『七味唐辛子』#303
唐辛子のシンプルな辛さを味わう一味とは違う、複数の香辛料の混ざり合う風味を楽しむのが七味唐辛子で、子どもの頃は何に対しても七味を使っていた。味が足りないって理由でなく、なんか刺激が欲しい、という子どもっぽいような大人になりかけてる思春期真っ只中のようなそういう時期の欲求から来ていた、七味ヘビーユーズ。いまは一味と七味をなんとなく使い分けて、辛味が要るのか辛さ含めた風味が欲しいのか、考えながらふりかけている。
このへん、香辛料や調味料を広く使い分けることって、大人の階段の一つだよなぁなんて思ったりする。いまは普通に使っている山椒や酢、胡麻ドレッシングもフレンチドレッシングも、子どもの頃には手を出すことなし、お店で出てきたらそのままだけれど自分の家の食卓にあって欲しいとかかけたいとか、あえても思わなかったものたちだ。タイ料理店でかける、こーれーぐーすーみたいな唐辛子油も、ナンプラーも、香辛料ミックスのふりかけのようなものも、なかった。イタリアンのお店で使うタバスコもオリーブオイルも、中華で使う酢も豆板醤もコチュジャンも、そう。多種多様にある調味料は子どもの頃には触れることがなかなか無かったし、「これはこの調味料の味か」と知覚・認識しながら食べることはあまりなかった。珍しいものに触れて「おっ、これはなんだ」と思うことがあっても、その思いの心当たりは、高校生以降になる。それで、高校生くらいの頃だったと思うけど、一味と七味の使いどころで「あぁ」と納得した体験が、うどんとそばを食べたときにあった。スキー場で食べた、かけうどんかかけそばで「これは七味だわ」と納得して、どっかで食べた、ざるそばで「これは一味だわ」と納得した。あたたかい出汁をかけた、うどんにしてもまぁそばにしても、原体験がどっちだったかは覚えていないけれど、一味唐辛子の辛味だけだと物足りない。七味唐辛子なら、温かい出汁からの湯気にのった風味が嗅覚を刺激して、スキー場のそっけないうどんだかそばだかの味に複数の味を加えてくれて、舌が慣れたあとの味調整に抜群に合うとわかった。かけには七味。一方の一味は、ざるそばに合うんだとわかった。蕎麦の風味は第一に考えるべきで、七味を追加してしまうとぼやけてしまう。ピリッとした辛味を、わさびとは違う味を欲しくなったときに一味唐辛子で足してやると美味い。
そんなふうに唐辛子の使い分けを舌をもって知ったわけなんだが、食卓にある七味唐辛子の賞味期限が2年前に切れているもので、これで「違いを」だの言ってる口もどうかしてるもんだと思うところ。
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