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Diversity&Inclusion for Japan②〜なぜ人はステレオタイプを持つのか

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には細心の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。
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はじめに

人間の認知の仕組みにより、私たちの人間は日常的にこれらのステレオタイプを持つ傾向があります。自分の認知の仕組みを理解することで、読者がどのように自分の持つステレオタイプと付き合っていくべきかを考えるきっかっけを作れたらと思います。

スキーマ(scheme)って知ってますか?複雑な世界を生きるために私たちの脳が編み出した戦略


私たちの脳は日々複雑な情報を処理することに追われています。脳は1秒に4000億バイトもの情報に遭遇しているとも言われます。でも実際はその1%にも満たないものだけに私たちは意識を向けているのです。


なぜ私たちは情報処理のしすぎで、頭がおかしくなってしまう、ということがないのか?それがスキーマの力です。脳が不必要な情報の処理をカットしているからです。

スキーマ(scheme):私たちが自分の周りの世界の関する知識を構成するために使う、特定の物、人に関する心の中のイメージ。


具体例を挙げます。みなさん今から心の中で椅子をイメージしてください。


どのような椅子をイメージされたでしょうか?おそらくみなさん夫々が異なる椅子のイメージを描くと思います。


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脚が長い椅子や、背もたれのある椅子など、それぞれの椅子の特徴はかなり異なりますが、私たちは瞬時にそれを椅子と認識することができます。それは私たちが椅子は「ある程度の高さがあって、座るという目的のためにある道具」という心の中のイメージ(=スキーマ)を持っているからです。

当たり前に思えるかもしれませんが、私たちは子供の時からさまざまな種類の椅子を椅子であると学び、自身のスキーマを発達させることで椅子を瞬時に認識できるようになったのです。

スキーマは私たちが効率的に情報処理をする上で不可欠です。
またスキーマは情報処理だけでなく、私たちがどのように出来事を処理するかにも影響を与えます。同じ出来事を経験しても各個人の記憶が違うのは私たちの認知に既にバイアスがかかっているからでしょう。


スキーマから生まれるステレオタイプ

さて、ここで「ステレオタイプ」についても考えていきましょう。

簡単に説明すると、ステレオタイプは、スキーマという仕組みから生まれる新しいイメージです。スキーマが人々の所属する特定のグループに当てはめられるとそれはステレオタイプと呼ばれます。

ステレオタイプ:特定のグループに関するイメージ。特定の特徴がそのグループのグループメンバー全員に当てはまると考えられる。

私たちの脳のスキーマという仕組みを考えれば、私たちがステレオタイプを持つのはある種、自然なプロセスと言えます。ステレオタイプは日常に溢れています。


例えば、相手が女性、男性、外国人、体育会出身、エンジニア、東大生など、私たちはそのカテゴリーのよってその人物像をイメージする事がありますよね。体育会だったら元気、大阪出身の人ならユーモアがある、などです。このステレオタイプの起動というものは無意識的であり、それは場合によっては私たちの生活を楽に良くしてくれるのです。

例えば、ビジネスでアメリカ人と商談がある時、アメリカ人は陽気で楽観的であるステレオタイプを使い、自分のそういう話し方をしようと考えるといった場合です。

「誰しもがステレオタイプを持っており、ステレオタイプは効率的に相手に関わる上で役立っている」という事をぜひ理解しておいて下さい。



ステレオタイプの問題点


一方、ステレオタイプは個人の特徴を知る上で、間違った情報を与える可能性があります。例えば、アメリカ人全員が楽観的・外交的ではありません。内向的なアメリカ人もいます。自分が持っているステレオタイプを使って、相手を見ることで、脳は楽をする分、そのステレオタイプに当てはまらない相手の情報は無意識に無視するということが起こります。

椅子というスキーマの例に戻って考えてみましょう。
私たちが瞬時に椅子を認識するとき、私たちは各椅子同士の詳細な違い、例えば脚の長さ、材質の違いなどを無視しています。特定の場合をのぞいて、日常生活でこれらの情報を無視することは問題にならないでしょう。


しかし、その対象が人間の場合はどうでしょうか。自分の中にあるスキーマを通して相手を見ることは、相手を深いレベルで理解することの妨げになるでしょう。
そしてそれは友人、取引先、上司、部下との関係を築く上で、どのようなネガティブな影響を及ぼすでしょうか。また、ステレオタイプにとらわれず、相手のことを深く理解するにはどうすればよいのでしょうか。

ここで重要なのは「認知プロセス」というものを正しく理解する事です。

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二種類のステレオタイプ認知プロセス

Devine (1989)によれば、ステレオタイプの認知プロセスには二種類あると言われます。
自動思考プロセスとコントロール思考プロセスです。
ダニエルカールマン氏もニューヨークタイムズベストセラーとなった書籍、Thinking, Fast and Slowの中で二つの思考プロセス違いについて述べています。

自動思考プロセス、コントロール思考プロセスとは

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私たちの思考のデフォルトは自動思考プロセスです。
特定のステレオタイプを持つグループのメンバーに出会ったとき、私たちは自分の過去の記憶をもとに無意識にステレオタイプを起動させます。
しかし、より正確に相手を理解するためには、自動思考プロセスからコントロール思考プロセスに移行することが必要です。自分がどのようなステレオタイプを持っているかを意識的に理解し、その情報を無視した上で、目の前の相手の発言や行動(データ)を注意深く観察することが必要になります。

自動思考プロセスによって私たちは情報処理に圧倒されずに生活することができます。
一方で必要に応じて、コントロール思考プロセスを使用することで、私たちは周りの人々、特に自分と異なるバックグラウンドの人々とより豊かな関係性を築けるのではないでしょうか。

参考文献

InroBloom, https://www.infobloom.com/of-all-that-we-see-how-much-can-the-brain-process.htm

Devine, P. G. (1989). Stereotypes and prejudice: Their automatic and controlled components. Journal of personality and social psychology, 56(1), 5.

著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した4カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

(お仕事の依頼はこちらから)
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著者紹介:池田 梨帆(Riho Ikeda)

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株式会社Every インターン

2021年5月、世界トップクラスの心理学部、University of California, Berkeley(以下UCバークレー)心理学部を卒業。在学中、UCバークレーのビジネススクール、Haas School of Businessのダイバーシティー・ジェンダー研究室で研究助手を務める。心理学を使うことで、人の思考や、グループ内のダイナミズムなど目に見えない要因を可視化し、効果的な問題解決をすることができると考え、特に心理学を使ってビジネスの効率性を上げることに興味がある。

2021年8月より、George Mason University大学院で、Industrial Organizational Psychology(産業組織心理学)を学ぶ。

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