2023遊んだフリーゲーム10選+ベスト1(+殿堂入り1本)
はじめに
去年に引き続き2022年に遊んだフリーゲームの中から10選+ベスト1の11本を選ばせていただきます。今年はそれと別に1本「殿堂入り」作品がありますので最初に紹介します。ベスト10選に関しては紹介順は「順位」を表すものではなく、私がダイスを振って順番を決めています。
各作品には短評の他、去年と同じく各作品を一語で表したものをサブタイトル的につけています。また、手前味噌ですが実況やレビューをしている作品についてはリンクを最後に貼っています。ぜひ年末年始のお時間ある時、遊ぶ作品の参考になればと思います。
2022年のベストフリーゲームに関してはこちらをお読みください。
殿堂入り
星影の館殺人事件 ー「優美」ー
かつてのコマンド選択式アドベンチャーを踏襲したレトロスタイルのアドベンチャーゲームとなります。ドット絵と8bitBGMの組み合わせで情緒たっぷりに描かれる古き良き時代と、時間の流れがゆっくりになるような洒脱なセリフ回し、それらを浴びているだけで大満足できる優美な作品です。
怪異ホラー×ミステリーという組み合わせも、ルールの設定や呈示、恐怖演出などが絶妙なバランスなのでどんどん物語に引きこまれていきます。捜査や推理では謎が連鎖的に解けていくミステリー的な喜びを味わえますし、とにかくあらゆる方向でクオリティが高い作品です。
このように最高の作品なのですが、私は今作の紹介動画を作者様の企画で作った経緯がありますので今回の10選+1においては「殿堂入り」という扱いにさせていただきます。
ベスト10選
「君もたすけてくれないんだね」 ー「誠実」ー
お隣さんを「覗く」という、作者自ら「露悪」を謳うノベルゲームとなっています。
とにかく強烈で私に明確に「突き刺さった」作品でした。実況をしている際には私自身が明確にダメージを受けてしまった、それぐらい強烈な作品です。物語が進むたびに少しずつ広がる不穏感、不信感、画面全体を包むくすんだ色使い、一人称主観視点で描かれるテキスト、その全てがこれでもかというほど露悪を体現し、それがエンディングで強烈に結実します。
しかし、この作品は決して無暗に人にダメージを与えようとしている作品ではないと考えています。この物語、登場人物ノベルゲームという表現方式、そして人間という存在に誠実に向き合ったが故の露悪、それが今作なのでしょう。注意点の多さからもわかるように人を選ぶ作品ではありますがノベルゲームを愛している人にこそ体感してほしい作品です。
道徳ビデオ ー「徹底」ー
いじめをなくすために道徳ビデオを作るという企画と、時が経ち関わっていた人々がその時、そしてそのあとどうなってしまったのか、その顛末を時系列と主観視点を切り替えながら描いていきます。
時系列と視点がころころ入れ替わるのですが、その転換が徹底して整理されていて、よどみなく物語が伝わってくる手腕がとにかく素晴らしいです。それによって一つの物語が多角的に描かれ非常に厚みが増し、よりその抜け出せないような苦しさが際立たされます。
「登場人物は全員クズ!!」とあるように、感情移入しやすい善人はいないですし非常にきつい展開が容赦なく続くのですが、それでも描写とストーリーを徹底して容赦なく描くことでむしろ登場人物へ単純に切り捨てられない複雑な思いを抱かせてくれます。私も小説を書いた経験があったり、物語を分析する人間として、とにかく作者の物語構築能力の高さを感じる作品です。
大正占術奇譚 ー「憧れ」ー
占いをテーマとした大正時代を舞台とした複数の物語が描かれていきます。キャラクター、デザイン、ストーリーの展開、演出の「間」、セリフ回しなどゲームの全てから私たちが「大正」という言葉に抱く「優雅で、活気があって、おしゃれ」といったほのかに抱く憧れが沸きあがってきます。自分がフィクションの中の「大正」という異世界に入ったらこんな気分なのかな?と思いながら遊べるでしょう。
エンディングは細かく分岐しますが分岐条件はわかりやすいですし、フローチャートで管理されているのでとても遊びやすい作品となっています。分岐と伏線回収により物語が繋がっていく感覚は最高でしたし、ゲームを終える時には素直に拍手が出る作品でした。また物語的ギミックが各所に溢れていて、次はどんな風に楽しませてくれるんだろう?とわくわくしながら読み進めていけます。
未来都市の氾濫 ー「絶品」ー
AIが進化する先進都市を描いたディストピアSF作品になります。
ディストピアSFの楽しさ、面白さがこれでもかってぐらいたっぷりと味わえる絶品の一作となっています。読んでいてとにかく「いいSFに出会えた!!」という高揚感を覚えた作品です。
