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まんまるの本棚2022

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#読書記録

『人生にはやらなくていいことがある』柳美里

『人生にはやらなくていいことがある』柳美里

いわた書店さんの一万円選書、五冊目。

最近はめっきり本が読めない。

時間はたくさんあるのに、身体は動かず字も読めないし机にも向かえない。

何に対しても否定から入って、新しいものを受け容れるのも難しい。

そんなときに、何か意味のあることをしなければと本書を手に取った。

柳美里さんのほかの著書は最近読もうとしたけど、途中までしか読めなかった。

誰かに選んでもらった本ならどうにか読めるかもし

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『風よ あらしよ』村山由佳

『風よ あらしよ』村山由佳

人に勧められて本書を読む。

フェミニズムやジェンダー論に関わってきながら、伊藤野枝に触れてこなかったのが恥ずかしい。

現代と重なる時分的な読みごたえもあろうが(実際、勧めてくれた人は「今だからこそ読む価値のある本」と評していた)、私は普遍的な自己と社会との闘争として本書に鼓舞された。

上に引用したように、平凡な幸せに執着し抗うことを忘れてしまうのであれば、それこそ「死んだ方がましだ」。

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『カーテンコール!』加納朋子

『カーテンコール!』加納朋子

いわた書店さんの一万円選書の四冊目。

自分なりのペースだけど、一冊一冊楽しんでいる。

ここまで読んだ選書の中でいちばん好みの一冊だった。

トランス、ナルコレプシー、摂食障害、予期せぬ妊娠…などなど、

これまでは光が当たってこなかったけれど確かに存在していた人々を拾ってくれるような話たち。

こんな人生やあんな人生もあるよね、と励ましてくれる一冊。

誰もが大なり小なり問題を抱えながら生きて

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『聖なるズー』濱野ちひろ

『聖なるズー』濱野ちひろ

筆者が、動物と関係を持つ「ズーフィリア(以下、ズー)」についてフィールドワークを通じて学んでいく一冊。

人間対人間であれ、人間対動物であれ、上記のような「パーソナリティ」を関係性ごとに有しているという主張には大いに納得できた。

セックスにおける対等性と性的合意が真に可能なのかを検討する挑戦的な一冊であると思う。

本書が「気持ち悪い」という感想はあまりに表面的だと思うが、少なくともそれが生理的

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『永遠のお出かけ』益田ミリ

『永遠のお出かけ』益田ミリ

いわた書店さんの一万円選書のうちの三冊目。

特段好きな作家さんというわけではないけれど、最近益田ミリさんの作品に触れることが多い。

母親と同じ世代の方だから、価値観や考え方に自分と相違があるのはもちろんだけど(別に世代だけが要因ではないか)、文章からやさしい雰囲気が伝わってくるのは好きだ。

本書は父親の死について書かれた一冊である。

世代の話をしたけれど、この本は読むときどきの年齢によって

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『人質の朗読会』小川洋子

『人質の朗読会』小川洋子

いわた書店さんの一万円選書のうちの一冊。

表紙の子羊の瞳に惹かれ、二番目に手に取った。

南米でテロに巻き込まれた8人が自らの人生の物語を順番に語っていく物語。それらはささいな物語だけれども、ささいだからこそ、その人の人柄や人生の重みを感じさせる。

人は、案外簡単にいなくなってしまうのだとおもう。

そして、一人という個はどこまでも「個」であるとともに、人間という「全」でもあるのだともおもう。

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『こっちへお入り』平安寿子

『こっちへお入り』平安寿子

岩田書店さんの一万円選書の中の1冊。
自分では選ばないような、それでいてどこかで自分が求めていたような、そんな本たちとの出会いをくれる。

つまらない日常を重ねる平凡なOLの日常が落語と出会うことで劇的に変わっていく話。

少し前、大学院に通う主婦の方に対して「大学院は主婦のカルチャーセンターではない」という書き込みがされ、炎上したことがあったが、そもそもカルチャーセンターだって馬鹿にできない。

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『正しい女たち』千早茜

『正しい女たち』千早茜

 千早さんの本を読むのは2冊目だ。
 小説という形をとりながら、今日の女性たちの抱える問題(もっとも、女性たちが抱えさせられていると言った方が正確かもしれないが)について、まるで論文を読まされているかのように切り込んでくる。

・温室の友情

 遼子、環、麻美、恵奈の4人をめぐって進行していく。本書は群像劇のような構成になっており、彼女らはおおよそ全編にわたって登場する。
 男から見た「女の友情」

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『無敵の未来大作戦』黒崎冬子

『無敵の未来大作戦』黒崎冬子

「合言葉は~!?せえのっ!希望~!」

全3巻からなる漫画。

ハイテンポなギャグとその中に垣間見える社会への問題提起が心地よい。

少子化を解消するために、選ばれし資産家の「聖人」が一妻多夫や一夫多妻を許される近未来日本。

この作品の中では恋愛のタブーが存在しない。

複数の伴侶を持つことはもちろんのこと、性別や貧富の差、体系など、「恋愛に必要なこと」とされるありとあらゆるものを登場人物は当た

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『せいのめざめ』益田ミリ・武田砂鉄

『せいのめざめ』益田ミリ・武田砂鉄

最近、知り合った人の影響で図書館に通っている。

図書館は学校のくらいしか利用したことがなかったけど、利用してみると面白い。

街の図書館は「こんな本あるのか」と「この本がないのか」の繰り返しである。

だから、借りたい本を定めて狩りに行っていたあの頃よりも予期せぬ出会いが多くて楽しい。

今回は3冊借りた。

1冊目は、『せいのめざめ』益田ミリ・武田砂鉄(2017)。

コラムと漫画が交互に展開

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