いにくい事などもそこのボイトレで分かりました。
しかし、そこで母音の処理の仕方や舌の使い方などを教わったもののあまり手応えが感じられず1年弱でそこのボイトレはやめてしまいました。

そして再び声専門の耳鼻科に相談したところ、歌唱時機能性発声障害と診断されました。
声帯などに異常がないにも関わらず著しく発声が崩れてしまった場合に使われる診断名です。
そこで機能性発声障害を経験した事のあるプロ歌手の方がやっているボイストレーニングがあるとの事でそちらに通い始めました。
また同時期にSNSで興味深い情報を発信しているボイストレーナーさんがいたのでそちらにも行ってみました。
結果、今は2人のボイストレーナーさんから習っているという状態です笑

何を習っているのかを書き出すとキリがないのでざっくり説明すると、身体の使い方というのがメインのレッスンという感じです。
身体の使い方以外にも様々なトレーニングがありますが、僕の場合はとにかく身体の使い方が下手くそなのでそこを重点的に見てもらっている形です。
呼吸に関しては骨盤底筋呼吸というものを習っていますが、この感覚を身につけてから発声障害が改善してきたように思います。

その先生たちは東洋医学や整形外科領域の専門家等とも繋がりがあり身体の状態なども含めて多角的に声を見ていくスタンスです。
様々な専門家の意見を聞いた上で機能性発声障害がどういう状態であるかを考えてみましたが、僕の見解では歌唱の土台が壊れている状態として捉えています。
歌唱の土台というのはつまり身体的な健康です。
自律神経失調状態であったり、血流障害、極度の筋肉不足(いわゆるインナーマッスル的な筋肉)、効率的な呼吸ができていない、姿勢が崩れている等は声の土台の崩壊を意味します。
これらの問題要素は独立して存在しているものではなく互いに影響を及ぼしながら存在しているものです。
一つ悪くなると他も悪くなるというような側面もあるでしょう。

僕の場合はまず声帯結節になって結節がある事に気づくのが遅れたまま歌い続けた事によって発声に悪い癖がついた事がキッカケとして大きいです。
また潰瘍性大腸炎によって腹部の血行が悪くなり、血流障害が起きた事も理由として大きそうです。
腹部の血行が悪くなることで腹部から背中などに向かう血流が滞って身体的な土台が崩れる上に腹部が硬くなり横隔膜を動かしづらくなるそうです。
(この辺りは、鍼灸や指圧などに精通した東洋医学の専門家やパーソナルトレーナーさんや漢方の先生などの見解を参考にしています。)
その為、運動が大の苦手な僕ではありますが、血流改善という意味でも運動は絶対にした方が良いという判断で最近はテコンドーなんかも始めました。
意外と楽しいです。

また、潰瘍性大腸炎の薬でシンポニーやヒュミラやゼルヤンツなどを使用した際や潰瘍性大腸炎悪化時に激しい下痢を繰り返して自律神経失調症になった事もあるのですが、自律神経の不調と発声障害には関係がありそうです。
また慢性上咽頭炎に関しては自律神経の不調は勿論のこと、潰瘍性大腸炎とも関係していると言われています。
本当に調べれば調べるほど膨大な情報が出てくるのですが、どの不調もお互いに影響を与えながら存在しているという事がよく分かります。
潰瘍性大腸炎の記事にも書いた事ではありますが、西洋医学では原因がわからないような不調に関しては東洋医学的な視点で様々な要素を繋がりで見ていくというスタンスによってある程度の事は予測できるのではないかと思います。

機能性発声障害に限らず西洋医学で原因がはっきり分からない不調というのは不調の原因を考え出すと無限に出てくる可能性があるので、どれか一つを原因にするのが難しいです。
その為、ハッキリとした物言いの記事というのは書くのが難しいために結論が分かりにくい記事にはなるのですが、それはそういうものであると捉えていただけると嬉しいです。
僕自身は専門家でも何でもないのですが、機能性発声障害の当事者として情報収集は相当な量行ってきたとは自負しています。
時間とお金もたくさんかけました。
その経験から素人ながら同じように発声障害で悩む人や歌を志す人に対して気づきを与える事もできるのかなと思い、この記事を書いています。

いや、正確にはこの記事を書いた1番の動機はとにかく発声障害が辛くて仕方がないからです。
僕が本気でボーカリストとして向上していく事を志している中でこのような状態になった事は本当に地獄のように辛かったです。
勿論この経験があったからこそたとえ声が出なくても自分には価値があるんだという精神的な気付きを得られたのは大きいです。
しかし、そのような精神的な気づきを得て潰瘍性大腸炎も少し改善し様々な声の治療を受けている今でもなお発声障害はあまり良くなっていないのが現状です。
ボイストレーニングの最中であれば多少の改善は見られてはいるものの、いざ実践的に歌うとなるとほとんど改善していません。
発声障害前ですらもっとこういう風に歌いたいのにできないなどの悩みに苦しんでいたにも関わらず、発声障害になってからは頑張っても元々歌っていたレベルにすら到達できないのです。
初めに声の不調が始まった時から4年経ちましたが、未だに当時のレベルにすら追いついていません。
そんな中で周りの歌仲間たちはどんどん歌が上手くなっていきます。
人は人、自分は自分というスタンスがそれなりにできている自分でさえもさすがに辛くなる時があるくらいです。

