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Diversity&Inclusion for Japan(番外編④-1)〜ゆるく学ぶD&I_アファーマティブ・アクション

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には世界的な最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。
https://every-co.com/

(Masa)さてさて、今回は少し真面目なトーンでDEI、D&Iに関連する法律的取り組みについて語ってみようと思うよ。

(Eishin)?

(Masa)アファーマティブ・アクションと呼ばれるものさ。この概念はビジネススクールで勉強した時にもすごく勉強になった領域だね。

(Eishin)いや、それネットフリックスじゃないですか。

(Masa)え?

(Eishin)私からきちんと説明しますね。

1.アファーマティブ・アクションとは

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(Eishin)以前もお伝えしたように、アメリカの職場におけるD&I推進の歴史は1970・80年代に始まると言われてますが、障害、民族、宗教、セクシャリティなどが職場や教育現場の研修で扱われるようになったのは90年代以降なんです。連邦政府や州法で定められた方針が、実際に浸透するまでには時間がかかったんですね。

その中でよく語られるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)は、簡単に言うとマイノリティを助ける仕組みです。歴史的に不利な立場に置かれてきた階層の人たちへの機会を促進するための施策のことです。

有色人種や女性にフォーカスされることが多いですが、対象となるのは障害持ちの方や退役軍人だったりと、さまざまな属性の方です。「公平性を実現するには差別や抑圧の歴史も考慮に入れるべき」という考え方がベースで、現在では主に教育や雇用、政府契約やビジネスの文脈で語られています。

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(Masa)この写真The officeみたいだけど。

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2.アメリカでのアファーマティブ・アクション

(Eishin)アメリカでのアファーマティブ・アクションの歴史は1961年まで遡ります。ジョン・F・ケネディの大統領令が、人種、肌の色、宗教と性別に対してアファーマティブ・アクションを求めました。また、EEOC(Equal Employment Opportunity Committee; 雇用機会均等委員会)の前身となる独立機関を立ち上げたんです。

当初は政府と提携している事業にのみ適用されていましたが、1964年公民権法によって、連邦政府提携の有無に関わず15名以上従業員を抱える雇用主による雇用差別が禁止され、1966年には100名以上の従業員が勤める企業に対してEEO-1民間セクター報告書の提出が義務付けられました。各職場における人種・民族的マイノリティや女性の数・構成比を把握するためです。


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(Masa)ジョン・F・ケネディの話もネットフリックスにあったな。


(Eishin)Netflixソース多すぎないですか?現在、アメリカでの社内のアファーマティブ・アクション計画は、公民権法Title VIIに沿ったものでないといけません。企業によるアファーマティブ・アクションの合法性を測るため、アメリカ最高裁は3つの方針を打ち出しました。

① まず、企業の対策が差別の事実的根拠に基づいたものでなければなりません。必ずしも過去に社内で差別事例があったと認める必要はありませんが、業界内で統計的な顕在格差が証明されている、または差別に対する訴訟を裏付ける事例が過去にあったかを調査する義務があります。


② また、アファーマティブ・アクションの対象外で、直接的恩恵を受けない人たちにとっても障害にならない計画である必要があります。例えば、社内のダイバーシティを追求するがあまり、いわゆるマジョリティに属する社員を解雇するようでは本末転倒です。


③ 最後に、計画は一時的なもので、過去にあった差別の影響が解消されるまで継続されるものであるべきだ、という決まりです。


3.賛否両論なアファーマティブ・アクション

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(Eishin)アファーマティブ・アクションの全盛期は80年代ごろだと言われていますが、当時も今も賛否両論な施策なようです。例えば、採用時に人種などのマイノリティ性を考慮し、優遇すべきかどうか。マイノリティに対して採用試験の合格基準を下げるかどうか。元々男性優位な職場で「2020年までに従業員の3割を女性にする」といったクオータ制を取り入れるべきか。長年の差別や排除の積み重ねを正すために必要だという声もあれば、マジョリティに対する逆差別に当たるのでは?という懸念も出ています。


そのため、現在ではアファーマティブ・アクションを廃止し別の対策を取っている州、引き続き導入している州と地域差があります。廃止している州はカリフォルニア、ワシントン、フロリダなど9州だそう。1996年から昨年までに廃止されています。

4.カリフォルニアでは復活の兆しも?


(Eishin)実は近年、カリフォルニアでアファーマティブ・アクションを復活させようという動きがあったんです。1996年に市民投票によって、公的機関や公立大学が採用時などにダイバーシティを考慮することが廃止されました。でも、昨年11月の総選挙でこれを撤回しようという州法議案16号が提案されたんです。雇用側などがカラーブラインド・ジェンダーブラインドである=結果的に元々優位であるマジョリティの優遇やD&I促進の壁になっている、との懸念がかねてから上がっていたためです。

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<引用元: Proposition 16 asks Californians to give affirmative action another try

結局、この提案は市民投票によって否決されましたが、興味深いことに、反対派の多くはアジア系アメリカ人団体だったそう。アフリカンアメリカンやラテン系など他の人種的マイノリティを優遇することで、学業重視な文化・家庭環境出身のアジア系学生の大学(特に名門の多いUC系列)への合格率が下がってしまうことを危惧したためなようです。

