健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、僕は君が好きだ『大事なことほど小声でささやく』

やあ、僕だよ。飽き性ちゃんだよ。
今日は何だか読んだことのない作家に触れてみたくて、kindleunlimitedの幻冬舎キャンペーンにのせられてみたんだ。
すっごく疲れて、今にも眠りそうなんだけれど、頑張ってnote書いてるよ。
何で疲れたのかって?そりゃあ、号泣も号泣、声を出しそうになるくらい泣いてしまったからさ。
劇場版『まどか☆マギカ』を見てから涙腺がぶっ壊れているんだよね。僕にしては珍しく、冷静になれそうにない。
それでもよければ、楽しんでっておくれよ。

本書あらすじと感想

『大事なことほど小声でささやく』森沢明夫
kindleunlimitedで読了。スポーツクラブSAB(通称サブ)「名物会員」のオカマの権田と愉快な仲間たちの悲喜こもごもを群像劇で楽しめる本。
全六章。スポーツクラブの面々は皆それぞれに問題を抱えていて、権田とカオリちゃんが夜な夜な開いている「スナックひばり」で天啓を得、少しだけよりよい「今」を生きるようになる。どの章もこういった構成であるので、新鮮さや驚きより安心が重視されている。安心して読んでいられるというのは物語への没入感を邪魔しない
結果、僕は号泣した。第一章の「ケラ」は持ちこたえたが、第二章の「ミレイ」が実家の前でカレーの匂いを嗅いだシーンで泣いた(そのあとずっと泣いていた)。
少し外れた現代人の群像劇というと『空中ブランコ』や『ララピポ』(どちらも奥田英朗著)を僕は思い浮かべるのだけれど、それらの登場人物より本書の登場人物の方が真面目でいい人たちばかりだ。これも安心の一要素といえる。

不勉強なもので僕は森沢明夫氏を初めて知ったのだが、多くの作品がメディアミックスされている超売れっ子小説家だった。
確かにこれも映像化しやすいものなあ、と思っていたら、西田敏行主演でテレビラジオ化されていた。映像じゃなかった。でも西田敏行っていうのがセンスあると思った。群像劇といえば西田敏行か役所広司だもの(三谷幸喜の影響か)。

素直に泣きたい、現実世界のひねくれ者のせいで疲れている方にはぜひおすすめしたい一冊。
…明日は絶対泣かないやつ読むか、観るかしよう。

久しぶりに夫の近くで泣いた

夫と一緒に寝転がった僕は電子書籍を読んでいた。
読み始めてから、数分。冴えないサラリーマンの家庭に高校生の、しかも反抗的な娘がいるという設定に気づいた時からなんとなく予感はしていた。
彼女は父を自分のバイト先のレストランに連れてきて、自分の思いを手紙に託し、父に渡す。

あ、これだめですね。

僕はこういう読みやすい文体を書く本で、反抗的な娘が父親と仲直りしないパターンを見たことがない(忘れているだけで一つくらいはあったかも)。
だから、かなり警戒していた。自分の心の動きに注視し、目を瞬き、逆に開いたりしてなんとかごまかした。
が、久しぶりに帰った実家の玄関前に漂うカレーの匂いは反則だ。前章の父と娘と二章の主人公と父がオーバーラップする(ほら、もうこれ書いてるだけで泣けてきた)。

僕は諦めて泣いた。
夫の前で泣くのに抵抗があるが、今回は致し方なしと割り切った。
ホルモンの関係か、それとも連日様々なシナリオに触れているせいで感度が高くなっているせいか。
いずれにしても僕は涙を拭いて、続きを読む。

その時夫は

もぞもぞと体を揺らし、おもむろに夫は起き上がった。
他人の表情に敏感な彼は僕の涙に気づいただろう。少しばかり抵抗があるけれど、十年近く共に暮らしているのだ。こうやって、不意をつかれることもあるだろう。