また、SFとしての設定の面白さももちろんですが、「物語」としても文章力や構成力が高く、ストーリー展開、語り口、セリフ回しなどとにかく全てにおいてレベルが高く、どんどん読み進めていってしまうでしょう。AIの話でありながら物語としては「人間」が描かれているところも本当によくて、止まらなくなること請け合いの作品です。昔のPCのアドベンチャーゲームを思わせるUIデザインと、BGM,SEのタイミングによる演出も非常に印象的です。
正直、まだ広まっていない作品のように感じますので、ぜひ多くの人に楽しんでほしい作品です。
My Fire ー「圧巻」ー
年のせいかノベルゲームを読んでいると感情が動きやすいと思うのですが、とはいえ実際に涙が出た作品はさすがに珍しいですし、今年は今作だけだったと記憶しています。とにかく「エモ」と言う意味では間違いなく今年ベストだったと思います。
食べられる炎というSF的な設定と、それによって日本がどう変わったかの描写がリアリズムがあり非常に面白いです。また、青い炎の髪の少年であるホノオも非常にかわいらしく面白いです。だからこそ…、ね…。
昔のPCゲームのようなグラフィックとBGM、そして「ハートウォーミング鬱SF」というジャンル説明の通りにどんどん陰鬱さをはらみながら展開する人間ドラマと、全ての要素が素晴らしいです。そしてそれらが絶妙に組み合わさった時、言語化できないような強烈な感動が生まるのを感じる作品でした。特に終盤のあるシーンでは、そこで描かれている画像以上の世界や空間の広がりや、作品の中で印象的に描かれつつある青色が最高に物語的な意味を持ちながら映像的にも映えている本当に圧巻のシーンで、私が泣いたのもそのシーンでした。小さい規模ながらも、本当に大きなスケールを感じる作品です。
千代に八千代にアユミズム ー「直撃」ー
幼馴染に二度目の告白をするという恋愛ものノベルゲームになります。
とにかくこの幼馴染の「あゆむ」がショートヘア好きの私にどストライクでした。完全に直撃しました。間違いなく今年のフリーゲームタイトル画面第一位です。
遊んでみても単純に顔というだけでなく物語的にも実際にあゆむがとにかくかわいく愛おしく、そして有名なフリーBGMをてらいなく使う演出や爽やかなストーリー、明るいユーモアのセンスなども含め、青春や初恋というものが持つ、あるいは持っていてほしい輝きに溢れたキラキラしている作品です。なにより「最強に可愛い幼馴染」というかなり強い謳い文句がその通り可愛いという希有な作品です。
Serpenters ー「ヤバい」ー
ブラック企業とかいうレベルじゃないぐらいヤバい企業からの脱出を目指すアドベンチャーゲームとなります。
レトロかつサイケデリックでホラー味もある映像センス、ダンスミュージック的なBGMの持つグルーヴ感、脱出ゲームとしてのゲーム性とストーリーテリングの高レベルな融合、想像を様々な角度から何回も何回も超えてくるシナリオ展開と、遊んでいて「この作品ヤバい」「この作者ヤバい」と感じさせる、特別なセンスが爆発している作品です。「えっ」と思うような飛躍した展開や現実離れした設定も多いですが、それをリズム感や、突飛ながらも私たちに通じる部分もあるキャラクターの魅力で飲み込ませてくれるのが最高に心地いいです。特に各エンディングは本当に最高のグルーヴ感なのでぜひあのヤバさを浴びてもらいたいと思います。
Dear Journey:Happy Birth Day ー「希望」ー
お手伝いロボットとなってお世話をしている少女への誕生日プレゼントを探し、作っていく作品です。
かわいらしく美しいドット絵がどんどん動き、そこにFM音源風のBGMが最高に調和して遊んでいるだけで自然と顔がほころび笑顔になってきます。そして今作はとにかく文章力が素晴らしいです。ロボットのセリフ回しは優しさと、ロボットらしい冷静さゆえの切なさに溢れていますし、ある「七文字」の使い方に本当に「うわぁ、うまい……!」と心から唸っていました。決して難しくもないのも素晴らしいですし、いい文章を読みたい!と言う方にお薦めです。
あらすじに「変わってしまった世界。」とある通り物語には優しい雰囲気とは裏腹に通底音として悲劇性や苦味、絶望感が漂っています。プレゼントを探すときには周囲にある物とそれにまつわる思い出を知り、そこからこの世界の事実を知ることになるでしょう。それでも、むしろそれだからこそ登場人物のいきいきとした姿、その旅路に希望を感じ、プレイした後は非常に爽やかな気持ちで「ああ、今日は今作が遊べていい日だったな」と思えた作品です。
ままごとのショーティカ ー「芸術」ー
ショーティカという人形により突然見知らぬ部屋に閉じ込められるところから物語は始まります。そこからショーティカの話を聴いたり、脱出を目指したり、はたまた…と色々な選択や行動を行い、それによって部屋や物語がどんどん変化していきます。
