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Activism/M&A Weekly Roundup (2023年8月21日週)


アクティビズム

世界初(?)現役アクティビストによるラジオ番組がスタート(8月25日)

interfmで9月3日から放送開始の新番組『Investor’s Sunday』。
DJを務めるのは、なんとダルトンのアナリスト・西田真澄氏。

『普段あまり表に出ることの少ない第一線で活躍する投資家や経営者をゲストに迎える』ということで、楽しみ。


インテージHD、Nippon Active Value Fundからの株主提案に反対の意見表明(8月22日)

ダルトン系のNAVFによる株主提案。

提案内容:

  • 自己株式取得(1年以内約61億円)

  • 定款変更(社外取過半数)

6月総会で各社に実施した株主提案と同内容の所謂コピペ提案。
こういうやり方はあまり感心しない。

NAVFは昨年1月にインテージHDにMBO提案を実施するも、会社側は6月に「企業価値・株主価値向上に資さない」として上場維持する旨を開示。
その後、NAVFはレターで株主提案を仄めかしていたが、結局昨年総会では提案を見送っている。

インテージHD「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」


「経営に自信ない日本のトップ」(ストラテジックキャピタル 丸木氏インタビュー)(金融ファクシミリ新聞)(8月21日)

ストラテジックキャピタル 丸木さんのインタビュー。

現場では優秀でも、経営者として優秀であるとは限らない。一般的に日本人は勤勉で優秀な人が多いが、トップの人のレベルに関しては欧米や中国の方が高いと感じる。その理由は、日本ではトップとしての訓練がされていない人がトップになっているからだと思う。日本の会社に余剰資産が多い理由も、保有資産がないと何かがあった時に経営者が不安だからだ。経営に自信がないために余分な資産を持ち、資本効率性が悪くなり、そのためROEも低い。経営に自信がないのであれば、自信のある人に経営を変わってもらうべきだ。経営が失敗した時の為に資産を保有しておくのではなく、失敗しないように色々とリスクを考慮しながら経営していくのが本筋だ。

※太字は筆者による

全く同感だ。
とはいえ、「訓練された人」は一朝一夕には輩出されない。
だから必ずしも経営のプロと言い切れない経営トップに、株主や社外取締役が助言し、モニタリングすることが重要なのだ。
それと並んで重要なのが、中長期的に経営人材を育てる人的投資やサクセッションプランの策定。
こうした巨視的理解ができていない企業が少なくない。


論文、インサイト

「ESG」の言葉を捨て去るべき理由(WSJ)(8月19日)

最近「ESG」の用語はもう役目を終えたとする「ESGオワコン説」をよく耳にするようになった。

著書『Grow the pie』で、企業利益と社会的価値の対立関係を超克する「パイコノミクス」を提唱し、ESG派と目されるLBSのエドマンス教授もそれに賛成のようだ。

サマリー

  • ESGという言葉は、04年の国連の報告書(”Who cares wins”)が初出

  • 03年に「ガバナンスが長期的な企業価値を向上させる」との論文が公表されており、上記報告書の中で、国連グローバル・コンパクトが従来企業に要請していた環境・社会課題への対応(E&S)とガバナンス(G)が、長期的価値向上の文脈でたまたま抱き合わせにされた「偶然の産物」にすぎない

  • 企業の財務や長期的価値への影響を重視するなら、ESG以外の要素(例えば戦略、生産性、イノベーションなど)が除外されるのはおかしい

  • ESGをそれ以外の要素に優先させると、企業が注力すべき点を見落としたり、混乱したりする弊害を生む

  • ESGの政治化により、ESGの語はイデオロギーの色彩を帯び、冷静な評価や議論が困難になっている

  • ESGについてよりも、「無形資産」や「長期的価値」について議論すべき

  • 重要なのは「それがESGに関係するか」ではなく、「それが企業の長期的価値を向上させるか」

所見
環境・社会(ES)とガバナンス(G)が並列になっていることには個人的にも違和感があったが、歴史的経緯に照らすと、この違和感は然るべきものだったようだ。
以前ご紹介したゴードン教授とはまた別の文脈だが、いずれにせよESGは分解され、より個別的なトピックとして、社会的価値や企業価値との関係とともに議論されるのが適切だろう。


