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Diversity&Inclusion for Japan(番外編④-2)〜ゆるく学ぶD&I_フェアトリートメント

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には世界的な最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。

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1.フェアトリートメントとは?

前回はアファーマティブ・アクションについてお話しさせていただきました。今回は、個々の属性に重きを置かない、フェアトリートメントという概念をご紹介したいと思います。文字通り「公正な扱い」という意味で、属性関係なくフェアな待遇を受ける権利があるという考え方です。「えこひいきの逆」と捉えていただくと分かりやすいかもしれません。

家庭や学校、仕事先でえこひいきを体験したり目の当たりにしたことのある方は多いのではないでしょうか。先生や上司から気に入られたり、逆にあまり好かれていないと肌で感じたり、あるいは露骨な待遇の違いに気付いたり。あまり気持ちの良いものではありませんよね。他人から不当な扱いを受けたとき、個人レベルでは劣等感を抱いたり、自己肯定感が低下してしまいがちです。

また、職場などでえこひいきや極端な待遇が起きると、従業員の不満や不信感が積もり、結果的に全体のモラルや生産性が低下してしまうでしょう。よって、一人ひとりにフェアで一貫性のある態度で接することが、組織的な成功に不可欠なのです。

2.異なる文化・宗教・国の祝日を自国の祝日として扱うか?

アンフェアな状況を少し身近な例で考えると、例えば自分の会社にキリスト・ユダヤ・イスラム教徒の社員がいたとします。その場合、その人にとって宗教上大事な日が、現状の日本では祝日じゃないことが多いですよね。おなじみのクリスマスに加え、ロシュ・ハシャナ、ヨムキプール、ラマダン、イド・アル・フィトルなどなど。

例えば、Googleカレンダーにも以下のように宗教上の祝日というものが表示される仕組みがあります。ぜひ皆さんも表示させてみてほしいのです。

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他には、一日に数回礼拝の義務があるけれど、仕事中は頻繁に休憩が取れないかもしれない。または、戒律に沿った食事制限や断食をしたいけれど、条件をクリアした食べ物が中々手に入らなかったり、仕事の付き合いが断りにくい雰囲気があったり。

日本なんだし当たり前じゃん、と思われるかもしれません。だけど、あなたが海外に住んでいて、日本の祝日を一緒に祝ってくれたらどんな気分になりますか?と考えてみてほしいのです。「日本に住んでて日本で働いているんだから日本に従うしかない」と考えるよりなんだかいい気分になりませんか?

外国へ行けば、お盆休みもないし、お正月も三が日は通常営業だったりします。代わりに、例えばクリスマス前後にガッツリ休んで、新年1日2日からバリバリ働く、といった具合に。そこでもし、日本への一時帰国・帰省で長めの休暇を申請したいのに、上司に嫌な顔をされたら「家族や親戚が一同に集まるのはお正月くらいだし、理解してほしいな~日本だったらそもそも休みだしな~」と思うんじゃないでしょうか。周りもちょくちょく休暇取ってるのに、とか。外国では当たり前かもしれないけれど、日本人ならではの不満や不都合が出てくることもあるでしょう。

祝日をはじめ、既存の体制・仕組みはOne size fits all=フリーサイズではなく、そこからこぼれ落ちてしまう人たちもいるという例えですが、フェアトリートメントの本質は「あなたが誰かの立場に立って考えてみる事」だと思うのです。そこで当たり前のやり方を見直すことが、フェアトリートメントへの気づきにつながるかもしれません。


3.フェアネス(公正)とイクアリティ(平等)

ではフェアトリートメントでは「全員同じ」という事なのでしょうか?みんな平等に同じ扱いをすればいいのでしょうか?


少し違います。事情は人それぞれ、という話を先ほどしましたが、同じ組織の人間でも、立場や役割、報酬に違いがあるのは当然でしょう。必要なのは、従業員の役職や業務内容、取り巻く状況やニーズを加味しながら、適切な待遇を考えることです(すなわち、個別対応なのです)。


もし、イクアリティ(平等)が「従業員全員にノートPCを配る」ことだとしたら、フェアネス(公正)は「ノートPCの提供に加え、視覚障害のある従業員には、音声アシスト機能や点字ディスプレイ付きのノートPCを配る」こと。個々人が能力をフルに発揮し、組織としての生産性を最大限にするために必要な配慮がフェアトリートメントと呼ばれるのです。


4.フェアネスに関する職場での権利


アメリカの職場におけるフェアネス関連の権利をまとめると、①安定雇用、②雇用主からのフェアトリートメントに関する権利、③職場内におけるフェアトリートメントに関する権利、と大きく3つに分けられます。