5.日本でのアファーマティブ・アクション


(Eishin)日本では、男女間労働格差を解消するため、ポジティブ・アクションと呼ばれる取り組みが行われていますね。元々日本政府が推進している施策で、2020年までに「あらゆる分野での指導的地位の3割以上が女性」になるよう目指す『2020年30%』目標達成の一環でした。

そのため、ポジティブ・アクションと聞くと、女性のみへの救済措置をイメージしがちですよね。でも、保育や看護など、女性の多い職場では男性への格差是正が必要です。活躍促進のための体制整備、採用、職域拡大、継続就業、環境整備・風土改善など、取り組み内容は多岐にわたります。もちろん、企業によって課題や目標が違うので、職場の現状に見合った対策が必要になるでしょう。ワークライフバランスへの配慮やフレックスタイム導入など、働きやすさの向上を目指す企業が非常に多いようですが、他にも例はたくさんあります。


野村証券では、男女間の職種役割区別を撤廃し、性別が一切関係ない採用を行いつつも、女性が総合職に就くイメージが湧くように講演やキャリア支援制度などを行っています。取り組み以前に採用された50代以上を除けば、従業員の男女比がほぼ半々になったそうです。

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<出典元:『野村證券』女性が長く働ける理由

また、リクルートホールディングスでは、女性研修プログラムやメンターとのキャリア面談、海外エグゼクティブとのネットワーキングなど、管理職の女性比率を向上するための取り組みを実施。また、介護、LGBT、男性の育児・育休などにも包括的に取り組んでいます。数年のうちに、グループ全体で課長職、部長・役員層の女性比率が目覚ましく改善されました。

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<出典元:『ログミーBiz』リクルートの4年間の取り組みでわかったこと

性別に限らず多様な人材の発想や能力を活用することで、社員も貢献度・満足度がアップするし、企業も組織・運営の活性化や競争力の強化が望めます。その一つの方法として、アファーマティブ・アクション、ポジティブアクションがあるというお話でした。

(Masa)あ、、、ありがとう。

まとめ

アファーマティブ・アクションとは、過去の差別行為による影響を排除する目的のマイノリティグループへの優遇措置を指す。社会改革によって人種差別や男女差別が廃止され、 たとえば入学試験や就職試験の場面において 人々が平等に扱われるようになっても、 これまでの不平等な扱いが原因(たとえば、不十分な教育や貧困)で、 差別を受けていた人々はけっきょく公平な競争に参加しているとは 言えない場合があるため。

・アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)とは、 このような構造的不公平さを改善するための方法の一つである。 どうするかというと、特別な基準の特別な枠を設けるのだ。たとえば大学試験において一定数の女性をかならず合格させるというように、 これまで差別待遇を受けていた人々を逆に優遇することにより、 今後の競争がより公平になることを目指す。

・注意点として認識すべきは、「アファーマティブ・アクションはReverse Discrimination(逆差別)と呼ばれるものと常に共存している」ということ。すなわち、「黒人の採用枠を特別に作ることは、白人に対する差別ではないか?」と述べることもできる。時にはそれそのものが差別と判断されるケースもあるため、Affirmative Actionと同時にReverse Discriminationも覚えておくとベター。

<参考文献>
THE HISTORY OF DIVERSITY TRAINING & ITS PIONEERS, https://diversityofficermagazine.com/diversity-inclusion/the-history-of-diversity-training-its-pioneers/
Affirmative Action in the Workplace, https://www.employmentlawfirms.com/Affirmative-Action.cfm
MORE HISTORY OF AFFIRMATIVE ACTION POLICIES FROM THE 1960s,
https://www.aaaed.org/aaaed/History_of_Affirmative_Action.asp

Why might states ban affirmative action?, https://www.brookings.edu/blog/brown-center-chalkboard/2019/04/12/why-might-states-ban-affirmative-action/

Prop. 16 failed in California. Why? And what’s next?, https://newsroom.ucla.edu/stories/prop-16-failed-in-california

ポジティブ・アクション:
https://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html


ポジティブアクションの取り組み事例とは?課題を明確にしよう!: https://mitsucari.com/blog/positive_action_example/


著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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株式会社Every 代表取締役CEO

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。

2020年4月1日に株式会社Everyを設立。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(HRBP養成講座)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。

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近松瑛真(Eishin Chikamatsu)

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東京都出身。University of California, Berkeley大学正規留学を通して社会学・LGBT学を学ぶも、結局学外に広がるアメリカ社会の全貌がつかめず。卒業後にキャンバシングを通して文化・教育・政治などにまつわる会話やエンカウンターを増やすことで、英語力アップ&理解を深める。ベイエリアの環境系NPOで営業・採用・ボランティアコーディネーターなどを兼任したのち、日本語を活かした仕事に就きたいと思い立ち方向転換、CCSF医療通訳プログラム首席卒業。現在は某シリコンバレー企業で日本市場の広告QAを勤めつつ、医療通訳・翻訳家、ときどきアクティビスト・オーガナイザー。日米ハーフでトランスジェンダー・ゲイ。

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