日経225企業、東証要請への対応は約3割(HRGL)(8月25日)

3月公表の2つの東証要請に基づく開示状況をめぐり、HRGLが184社のCG報告書を調査。
開示はいずれも3割にとどまる。

サマリー

  • 「資本コストや株価を意識した経営」(PBR要請)につき開示した企業は53社(28.8%)

  • 財務指標はROEが最多(77.4%)

  • ROICの採用は35.8%、セグメント別ROE/ROICは11.3%にとどまる

  • 現状分析踏まえた打ち手として最多は事業ポートフォリオ見直し(79.2%)。資本効率や還元強化は5割前後。情報開示や株主との対話強化を打ち出す企業は3割弱

  • 「株主との対話の実施状況」を開示する企業は56社(30.4%)

  • うち9割が主な対応者を開示。社長・CEOが対話に対応する企業は87.5%。社外取が対応する企業は33.9%

  • 主なテーマの開示は約7割も、対話内容を取り入れた旨の開示は限定的

所見

  • 日経225企業でも開示が3割にとどまるのは意外。対応が間に合わなかったことや、PBR1倍超企業で開示が進まないことが要因か

  • PBR=ROE×PERなので、指標としてROEの採用が最多になるのは自然。一方、資本コストやWACCを指標とする企業の合計が5割以下なのは問題。重要なのはROEの絶対水準ではなく資本コストとの相対感だからだ

  • 8割の企業が打ち手として事業ポートフォリオ見直しを掲げるのに、セグメント別のROICやROEを指標とする企業が1割にすぎないのもおかしな話

  • 9割の企業で株主との対話の主な対応者が経営トップというのは意外。現場感覚では、SRは現場任せだったり、アクティビストから経営トップとの面談要請があると抵抗感を示す企業も多い。IRや決算説明会への対応を「株主との対話」と誤認している企業が一定数存在する可能性もあるのではないか


2023年度3月決算企業の人的資本開示に関する実態調査(MURC)(8月23日)

日経平均採用企業183社を対象にMURCが調査。
有報以外での任意開示やヒトへの投資は進む一方、依然低い女性管理職比率はじめ女性活躍への取組みは弱い印象だ。

  • 任意媒体による開示で、統合報告書とHPの利用が95%超

  • 「ヒトに対する投資」では、「ダイバーシティ」、「労働安全・健康」、「女性活躍推進法に関する内容」、「全社員を対象とした取組」を記載している企業が50%超

  • 「ヒト以外の設備・仕組みなどに対する投資」は、「記載無し」が40%超で最多

  • 女性管理職比率が10%未満の企業が70%超。最も高い企業でも40%以上50%未満

  • 今後の女性管理職比率の目標値・目標時期(任意記載)の明確な記載がない企業が28.4%

  • 男性育休取得率は20%以上〜100%まで幅広く分布

  • 男女間賃金差異の目標値・目標時期(任意記載)の明確な記載がない企業が大半


今年の有報のトレンドワードは?(PwC)(8月24日)

PwCがテキストマイニングで有報の記載を分析した結果が面白い。

有報に書き込まれた、企業が認識するリスクや課題は、その時々の世相を写す鏡とも言える。
ガバナンスや人的資本への意識の高まり、地政学リスクの認識などが今年のトレンドのようだ。

ガバナンス
「後継」「サクセッション」「スキル」「取締役会の実効性」といったワードが前年比2倍以上増加。
レポートではCGコードの浸透としているが、どれも機関投資家が対話や議決権行使でも重視するテーマであり、エンゲージメントの効果の表れとも取れるだろう。

リスクマネジメント
ウクライナ侵攻によるサプライチェーン混乱を受け、「地政学」が急激に意識されるようになった。
地政学は専らリスクとして捉えられがちだが、米中対立による資金やサプライチェーンの脱中国の流れはチャンスとも言える。

気候変動リスクへの認識は最早常識レベル。

人的資本
今年から人的資本関係の有報開示が義務化されたが、「経営方針〜」の項目でも人的資本に言及する企業が急増した。
人的資本は中長期の経営戦略と一体不可分であり、ここに記載があるかどうかが形式的対応にどどまる企業かどうかを見抜く鍵になのかも知れない。

