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「マダム・ポプスキンの憂鬱」お薦めレビュー 参考文献は論文という完成度の高いミステリーホラーノベルで豊かな休日を!

 今回紹介するのは、フリーのミステリーホラーノベルゲーム「マダム・ポプスキンの憂鬱」です。まるで仕立て屋が丹精込めたスーツかのようにバッチリ決まった贅沢なノベルゲームだと感じました。プレイ時間は短いものの本当に満足度が高く、休日に時間を取ってこれを一気にプレイするのをお薦めしたい作品です。

・あらすじ

山に囲まれた鉄鋼の街『ローレル』は、元貴族であるポプスキン家を中心に発展してきた小さな街だ。
豊富な鉱物資源を背景に発展してきた街は、ポプスキン家の当代当主『オディール・ポプスキン』の手でさらなる発展を遂げた。大きな富と名声を築いた彼女を、街の人々は敬愛と畏怖をこめて『マダム・ポプスキン』と呼ぶ。
そんな彼女が、探偵の『私』に40年前に起きた『ローレルの古城』での出来事を調査してほしいという。

公式サイトより

・ゲーム内容

(この先ゲームのネタバレを含みます。ミステリーの真相にふれるネタバレは排除しているつもりですがご了承ください)

 朝・昼・夕方・夜の行動を選び、捜査を進めていくアドベンチャーノベルゲームです。時間帯ごとにどこに行くのかを決め、そこで何をするのか、どういう話を聞くのかを選んでいきます。

オディール・ポプスキンに招かれ、捜査が始まります。

 基本操作はマウスのクリック、あるいはスマホ画面のタップで終わるので難しいことはありません。捜査でわかったことは「捜査手帳」、次何をすればいいかは「行動指針」に自動で記録されていき、それを参考に行動を決めていくことができます。選んだ行動によって行ける場所が広がったりイベントが発生して物語が展開していき、指定の日までに調査を終えることが目標となります。

・おすすめポイント①クリエイターの気合が伝わる、徹底的に作りこまれた「自然な」物語世界

 「マダム・ポプスキンの憂鬱」は作り手の熱意が強烈に伝わってくる作品です。ゲームを起動してすぐに出てくる作者ロゴ、ローディング画面、そして画像とBGMのバランスが完璧なオープニング画面、この連続だけで「このゲームは気合が入っている」ことが伝わってきます。

本当に絵のおしゃれさとBGMでしばらく見ていられるオープニング画面

 ゲームをプレイしている間も、背景一つ一つ、セリフ一つ一つにこだわりを感じます。ローレルの街の風景を見るだけでも、とても楽しめるでしょう。


町並みは実際の写真を加工して使っているようです

 また、びっくりしたこととして、このゲームは参考文献として論文が2つ提示されています!正直それを知ったときはフリーゲームでそんなことある!?と素直に思いました。この記事を書くにあたり私も論文に軽く目を通させていただきました。どちらもフランスにおける衰退産業地区の転換についての論文で、この物語の世界観を作る際のベースとなり、リアリティを増すものになっているのでしょう。

このローレルの町並みがとても自然にできています

 このゲームをプレイして感じることとして、街の風景、施設の種類やその並び、そこに生きる人々の姿がとても自然なものに感じられるというものがありました。それは、おそらくこの論文の採用からも感じられる、都市開発や発展のリアリティやセリフ一つ一つへのこだわりの積み重ねが要因なのでしょう。
 演劇の話なのですが、まるでその場のアドリブのように演者が自然に動き、会話している様に見えるんだけど、実は演出家によって発話のタイミング、体の動かし方など細部の細部まで指導がされていて、それによってむしろ自然に見えるという、そういう演出について聞いたことがあります。このゲームもそのように細部を詰めることで自然さを演出しているのでしょう。その世界観を味わうだけでも心地よくて贅沢だと感じられる作品です。プレイするだけでちょっとした旅行気分を味わえるのではないでしょうか?