俄然気になるのは、僕が泣いている状況を彼はどう対応するのか、だ。

第一に、からかう。これが一番可能性が高い。「何泣いてんのウケる」くらいしか僕には思いつかないが、彼は独特のからかい方をしてくるので楽しみでもある。
第二に、慰める。実はこれも結構ある。彼はデブハゲブサイクの三重苦だが、華麗なる交際歴を持っている。ヒモの才能をも持ち合わせる彼は、面倒な女性の対応が一流だ。きっと絶妙な頭撫でと声かけをしてくれるだろう。
第三に、心配する。これはたぶんない。見当違いの行動を彼は取らない。心の中では心配していても、僕のプライドを加味して優しく慰めるかあるいは冗談にしてくれるはずである。

このような考えが瞬時に僕の頭で繰り広げられた。
結果として彼は、『めだかボックス』を再生し始めた(二〇一二年放映のテレビアニメ。西尾維新原作の学園モノが新鮮で中二病でバカウケだった)。

マジかこいつと思ったが、よもや泣いていると気づいてないのではと僕は思い至った。

夫の悪癖

最初に出会った頃から入籍する直前の長い間、彼は極端に僕の顔色を伺う癖が抜けなかった。その癖がたまに、気味の悪い心地がして、僕は何度かやめてほしいと告げた。
特に最初の頃は馴染めなかった。大抵の人間は一年も恋人として接していれば、どこかで緩みが出る。悪い方であれ、良い方であれ、何かしらの素が見えてしまうものだと僕は思っている。
けれど彼は、一年経とうが、二年経とうが、本心が分かりづらい。無表情というわけではないのだ。無表情な人はそういう表情であるので、必ず動作や声色や匂いに感情がにじみ出る。
気を抜いた普段の僕は人の心がわからないとんちきなのだけれど、意識的に観察を怠らなければ僕にだって理論上は理解できる。

そうして観察した結果、彼の癖に気づいたのだ。
僕は彼のバックボーンに思いを馳せた。また、見方を変えれば、この癖は彼の長所たり得るのだろうとも思った。
事実、彼はモテていた。容姿も金も持ち合わせぬ男が何故モテるのか。

彼は相手の顔色を伺い、自分の思いをまったく蔑ろにして、人間関係における最善策を取っていたからだ。

例えば、彼自身すごく疲れていたとしても、僕が「声が聴きたい」と言ったら長時間の電話に付き合ったり、僕が真夜中に呼び出してもすぐに応じたり、行きたくもないテーマパークに付き合ったり云々。
こう羅列していくと何でもないように思えるだろうが、彼の良くないところはこれらを文字通り、嫌な顔一つせずやることなのだ。

泣いてることに気づくと思った理由

僕の夫が今までしてくれたことを友だちに細かく話すことはない。絶対自慢になってしまうし、まったく面白みに欠けるからだ。
いや、これは、強がりである。
僕に自分の意見を言わないのは信用されていないからではないか。
そもそも彼には自分の意見など存在するのだろうか。
僕との付き合いに何の興味もないのではないか。
結局気にしているのはそこだ。人に話すことで僕はその思いに囚われる。僕自身がそうやって、彼の顔色を伺うのに疲れてしまう未来が嫌だったのだ。

さすがに『めだかボックス』が流れている部屋では読書に集中できなくなり、部屋を移動した。ケージの扉を開けるとセキセイインコが寄ってきた。
以前ならば彼は僕の涙に気づき、何らかのアクションを見せただろう。
この間、妊娠を告げた時も自分の思いを蔑ろにして、僕の表情に合わせたじゃないか。

「ふ、ふ、ふ。」

くぐもった声にセキセイインコがぱっと振り向く。
そうだ、彼はまるで野生動物のようだったが、最近ようやく何がしたいのか分かってきたのもまた事実だった。
夫婦になってからも日々、進展している。
そうなんだよ、その通りなんだよ。君が優しくしたいと本当に思ったタイミングだけでいいんだ、いつでも僕を気遣えなくても僕は君を嫌いにならないと信じてくれ。

セキセイインコが泣きながら小声で笑う僕を怪訝そうに見つめていた。

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