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名詞/Noun

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2018年11月の記事一覧

『七味唐辛子』#303

唐辛子のシンプルな辛さを味わう一味とは違う、複数の香辛料の混ざり合う風味を楽しむのが七味唐辛子で、子どもの頃は何に対しても七味を使っていた。味が足りないって理由でなく、なんか刺激が欲しい、という子どもっぽいような大人になりかけてる思春期真っ只中のようなそういう時期の欲求から来ていた、七味ヘビーユーズ。いまは一味と七味をなんとなく使い分けて、辛味が要るのか辛さ含めた風味が欲しいのか、考えながらふりかけている。 このへん、香辛料や調味料を広く使い分けることって、大人の階段の一つだ

『素手』#302

そのとき彼はたしかに、手袋を外してこちらに手を差し出した。そして、私の右手と彼のその右手とで、固い握手をした。 金曜日の夜、続く会社の飲み会でヘロヘロに酔っ払っていた私は最寄駅まで帰れる終電を無くして途方にくれたのち、駅を離れて広い国道を歩き自宅を目指した。勤務先の駅から自宅の最寄り駅までは電車で30分。距離にしておよそ20キロとスマホの地図アプリは表示している。その距離の横には、徒歩にしておよそ5時間かかることが示されていて、また途方にくれる。しかし上機嫌で酔っ払っていた私

『貯金箱』#301

28年生きてきて、ブタを叩き割った経験は未だ無い。 叩き割ったことがあるひとに是非とも聞いてみたい。「砕いたときの感触を言葉にするならばどんな感じでしたか」と。勝手な想像だけれど、誰しもが、ブタさんの貯金箱を金づちで砕く体験をしたいと思ってると、私は思っている。それくらいに、子どもの頃から刷り込まれた「あるべき貯金箱の開封体験」であると、思っている。 それを夢見ていたとしても、私ははじめて使った貯金箱はプラスチック製で円筒形の郵便ポスト型だった。底に半透明のプラスチック製の蓋

『三角形』#300

話は多面体にまで及ぶ。多面を成す面の、最も少ない直線で作られた最も単純な面は、三角形でできている。なにも、正三角形だけを指すのではなくて、とにかく、三つの辺と三つの頂点・角をもつ、平たく尖った形。 「人間を抽象化すると、“いびつな多面体の風船”って思う」という発言はわたしのもので、ただ誰に言ったのかはよく覚えていないのでもしかしたらわたしがずっと頭の中で温め続けている言葉である、それだけかもしれない、それだけかもしれないけれど、なかなかグッとくるのだ私にはこの感覚が。 あるひ

『夕暮れ』#299

昼の暖かな時間も、傾き沈みゆく太陽によって熱の去るのを感じる頃合い、夕暮れ時の空は青からオレンジに変わったいかにも私たちの心に「夕暮れ」を言葉にせずともそう感じさせる。 子どもの頃は、幼い小学生のころは、五時の鐘が鳴り終わるまでに帰るようにと親とのルールがあった。時に破り、時に守り、徹底遵守できたルールではなかったが完全なる無視はすることなく、夕方のうちに家に帰るルールがあった。夏ならば外はまだまだ明るく、冬ともなると4時半ごろには夕暮れを見やって、ボールは見えないし手はかじ

『午後』#298

この調子で時間が経過すると、300番目は『夜』あたりになるのだろうか、と、しかしこう書いてしまうとどうしても『夜』#300とするわけにもいかなくなるので新規に考えなくてはいけないか、それでも、夜になるのかもしれないが。 ここんところ時間についてばかり考えている。午前とか午後とかそういう、時刻から編集された枠組みもそう。正午って呼び名から瞬間概念を考えることもそう。夜勤のリズムが抜けずに3時や4時より遅くなって5時あたりに寝床についたとしてもきっかり目が覚めて覚醒状態で眠ること

『正午』#297

チッ、チッ、チッ、ポーーーン。 午後はまるまる、おもいっ◯りテレビ。 ひとが迎える正午のタイミングは、テレビにあるか時計にあるかスマホにあるか、何かしらの媒体があって「あ、昼だ」と迎えられるものであります。どういうことかって、体内時計で「あ、昼だ」とか、いや、昼ごはん食べるくらいのお腹の空き具合になってきたぞ、とかならありえる。「あ、正午だ」と、これはどうしたって身体で知覚できない、うーん、どう言ったらいいだろう、時計無しに「正午」はありえない、と言おうか、つまり身体の中には