いずれにおいても、ひとりひとりへの「尊重」と「フェアネス=公正性」がカギです。ねらいは、職場全体のモラルや生産性の向上だけではなく、組織のリスクマネジメントとしての一面もあります。


従業員への扱いが企業内外のイメージに直結し、今後のビジネスや採用に影響を及ぼすかもしれない。職場内差別などの事例が出てしまうと、訴訟リスクがあるかもしれない。これらへの対策としても、フェアトリートメントが有効なのです。


①は文字通りなので省きますが、②雇用主からのフェアトリートメントに関する権利を大別すると「従業員のプライバシーを守る」ことと「従業員のパフォーマンス向上のためにフィードバックを与える場面を設ける」ことです。

「従業員のプライバシーを守る」の具体例としては、本人の許可なしに従業員の情報を他社や外部機関と共有しない、雇用記録へのアクセスを許可するなど。アメリカ大企業の過半数が従業員ハンドブックに盛り込んでいる内容です。「自身に関する情報は、必要なときに自分で把握できる・守れる」という信頼や安心感の醸成とともに、従業員への透明性向上が図れます。


「従業員のパフォーマンス向上のためにフィードバックを与える場面を設ける」については、口頭注意、注意書、一時停職、異動または降格、そして最終手段としての解雇など、従業員には段階的懲戒処分を受ける権利があるとされています。もし、これらの処分について「聞かされていない」、あるいは「段階を踏まず、いきなり辞めさせられた」といった状況だと、不当な待遇を受けたと解釈されてしまうかもしれません。一貫性のある規則を元に、言行一致の徹底が求められるでしょう。


職場内におけるフェアトリートメントに関する権利は労働環境にまつわる権利で、他の従業員からの扱いにも言及しています。従業員ひとりひとりが人種、性別、年齢、国籍、障害や宗教に関わらず平等で公正な扱いを受ける権利、また(特に性的な)ハラスメントを受けない権利などが含まれます。


5.何をアンフェアと認識するかが最も重要


日本でも起こり得る「アンフェア」な事例と改善点をいくつか挙げると、

①賃金格差…同じ役職・スキルレベルなのに、性別や年齢などを理由に賃金が異なる→「同一労働同一賃金」を実現する

②物理的環境格差…障害や病気持ちの従業員にとって不便な設備である、または適切な業務量・内容ではない→可能な範囲での環境改善、業務やサポートの見直し

③休暇格差…有給休暇が保証されているのに消化できない→年次有給休暇取得促進


...など。今までの連載では、人種、性別、セクシャリティなどのマイノリティについてのお話が多かったですが、ここでは「内向的・シャイな従業員」も自ら声を上げられないために大変不利な状況に置かれがちです。


従業員の悩みや不満・苦情をくみ取る窓口設置や、問題解決のための調査プロトコルが既に確立されていても、これらの社内での認知度やアクセスのしやすさなど、利用を阻害している要因はあるという事を会社は認識しなくてはなりません。


「フェアな待遇を受けている」という実感を生むためには、何より従業員ひとりひとりが自身の権利についてしっかり理解している必要があります。就労規定などに関して質問はないか、また、複数の解釈ができるため混乱を招く規則はないか、今一度確認してみてるといいかもしれません。


<参考文献>

Fair Treatment In The Workplace,
https://hrsearchandrescue.com/employee-hr-consulting/fair-treatment/

How To Ensure Your Employees Are Treated Equally and Fairly, https://hrtechweekly.com/2020/07/09/how-to-ensure-your-employees-are-treated-equally-and-fairly/

Rights in the Workplace: Everything You Need to Know, https://www.upcounsel.com/lectl-rights-in-the-workplace

Why Treating Employees Fairly is Important, https://hr.sparkhire.com/talent-management/why-treating-employees-fairly-is-important/


著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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株式会社Every 代表取締役CEO

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。

2020年4月1日に株式会社Everyを設立。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(HRBP養成講座)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。

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近松瑛真(Eishin Chikamatsu)

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東京都出身。University of California, Berkeley大学正規留学を通して社会学・LGBT学を学ぶも、結局学外に広がるアメリカ社会の全貌がつかめず。卒業後にキャンバシングを通して文化・教育・政治などにまつわる会話やエンカウンターを増やすことで、英語力アップ&理解を深める。ベイエリアの環境系NPOで営業・採用・ボランティアコーディネーターなどを兼任したのち、日本語を活かした仕事に就きたいと思い立ち方向転換、CCSF医療通訳プログラム首席卒業。現在は某シリコンバレー企業で日本市場の広告QAを勤めつつ、医療通訳・翻訳家、ときどきアクティビスト・オーガナイザー。日米ハーフでトランスジェンダー・ゲイ。

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