このサムネイルのショーティカの姿に「おっ、いいな」と思えた方はぜひ遊んでほしいです。とにかくショーティカの差分が多く、いっぱい動いてくれてそれが全て非常にかわいらしいですし、さらには物語的にも非常に意味を持っています。私は前半のショーティカの姿のあらゆる意味での完璧さに「あっ」と声が出るほどでした。
画面全体の構成を考え抜いたデザイン、変化の描き方、抑制的なクラシック音楽、ショーティカの姿や言動の端々から漏れ出してくる悲哀、その全てが相まって一つの作品として強烈に印象に残ります。とにかく一つ一つの要素が美しく、とんでもない精度で作られた作品です。「ゲームって総合芸術なんだな」と改めて思わせてくれます。
Snow Girl ー「現実」ー
捨てられたアンドロイドを拾った青年の物語となっています。
非常に短い作品ですしネタバレしたくない作品なので語れることは少ないのですが、あらすじの
「雪が溶けるまでのお話。」
という一言が読み終えた後どすんと突き刺さってきます。
ゲームとは当然「虚構」なのですが、この作品を遊ぶと「虚構」と「現実」、その境目について色々思うことになるのではないでしょうか。いったい彼らはどうすればよかったんだろう。そのように、この物語のことを折に触れて考えていることがありました。個人的に刺さる部分も強い作品で、もしこの作品にパッケージ版があったらそのパッケージごと彼らを抱きしめたくなるような、そんな私にとっては忘れられない作品です。
ベスト1
古都の謎解物語 幻の湖の演舞劇 ー「型」ー
架空の東洋世界で、官営の学問所の学生が既に消失した演舞劇について調査をする探索型アドベンチャーゲームとなっています。
アドベンチャーゲームというと脱出ゲームや殺人事件の推理であったりすることが多いと感じます。それゆえに今作の「学術調査」というテーマは興味深く惹きつけられましたし、学術調査という特徴を生かし、文献や聞き取りなどを通じて作品世界をプレイヤーに伝えてくれる、この仕組みが秀逸で「この世界面白そうだな」と興味を持って作品に取り組めます。
画像生成AIを利用した「私たちの世界に近いけどちょっと違う」感も非常に作品にマッチしています。登場人物がほとんどみんな親切で明るい人であることも含め全体にカラッとした雰囲気で物語が進むのも非常に心地よいです。ちょっとコメディタッチな面もあり、緊張と弛緩の塩梅も最高です。全体に連続時代劇やプログラムピクチャーのような強いエンタメ性と「型」を一作目から感じ、続編が心から楽しみになる作品です。
さて、去年も申し上げた通りベスト1というのは特別な意味を持つものだと思っています。素晴らしい作品が無数にある中今作を選んだのはゲームの質の高さは当然として、そのエンタメ性の高い「型」と明るく、いい意味で軽い雰囲気の持つ「長く、毎回すっと楽しめるシリーズになってくれそう」という点がとても「嬉しかった」からです。このような感覚を抱ける作品はフリーゲーム、それどころか昨今のコンテンツではなかなか見られないように感じます。遊んでいて「こういう作品に出会えて嬉しかった」のは今作が随一かなと思います。
フリーゲームやノベルゲームの世界、いや例えばアニメやドラマ、あるいは私が好きなTRPGなどでも、エモが強いとかセクシャルだったりコメディだったりバイオレンスだったりと、ある種のエクストリームさのある作品が人気になりやすい時代だと思っています。
ここまでの10選を見てもらえればわかる通り私もそのような作品は大好きです。ただ、それとは別に今作のようにエンタメ性が強く、万人にすっと薦められるシリーズ、そういう作品を現代のセンスとクオリティで作る、そんな作品を今の自分は応援したい!推したい!という思いが強かったです。より多くの人がノベルゲームを楽しんでくれるきっかけになりうるような、そんな作品ではないかとも思います。私という人間、私というVtuberを支えてくれているフリーノベルゲーム界への思いも込めて今年のベストに選ばせていただきました。
おわりに
今年は結果として全てがノベルゲームコレクションの作品となりました。これは意図したことではなく候補にはふりーむやPlicyの作品もあったのですがやはりこの一年で私がノベルゲームの世界にどんどん寄って行ったという面があるのでしょう。
改めて、今回紹介した作品、紹介しなかったも含め、全ての作品のクリエイターに感謝と敬意を申し上げます。そして2024年も素晴らしい作品に出会えるだろうと確信を持って、この記事を締めたいと思います。
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