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初投稿:可愛いから魔法少女になりたかった

魔法少女になりたかった。

悪と戦うのに興味はなかった。小さなあたしは、年相応にCMで見た可愛いおもちゃをほしがる、ただの女児アニメファンだった。

あたしと同世代、中高生の女の子は、一度くらい将来の夢がプリキュアだった時期があるんじゃないかな。
将来なにになりたいか、と大人に問われたとき。キラキラした、可愛くてお姉さんっぽい職業を「プリキュア」しか知らなかったんだと思う。幼稚園に入園してしばらくすると、あたしの夢は「ようちえんのせんせい」に変わったから。

小さなあたしの将来の夢がプリキュアだったことを、あたしは大きくなっても覚えていた。
小学3年生のときに魔法に憧れて読み始めた児童文庫「黒魔女さんが通る!!」のチョコちゃんが、小学5年生から6年生へ進級したけど、とうに追い越してしまった。

テレビの中のプリキュアは、ほとんどみんな新学期から中学2年生の女の子。不登校のまま迎えた中学2年生の春に、ひどく落ち込んだ。
ちょっと勇気を出して別室登校の通学路を歩いても、別世界からやってきた妖精ちゃんは空から降ってこない。

でも、テレビの中には中学3年生のプリキュアもいた。だからあたしは、卒業まで希望を捨てないでいた。いつか妖精が現れて、キラキラの光に包まれて可愛い衣装に変身できるんじゃないか。8畳ほどの散らかった部屋のなか。通信制教育のZOOMが開かれたPCの前で夢見ていた。
卒業式への通学路を歩いても、別世界からやってきた妖精ちゃんは空から降ってこない。
クラスの教室にろくに入らなかったあたしは、プリキュアのメンバーどころか中学で新しくできた友達すらいなかったから、幼稚園からの幼馴染と写真を撮った。

プリキュアの鮮やかさとも、黒魔女さんのゴスロリの華やかさからもかけ離れた、田舎の地味な制服が、あたしの人生最後の学生服だ。
もう、魔法少女にはなれそうにない。中学3年生にもなって、そんなことをようやく理解して泣くとは思わなかった。


ところであたしは、制服のない通信制高校の2年生になった今、また魔法少女になりたいと思っている。

TikTokで可愛い女の子を見て、Instagramで可愛い服を見て、Twitterで可愛い人間の日常を見て。
その中には魔法少女を名乗っている、あたしより年上の可愛いひとが、たくさんいたのだ。小さな頃からの夢を実現させた、自分の思う可愛いを詰め込んだ、努力の魔法少女。
現実逃避として妖精ちゃんを待っていただけで、月日の経過とともに魔法少女を諦めた中学生のあたしが、いかに馬鹿らしいのかがわかった。

悪と戦うのに興味はなかった。大きくなったあたしは、年相応にSNSで見た可愛いお洋服をほしがる、ただの少女趣味だった。

魔法少女になろうと思う。

2022/04/16(土)ねがえり


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