『午前』#296

午前様という言葉の意味を取り違えていたことがわかったのが数日前、色々疲労が重なって午前を寝過ごすどころか夕方17時くらいに目覚めたとき「午前様どころか午後様やな」とか一人で思って、ふと調べてみようと検索したら判明。 わたしの誤解していた午前様は、「寝坊して朝のうちに起きることも、正午より前にも起きることができずに起床が午後になってしまうこと」だった。つまり午前を寝過ごして逃してしまうことを午前様だと思っていたのだ。しかしそうではなかった。結構、驚いた。本当は、夜の飲み会や夜遊

『イヤホン』#295

こだわりと節約の狭間で。 いまは、iPhoneに付属してきたものを使っている。 嗜好品というとチョコレートとかタバコとかコーヒーとか、風味や香りを楽しむため摂取するもので、栄養を摂るための食べ物とは違って好みによって楽しむもの、としておおよそ経口のものを指す言葉としてあるけれど、嗜むものとして感覚的に、耳から入れる音への、聴覚的な嗜みの一つとしてイヤホンやヘッドホン、スピーカーの類いも、なんだか「嗜好品」と言いたくなるなぁと思って書き始めたこの段落、この段落は途中で「嗜好品」

『ねぎとろ』#293

言うまでもなく、すき身のマグロと小口切りにした万能ねぎと合わせて盛ったもの。寿司ネタとして、軍艦巻のネタとして乗ることが多い。あとは丼ものの具材としてねぎとろ丼と称されるものがある。 あえて、きちんと書いた。マグロのすき身を万能ねぎを合わせたものだ、と。 うちだけでなく少なくない家庭で、スーパーでお目にかかるマグロのすき身を、「ねぎとろ」と呼んでいることと思う。実家の食卓で、「ねぎとろ買ってあるから、ご飯にのせて食べてもいいよ」と母から言われたことは何度あったろうか。実際に数

『もみじまんじゅう』#292

秋ですね。山の紅葉のニュースが舞い込みはじめる。路線バスの旅とかいい旅とか夢気分とか、紅葉シーズンの行楽地に行って「わぁ〜」って声を上げて、こちらボリュームを下げて、おだやかな気持ちで「あぁ秋だな」と思う昼日中。到来するものは秋。黄色く色づきはじめる街中のイチョウ、赤く染まりつつある山中のイチョウ、そしてモミジ。 広島のもみじまんじゅうは果たして、バカには見えない黄色とか赤色とかそういう季節柄を出しているのかね、実は。春は緑で夏には緑色が濃くなり、秋口に差し掛かると黄色く、そ

『パジャマ』#291

ときどきありますよね、カタカナだから外来語なんだろうな、って思うけど英語とかラテン語とかそういう感じでもない語源のわからない語感のもの。パジャマ、これもまた、いったいどこの国由来のどこの国からの外来語ですか、って感じ。今回は、寝間着について書きたいっていうより、パジャマの言葉の響き、外来語としての違和感について主に。 まず、どうやら日本に伝わったのは英語圏からの「パジャマ」(pajamasあるいはpyjamas)が確かそう。英語でも、パジャマと言う。日本では、とまで大括りにし

『草食』#290

草食男子、肉食女子。“普通”と逆だと思えてしまうから“あえて”わざわざくっつけてる単語にちくちくと気持ち悪さを感じるのもそれは過去のことでこの二つの単語自体も普通、そう普通の言葉になってしまったからただのジャンルとして受け止められる今。それでも、肉食男子はただの優良健康児だし、草食女子は食生活の整った健康女性かなあるいは糖質ダイエット中かしら、なんて思うからどうも普通に食生活のことを考えてしまうし、恋愛観に結びつけては先んじて考えない。 転じて、草食動物と肉食動物について、メ

『やきそば』#288

あの、縁日とかお祭りで食べるのだったり、休日の昼飯にちゃちゃっと作ってフライパンごとテーブルに持ってって家族で食べるのだったり、あるいは中華屋さんで食べる本格派なものだったり、色んな人に色んなやきそばのイメージというか原風景・原体験があることと思うわけだが私がやきそばでイメージできる光景は先に挙げた2つ。中華屋さんの本格派は思いつきというか、安っぽくない方面でのやきそば体験を挙げてみたところ。 3玉98円のソース焼きそば(ソースは粉末な)は、あ、そうだ、質素倹約を志したときに