「Serpenters」お薦めレビュー 北の大地で踊る「ヤバい」アドベンチャーでブラック企業から脱出せよ!
今回紹介する作品は「Serpenters」です!遊んでて「ヤバいなこれ」って本気で思わされたノベルゲームは久しぶりなのでぜひ遊んで、いやこの世界を「体感」してみてください!
・あらすじ
・ゲーム内容
ポイントクリックと対話で進める形式のアドベンチャーゲームになります。会社の研修を受けつつ各階で社員と会話をしたり、社内を探索したり頼まれごとを受けながら奔走し、会社の実情と秘密を知っていきます。会社の中ではとにかく想像を超えることが起き続けるのが特徴です。
各所でバッドエンドがあるのでそれを回収しながら物語を進めていくことになるでしょう(セーブ推奨など、バッドエンド分岐はわかりやすくにおわされます)ホラーと書かれている通り流血描写や暴力表現、また性的?な表現があったりしますがどちらも怖さやセクシャルよりも奇妙さ、そして高揚感をより強く受けるバランスだったと感じます。またホラー演出の前にはBGMと画面が止まるなどこちらを構えさせてくれるような工夫もされています。
・おすすめポイント①強烈で奇妙な映像とBGM、演出が生み出すダンスフロア的で映画的なドライブ感
今作の最大の特徴でありすばらしさは映像とBGM、そして演出によって作り上げられたプレイ中の高揚感です。
その魅力はプロローグから現れています。
プロローグでは快適なテンポで映像が流れ、サイケデリック感のあるタイトル画面へと遷移します。その間ずっとEDM系のBGMが流れ続けています。その際に画面の切り替わりと音楽が巧みにシンクロしているので、ものすごくアガる、高揚感、ドライブ感を味わえます。このオープニングを見た段階で「いいねこの作品!」となりました。EDM自体がフロアで人を踊らせるための音楽ですし、サイケデリック表現や独特の色彩も非常にわくわくを抱かせてくれます。
今の説明からわかるように「Serpenters」はBGMと映像を組み合わせた表現が本当に優れた作品です。他にも場面によってはしっとりと描写された部屋に優しいBGMが重なるところもあれば、戦闘?シーンではちゃんと敵が登場する際のバンクシーンに合わせてオシャレかつあがるBGMがかきならされることもあります。また、何回見ても「どういうこと…?」となるぶっとんだ表現やストーリーもありまが、そのような場面でも映像やBGMが素晴らしいので、その気持ちよさで超越的な映像や展開を飲み込ませてくれるよさもあるのでしょう。今作は音楽も一緒に楽しみくださいと書かれていますが、ぜひBGMをONにして、できればイヤホンやヘッドホンで聴きながら遊ばれるようにお願いしたいところです。
また、演出においても工夫が各所に施されています。タイミングをずらしたカットインがあったり、アニメーションが挟み込まれたり、少し大仰なSEが鳴ったりして飽きないですし、次はどんなことをしてくるのかとわくわくします。
何より、この映像やBGMのセンス・工夫が最大限に発揮されるのがエンディングになります。こちらはもちろん皆様がプレイしてぜひ見て欲しいのですが、各エンディングごとに凝った映像とBGM、テキストどれも的確かついい感じに奇妙で、回収しがいのあるエンディングとなっています。そして、前述の映像でいうところのNORMAL ENDは思わず「ふぅー!」と声が出てしまうような、映像とBGM、演出のキレ味が全てあいまって映像的、映画的な快楽とドライブ感にあふれた必見のシーンになっています。全体を通して、まるで踊っているような気分でプレイできる作品になっているのではないでしょうか。
・おすすめポイント②とんでもない展開が続くけど芯が通っているストーリー
今作ではブラック企業からの「脱出」を目指すのですが、その中で企業のとんでもないと、いうより想像を、常識を、何なら物理法則を遥かに超えた実態が明かされていきます。
社員がデスクで倒れていたり、何かよくわからない存在がいたり、果てには「オフィスビルにそんなもの入るわけないだろ!」というものが存在していたりと、ぶっ飛んだ展開が続きます。その予想の斜め後ろと斜め上から同時に殴られるような感覚が何度も来るので飽きることがありません。