僕のボーカルスタイルについて話します。
僕はバンドという形態にこだわりを持っているボーカリストです。
そこについてはこちらの記事を読んでください。

僕のバンドや僕自身のスタイルとしては、メンバーが持ってきた歌が一切載っていない曲に僕が一から全て歌を載せて歌詞も書くというスタンスでした。
僕はこのやり方がとにかく大好きでした。
まず何よりメンバーの作る曲がめちゃくちゃ良い。
僕はリスナー目線になると下手したらボーカルよりギターの方が好きなくらいギターが大好きです。
かっこいいギターが鳴っていると脳が覚醒してめちゃくちゃテンション上がります笑
この「テンションが上がる感覚」のままに歌を作る事が僕の歌作りの秘訣です。
テンションが上がると自然と頭の中に歌のアイデアが無限に湧いてくるのです。
勿論、毎回必ずすぐにアイデアが湧くわけではありませんが、基本的にはほとんど勝手に湧いてきたアイデアをただ自分で歌ってそこに言葉を載せるだけなので、僕としてはすごく簡単でかつとても楽しい作業です。

しかしこの歌作りには一つ短所があります。
それは湧いてきた歌を自分が歌いこなせるとは限らないという事です。
自分では出せないような高音であったり、呼吸する隙間がなかったり、声色のコントロールが難しすぎて再現できなかったりする事はよくあります。
それでも歌は完成させなければいけないので、そういう際にはやむを得ず妥協案を出します。
それがとても辛いのです。
具体的にここはこういう音程でこういう声色でリズムはこうでビブラートの波形がこうでという風に自分なりの正解が具体的であればあるほど発声障害は辛いのです。
どうしたいが明確であればあるほどしたいようにできない苦しさは増すのです。
僕がボイストレーニングをする理由はただ一つ、僕の頭の中に湧いてきたアイデアを形にする為でそれだけでしかないのです。
周りから上手いと思われるかどうかとかはクソほどどうでも良くて、ただただ自分が良いと思うアイデアを形にしたいという純粋な表現欲だけしか僕には原動力がありません。

実はこれだけ語っておいて僕はボイストレーニングはちっとも好きじゃありません。
好きになろうとしたけど僕には難しいです。
何故ならボイストレーニング自体は決してクリエイティブではないからです。
僕は単に物理的に合理的な選択を取り続けるというだけのクソつまらない作業だと思っています。
実は僕の師匠がボイストレーナーでありながらボイストレーニングなんて面白くないと言っているんですが、その感覚を持っているボイストレーナーって最高だなって思っています笑
アーティストにとってボイストレーニングは必要だからやる事であって決して目的ではないのです。
発声が上手くなる事は過程でしかない、上手さを競う事にも価値はない。
ただ自分の湧いてきたものを形にしたいだけなのです。

僕が単なる歌唱力に囚われるようなつまらないボーカリストではないという事を言いたくて書いてみました。
僕の頭の中にはまだまだ試していないアイデアが無限にあるのです。
これを形にしたらどれだけ凄いものができるのかを考えるととてもワクワクしますが、発声障害になってからはこの自動的に湧いてくるアイデアの数々がむしろ苦しくなりました。
ろくに形にできない状態でアイデアが湧いてくる事はとてもストレスです。
声の調子には結構なムラがあって酷い時は本当に精神的に参ってしまいます。

ええーとうとう6500字に達しました。
今までで1番長くなりました笑
これだけ吐き出せばまたボイトレ頑張れるかなと思います。
ネガティブな内容もいっそ全て綺麗に言語化してしまえば気持ちがラクになるんじゃないかと思って書いてみました。
お読みいただいた方ありがとうございます。

最後に一つだけ言いたい事があります。
ボイストレーニングや治療の世界ってとてもとても難しいです。
僕は本当に研究熱心なボイストレーナーさんや治療家の方達にたくさん出会ってきました。
中には短絡的な発想で物事を白黒思考でしか見られない無能なボイストレーナーがいるのも事実でしょうが、本当に研究熱心な人というのがいる事は知って欲しいです。
そしてそれだけ研究熱心な先生ですらまだまだ分からない事があって僕みたいな生徒に苦労するわけです。
そんなに甘い世界ではないのです。
無知の知という言葉がありますが、物事のほんの一部だけを見て判断して程度の低い一般論で安易に声を捉えている人が多い事を僕はとても心配に思います。
感情で言うのであればとても不快です。
そのようないい加減な人たちの言葉で僕のような状況になる人が増えるかもしれないというリスク、そして僕の中にある本当に研究熱心な先生方へのリスペクトがそういう愚か者を許せないと感じてしまうのです。
僕は何でもかんでもエビデンスがどうとか騒ぐ事には反対で感覚で理解するというのもアリだと思いますし、素人が素人なりに学ぶ意識を持つ事も仮説を立てる事も否定しません。
僕自身もこの記事にも書いた通り、たくさん仮説を立てたりしてますしね。
しかし自分はまだまだ無知である、自分の知る情報はほんの一部に過ぎないという感覚は常に忘れずにいて欲しいなと思います。
無責任かつ身勝手なボイストレーナーもどきがこれ以上増えない事を祈ります。

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