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あえて三十代で村上春樹読む的なサムシング『レキシントンの幽霊』

やあ、僕だよ。飽き性ちゃんだよ。
村上春樹ってジャズとセックス、たまにファンタジーのイメージあるよね。小説を読んでいるとどこかで通る氏の著作だけれど、僕の村上ワールドは『螢・納屋を焼く・その他の短編』が入り口だったな。
筋トレが辛かった時は『海辺のカフカ』の主人公になりきってみたりね(それでも辛い時はハリウッドセレブを装うと乗り切れる)。

そんな僕が図書館で見かけた一冊について、今日は書いていくよ。
ぜひ楽しんでくれると、嬉しいな。

本書あらすじ感想

『レキシントンの幽霊』村上春樹
図書館で借りた。七つの話が収録されている短編集。どの短編も失われたものや失う予感のするものが出てくる為、決して明るいとは言えない。

冒頭、表題にもなっている「レキシントンの幽霊」では、作家の男が「古いジャズ・レコードの見事なコレクション」目当てに知人が所有する古い屋敷の留守番をする話。最初から村上ワールド全開である、と書けばおおよそ内容は想像がつくだろう。
唯一「トニー滝谷」だけはあまり村上春樹氏らしくないような滑り出しだったのだが、

(中略)
ボビー・ハケットとかジャック・ティーガーデンとかベニー・グッドマンとか、その手のハッピーなジャズのレコードを聴き、一生懸命にフレーズをコピーした。

隙あらばジャズとセックスを挟み、たまにファンタジーを覗かせ、暴力(あるいは美しい筋肉)を振りかければ、村上春樹氏らしい何かが出来上がる。
氏の読者は、それらの要素を含んだ平易な文章を楽しみ、散りばめられた難解なメタファーを各々自由に夢想する権利が与えられる。

僕が村上ワールドに浸りたいと思うのは、気力を取り戻したい時である。
テンションを上げたい、意識高くありたい、アンテナを張り巡らすモチベーションが欲しい。
あの頃のギラギラした野生を思い出したい、に近いかもしれない。村上春樹氏に出会った頃が一番無敵だったからだ。

スタバに行って季節限定のフラペチーノしか頼まない君にこそ読んでほしい一冊。
その時はぜひ、音楽好きでやる気のない店主がやってる喫茶店のタバコ臭いソファで読んでみるといいと思う。いや、別に家でもよいのですけれど。

ありふれた村上春樹との遭遇経験

中学生の時に課題図書か何かだったか、クラスメイトに勧められたか何かで村上春樹を初めて読んだ。
それが『螢・納屋を焼く・その他の短編』だった。

作家の名前を見た時、「『ライ麦畑でつかまえて』があの有名作家に翻訳され出版」とニュースになっていたことを思い出し、せっかく読むならそちらから読めばよかったかなと思ったのをよく覚えている。
(その時僕はサリンジャー『ナインストーリーズ』に凝っていて、厭世家でいながらいかに明るく振舞えるかの実験をしていたし、『ライ麦畑でつかまえて』を読んだばかりだった。)

読み終えた時は月並みでつまらない感想しか思い浮かばなかったが、その後何度か読み直し、最終的には短編集を買った。

村上春樹のよいところは題名が格好いいところだと僕は思う。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、である。この題名がついている本を読んでいる自分。
手軽に大人になった気分が味わえるのに、実は村上春樹の主人公は学生や若者が多く、表面的には感情移入しやすいキャラクターであることが多い。

僕は村上春樹を何冊か読んでいるが、その時期は中学生から高校生と非常に狭い時期に偏っている。

急に村上春樹がしんどくなった

ふいに、中古書店で『ノルウェイの森』を立ち読みした時だったと思う。
一度読んでから久しく、どんな内容だったかなと確認するために軽い気持ちで開いたわけなのだが、何だか気分が悪くなってすぐに閉じてしまったのだ。

その後、自分では買わずに知人から借りてもう一度読んだ。
初めて読んだ時は「センスよさそうな人たちの暗い青春格好いい」としか思わなかったのだが、二度目は身の回りの鬱々とした物事が迫ってくるようで吐き気がした

全て読み終わった後、その知人に返してそのままその部屋でセックスした。僕には珍しく、最中に考え事をしていた。
『ノルウェイの森』は二度と「格好いい」と思って読むことはないのだなあ、とセンチメンタルな気分でその行為を受け入れていた。
(まるでそう書くと知人が無理やり僕を手籠めにしたように見えるが、僕が熱烈にアプローチしたのであって、実に見当違いなセンチメンタルだった。当時の僕はそういう、自己中心的な傾向がしばしば見られた。)

見たことない題名を見ると頭にストックしておく

村上春樹が好きなのかと言われると、他に好きな作家がいるんだと答えることにしている。
好意は持っているけれど、常に一緒にいるには辛い話ばかりなので元気を出したい時に読めるよう何となく頭の隅に置いている、くらいのスタンスだ。

彼女のパジャマにはふたつ胸ポケットがついていた。片方のポケットには小さな金色のボールペンが入っていた。前かがみになると、V字形に開いた胸元から、日に焼けていない平らな白い胸が見えた。

今回の村上ワールドも終盤に差し掛かろうとするところ、夫が朝から観ていたプレイステーションのCM集がついにプレイステーション2の年代に突入した。

「君、一四歳の頃さ。プレステのCM集を日がな一日見ている三十代になっていると想像したかい」
「俺もそれちょうど言おうと思ってたんだよね。それ、村上春樹?」
「そう」
「難解なセックスばっか書いてあるやつだ」

「難解な」が「セックス」自体に掛かるのか「セックスばっか書いてあるやつ」に掛かるのかで意味は違うなと思って、どう返そうか迷っていたら懐かしのCMに気を取られて返事するのを忘れてしまった。

「このCMすごい見覚えあるんだけれど、ゲームやったことないわ」

結局「難解な」はどこに掛かっていたのだろう。

「やってるやつ周りにいた?」
「いや、そもそもタイトルすら覚えがない」

話している内、「難解な」はどこに掛かっていようがどうでもよくなってきた。
そうして僕は、かつて吐き気がするほど心を動かしたはずの『ノルウェイの森』の内容をほとんど忘れていたことに気づいた。
今読み直したらどういう感想を持つのだろう。今の僕なら、消耗しすぎず、上手いこと距離が取れてメリットだけ享受出来そうな気もする。

しかしながら、やはり常に一緒にいるのは辛いし、大体メリットだけ享受する態度で村上春樹氏著作を読むのは違うのでは、と僕は思い直したのであった。

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