とはいえ、あまりにもぶっ飛んだ展開だらけだと物語に振り落とされるというか、話がわからなくなってついていけなくなることも十分にあり得ます。しかし今作ではそうなることは私は少なくともありませんでした。それは作者様のセンスや感性が私にとってとても受け入れやすいものだったこともさることながら、「ブラック企業を探索しながらその実情を知る」という物語の軸は全くブレることなく進んでいくというのが大きいのだと思っています。本当についていけなくなるストーリーはその物語の軸自体が動いてしまって「あれ?結局何をしたいんだっけ?」となってしまうような傾向があると思います。今作も本筋からずれるようなお使いイベント的なものもあるのですが、それもその中で会社の実情を知っていくことができるようになっていたり、そもそもイベントとしてあまり長くならないような工夫がされているように感じていて、作者のセンスと配慮が感じられます。非常に細かいところまで行き届いた、まさに「神が細部に宿る」作品でしょう。
・おすすめポイント③ストーリーやゲームプレイを通じて「就職」をめぐる心のざわざわや苦悩が丁寧に描かれている
今作を遊んでいて「?」となったのは「エレベーターが全て特定の階にしか止まらない妙に複雑な構造になっている」ことです。百貨店やビジネスビルで確かに特定の階にしか止まらないというものはありますが、こんなに複雑ではないですし、一般的には各階停止のエレベーターもあるしょう。
では、いったいこれはなんだろう?ゲーム的な障壁以外の面で何かあるのだろうか?と考えていたのですが、これはあくまで私の想像ですが「新しい会社に就職するときにその会社の決まりやルール、不文律を知り適応する難しさ」を表現しているのかもしれないと考えています。
就職や転職で新しい職場、あるいは進学や転校で新しいに行くと、業務内容もさることながら最初の数日はそこのルールや環境を把握するのが大変だったりします。休憩はどこでとればいいのか、休憩室にあるポットは使っていいのか、共用の道具はどこにあるのか、コピー用紙が切れたらどこから持ってくればいいのか、この件については誰に連絡をすればいいのか…、初日はタイムカードを切る動きさえどことなくぎこちなくなってしまうような、新しい環境への適応の難しさがこのエレベーターによって表現されているように感じました。ゲームですとその大変さを再現するには少し誇張された表現が必要なのかなと。
また、主人公の日向(私と同じ!ではなく名前が『ひなた』ですね)はここまで就職に失敗し続けていて、それもあり自尊心が損なわれています。私自身も就職活動がうまくいかないときは「自分の何がだめなんだろう」「もう駄目なんじゃないか」と自分自身が能力、人格共に否定されているような感覚に苛まれたこともありました。おそらく少なくない人が経験されているのではないかと思います。そのような人たちにとって、この物語は身につまされる部分もあるでしょう。
今作の奇妙かつ誇張された設定が、むしろその奇妙さや極端さゆえに私が現実で感じてきた「就職活動・就職」というものにまつわる悲喜こもごもを想起させてくれたように感じます。そして、そのような現実に紐づきうる感情が浮かぶからこそNORMAL ENDの日向の姿に「なんだかんだ前に進めてよかったなぁ」という解放感にも近い感動を覚えられるのだと思います。これから就職活動がある方は、この作品をプレイするとまた違う感情が浮かぶのでしょうね。
・こんな人にお薦め!
・あとがき
今回紹介した「Serpenters」、本当にプレイ中に高揚感のある作品でした!ホラー要素もあるのですが、それ以上にワクワクするというか、いいアメリカのエンタメ映画を見ているときの、ハラハラしたりビビったりしながらもなんとなく顔がほころんでくるような、そんな魅力とセンスに溢れています。作者様の前作「諦めないで」もよかったですし、次作も作られるのであれば本当に楽しみですね…!
また、作者様が北海道の方なので北海道の小ネタが各種入っているのもとても興味深かったです!もしかしてこれはあそこがモデルなのかな?とか考えながら遊んだりしていました。
・おまけ
「Serpenters」の実況をしたのを紹介します!
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