市井の人々の姿の描き方もよいです。街が生きています。あとおいしそう…

 また、作者であるとてちけ様がnoteの方に今作についての記事をあげてくださっています。私はゲーム制作には明るくないのでティラノスクリプトについての記事は「そうなのかぁ」と思うだけでしたが、デザインについての記事は本当に楽しませていただきました。作者様の熱意が伝わると思いますのでぜひご覧になってください。

・おすすめポイント②ちゃんと推理が求められる、けど難しくはならないゲーム性

 このゲームの特徴として「ちゃんと捜査をしている」感が強いということがあります。前述のとおり、このゲームは時間帯ごとの行動を決めていくのですが、いきなり複数の資料が提供され、それに伴い捜査の方向が複数提示されます

最初の情報が多く、選択が生まれます

 そのためプレイヤーは自分でどのような順番で捜査を進めていくかを判断していくことになります。単純に自分が興味ある順番で捜査してもいいですし、順番を論理的に考えるというのもいいでしょう。たとえば他の場所で情報を集めてから行くとイベントが発生したり、一度の探索で得られる情報を増やしたりできます。ちなみに街をただ観光することも可能です。
 ただそれだけ選択肢があると今何をすればわからなくなるのではないか、と思うかもしれませんが、このゲームには前述したような「行動指針」や「捜査手帳」があり、自動で情報をとてもきれいに正確に整理してくれるため、推理が非常にやりやすくなっています。

これが行動指針(ぼかしはネタバレ回避です)
調査手帳もこんなに使いやすいです(こちらもぼかし処理をしています)

 また、街の各所は行ける時間帯が開店時間やその場所で会える人の事情によって異なっています。それによっていつどこに行けばいいのかというパズル的な謎解きが生まれていると同時に、プレイヤーの選択肢を減らし判断をしやすくするという機能を果たしているので、本当に「どうしていいのかわからない」ということはないでしょう。なので推理を楽しめると同時に、推理が煮詰まって本当に進めないということは起きづらいゲームデザインになっています。

行動選択のUIも非常にきれいです

・おすすめポイント③物語を進むごとに見えてくるキャラの魅力

(ここからの描写は、物語の展開を察させる可能性があります。ネタバレが気になる方はぜひ今からプレイするか、この記事の目次から次の項目をお選びください)

私の推しキャラはミラベルさんです!

 ミステリーやサスペンスの魅力の一つに、謎や登場人物、そして物語世界の秘密が暴かれていく中で登場人物の人間性に触れ、その人の見え方が変わってくることがあると思います。
 このゲームもまさにそうで、多くの登場人物が当初は「何か怪しいな…」と思わせられるのですが、物語の展開に従って少しずつそのキャラの人間性や魅力に気づいていけます。このあたり、前述した自然な世界観がキャラクターの魅力を引き出すベースになっているのだろうと思います。このように、捜査を進めていく中で人の真の姿と向き合うことになるという展開は、個人的には大泉洋さんと松田龍平さんが探偵のコンビを演じられた「探偵はBARにいる」シリーズを思い出しました。
 このゲームのプレイが終わるころには各キャラそれぞれに違った好感が持てていました。ぜひ登場人物の今後や前日譚、スピンオフとか出てくれたらとても嬉しいです。
 ルネは本当にいい子だなーって思いますし、アルノーもあのあたりほんといいですし、特に印象に残っているのはあのタイミングでジョルジュがあのセリフを言うところです(どこだよ)。また、とりわけオディール・ポプスキンに関してはかなり心証が色々な方向に揺れ続けるのではないでしょうか?そこも含めて、ミステリー物として押さえるべきところがバッチリ押さえられている、言ってしまえば最高に決まっているので、エンディングを迎えたときに「いいミステリーを楽しんだ!」という充実感が私にはありました

ルネはほんとうにいい子

・こんな人にお薦め!

①作者の気持ちの入った作品をプレイしたい人
②ミステリーを味わいたい人
③一日暇なので、ちょっと旅行気分で世界観を楽しみたい人

・プレイ時間:4~5時間
・プレイ環境:Windowsまたはブラウザ起動(スマホ可)

・おわりに

 今回はミステリーノベルゲーム「マダム・ポプスキンの憂鬱」を紹介しました!このゲーム、「次は何を実況しようか」という時に、かつてスマホの推理ゲームを実況したのがよかったなぁと友人と話していたら、まさにそのタイミングでたまたまTwitterに流れてきて「推理物の話をしている時に推理物がきた!」ということで遊ぶことを決めたものでした。そのような偶然から出会えて、本当に良かったと思います。本当にお薦めできる作品です!

・おまけ

「マダム・ポプスキンの憂鬱」の自分が配信をした時のアーカイブです!できればプレーしてエンディングを見終えてからご覧ください。


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