PBR、ROIC、ROE
PBRを記載する企業が急増も全体の4%にとどまる点は23日の日経に掲載された内容。
注目したいのはROICを記載する企業の増加。
投資効率管理やWACCとの対比ではROICの方が使いやすい指標だ。
ポートフォリオ最適化や成長投資に前向きな企業の表象といえるかも知れない。


東証フォローアップ会議の今後の注目点(大和総研)(8月23日)

3月の所謂PBR要請はじめ、東証の各種施策の出元になっている「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」。
今後注目すべき動きを纏めている。

筆者が言うように、秋からのPBR要請のフォローアップを実効性ある形で行う枠組みの議論が最大の注目点と思う。


日本株投資:条件は整ったか(イーストスプリング)(8月22日)

  • 日本株はPERでは割安ではないが、PBRでは依然割安

  • 「超格安」というより「魅力的」水準で長期投資対象として底堅い

  • ROEは持合株や現金縮減で向上可

  • 日本株の恒久的ポジションをPFに組入れたいと考える海外投資家も多い

  • 相場の一時的下落局面は魅力的な買い場に

https://www.eastspring.co.jp/docs/default-source/perspective/special-report/special_report_20230821.pdf


名目GDP成長率12%、600兆円接近と株価(第一生命経済研究所)(8月21日)

  • デフレで長らく伸び悩んだ名目GDPが足元急拡大、600兆円に迫る

  • 名目GDPと株価には長期的連動性

  • 「名目GDP成長率>金利」が続く場合、企業には借入による投資拡大、投資家には株式購入が最適解

  • 日銀が明確な引締めに転じない限り上記の構図が続くと判断

https://www.dlri.co.jp/report/macro/272901.html


その他(セミナー、新聞記事等)

RIETI特別セミナー『Grow the Pie -パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経済を実現』(9月14日開催)

London Business SchoolのEdmans教授によるセミナー。
20年のFT Book of the Yearに選ばれた、セミナータイトルと同名の著書(名著!)を紐解きながら、パーパスを取り巻く問題について解説。


[CFA Society Japan Webinar]Review of the tender offer rule and the large shareholding reporting rule(9月21日開催)

金融審議会のワーキング・グループで現在議論されている、公開買付制度と大量保有報告制度の改正について、金融庁の谷口企業統治改革推進管理官らが主要論点を解説するセミナー。
ワーキング・グループは進行中だが、金融庁の「中の人」から解説が聴ける機会は貴重。


実証結果も解説:JPXプライム150指数は、もう一段成長することを期待した大型のグロース銘柄を選定【特別対談:後編】(マネクリ)(8月23日)

JPXプライム150に関する対談の後編。

  • 中長期のパフォーマンスは、過去10年間の実績においてTOPIXや指数非選定銘柄を上回る

  • PBR1倍割れの企業が多いのは機関投資家の不作為

  • 市場改革のゴールはJPXプライム150指数がお役御免になること

過去10年のバックテストでは、単年でTOPIXに負ける年はあれど、5年リターンでは全勝。
バックテストでは大型グロース系アクティブファンドともパフォーマンス比較を行なっており、トップクラスのリスクの低さで中位のリターンという優れた結果になっている。

ここまでのリターンは滑り出し順調とは言い切れないJPXプライム150だが、中長期で見るべき指数ということか。


JPXプライム150指数開発秘話:市場の活性化には、「価値創造」と「稼ぐ力」が重要【特別対談:前編】(マネクリ)(8月23日)

7/3から算出開始となったJPXプライム150を開発したJPX総研 高橋氏と、マネックス証券 広木氏の対談。 前編では開発の経緯や狙いを語る。

  • JPXプライム150指数の開発は「価値創造経営」の浸透が目的

  • 「投資家の期待を超える収益性」と「市場で評価される将来性」で銘柄を選定

  • S&P500指数などの欧米の代表的な指数に比べても遜色のないクオリティ

  • 資本コストや株価、投資家還元を意識した経営のきっかけになって欲しい


ブラックロック、ESG賛成票1割以下に(日経)(8月24日)

23年株主総会で ブラックロックのみならず、ESG関連株主提案への賛成率が急低下した今年の総会シーズンだった。
SECの方針変更で質の低いESG議案が乱立したことに加え、米国で政争の具となっているESGから投資家が一旦距離を置こうとしていることもあるだろう。


高PBR株 選別の時(日経)(8月23日)

高PBR企業が自社株買いをしても株価が伸びづらくなっている、との記事。
当然のことだろう。

高PBRたる所以は、ROEとPERの高さ。
PERは成長期待に他ならない。
自社買いは自社株の収益率を上回る投資機会がないことのシグナルとも取れ、成長期待にネガティブに働きうるからだ。


「JTC」改善に世代間対話を(日経)(8月23日)

ニコンCFOの徳成さんのコラム。
JTCでの成長に限界を感じてスタートアップに転じる若者が増えていることを引き合いに、JTCと若いスタートアップの経営者間の深度ある対話を提言している。

以前も指摘したが、成長戦略をなかなか描けないJTCが多いのは「失われた30年」により、リスクを取ってチャレンジする経験やノウハウが社内から失われてしまい、内部昇格の経営者自身もそうした経験に乏しいということが一因だと思っている。
自らリスクを取って成功した若い起業家と対話することで、JTCが成長戦略を描くうえでヒントが得られるはずと私も思う。


資産運用立国に挑む(3)巨大投資家に潜在力 「クジラ」の怠慢、育成弱く(日経)(8月23日)

日本の新興運用会社に積極的に委託するNorgesと対照的なのがGPIF。
日本株のパッシブ比率は93%。
宮園理事長は『国民の年金を増やすことがGPIFに課せられた使命。運用会社を育成する目的の投資はできない』とする。

現場では『GPIFからのパッシブ運用委託は殆ど収益が出ず、広告宣伝費のようなもの』という運用会社の本音が漏れ聞こえてくる。
運用会社は、市場全体の底上げのために多大な労力を対話に費やす。
しかし現場は既にパンク気味。中小型株の価値向上に資するこれ以上の細かな対話は最早不可能だ。

日本株運用の最適解がインデックス運用にあるという主張は理解はするが、公器であればこそ、中小型株の底上げにも資する運用委託や手数料水準の見直しを行い、パッシブ運用の死角や課題を埋めに行く行動を積極的にとるべきではなかろうか。


資産運用立国に挑む それぞれの改革(2)日本株、埋もれた価値探る(日経)(8月23日)

運用資産200兆円のノルウェー銀行(Norges Bank)の外部運用者統括のインタビュー。
99年から日本の新興運用者に資金を委託し、黎明期のスパークスやレオスなどを見出してきた。
『小さく独立した運用会社がよい』とする運用会社や運用者の選び方や、日本株の中小型株への見方などは、個人投資家にとっても参考になる部分があるだろう。


「PBRが課題」最多44社に PwCの有報調査(日経)(8月23日)

東証プライムの1,200社対象の調査。
前期比42社と大幅増になったのは、東証要請の影響に他ならないだろう。
とはいえROEに関しては全体の52%が記載するが、PBRは4%。
有報での記載は必須ではないが、企業が本当に株価やPBRを経営課題と位置付けられているかどうかの表れと取れなくもない。

東証要請を形式的に満たすためにCG報告書での記載でお茶を濁す対応にとどまるならば、経営課題と捉えて真摯に対応する企業との差は開く一方だ。


資本市場に現れた「健全野党」、企業と株主に緊張関係(日経)(8月22日)

YFO(東洋建)、オアシス(ツルハ)など、今年のアクティビストの株主提案には上場大企業の元役員や著名弁護士など錚々たるメンバーが並んだ。
アクティビストの変容とともに、株主提案の取締役候補者になることへの抵抗感は薄れつつある。

記事が「健全野党」と表現するように、経営陣にとっての最大の脅威は、「現体制よりも企業価値向上を実現してくれそうな顔ぶれだ」と株主に思わせてしまう候補者だ。
経歴やスキルだけでなく、具体的な改善案が加わるとより厄介。
常日頃から現体制の妥当性をどう説明するか考えておくことが大切だ。


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