「星影の館殺人事件」お薦めレビュー レトロで優雅な本格怪異ミステリー
今回紹介するのはレトロスタイルの怪異ホラーミステリー×コマンド選択式アドベンチャー「星影の館殺人事件」です!今作を遊んで、手に汗握りつつもレトロで優雅な気分を過ごしてみてはいかがでしょうか?
注意:できる限りネタバレはしない様にしていますが多少ゲーム内容が含まれます。今作を何も知識を入れずプレイしたい方は今すぐ以下のリンクからプレイしてください。もちろん記事の中で事件の内容や真相など、重要な部分については触れていません。
・あらすじ
・ゲーム内容
コマンド選択アドベンチャーとなっています。現場検証や事情聴取をしながら情報を集めストーリーを進めていきます。集めた情報は自動的にファイルされていき、積み重なる謎を様々な調査を経て少しずつ明かしながら事件の真相に迫っていきます。
・おすすめポイント①レトロとレトロが合わさった優美な世界観
私はこの画像を見た瞬間、「絶対遊ぶ!!」と決めました。
この見た目からもわかるように「星影の館殺人事件」は80年台後半によく作られたファミコン時代のコマンド選択アドベンチャーを再現した作品となっています。有名な作品としては「ポートピア連続殺人事件」「ファミコン探偵俱楽部」「探偵神宮寺三郎シリーズ」などがありますね。
「いどう」→「えきまえ」のようにコマンドを複数回選んで行動を決定するゲームプレイ、またドット絵で描かれたデザイン、ひらがなのみで書かれる文章、そして捜査の進展や事態の変化を特徴的なSEでプレイヤーに伝える演出など当時のスタイルがよく再現されています。この種の作品を、複数実際にプレイしたり実況を見ている私には、今作を遊んでいるだけで「そうそうこれこれ」といった懐かしさと充実感が覚えることができました。このタイプの作品の常として、一つの移動にコマンドを複数選ぶ工程が求められたりして手間がかかる面はあるのですが、逆にそれがしっかり捜査をしたという実感にもつながります。もちろんUIやヒントの出し方は当時のアドベンチャーゲームと比べれば遥かに遊びやすくなっています。また、ファミコン時代の作品は何もない数ドットの空間をカーソルで指定しなければ進まない謎がある、などの理不尽な謎もあったのですが今作にはもちろんそういうところは勿論ありません。
また、今作の特徴として「80年代後半のゲームの再現的な作品でありながら、舞台はそれより遥かに過去である1935年が舞台となっている」ことがあげられます。前述の作品群は発売当時で言う現代、つまり80年代かそれに近い時代が舞台となっていました。「星影の館殺人事件」はそれより遥かに古い時代が舞台となっています。そのため、登場人物の言葉遣い、服装、髪型が時代性を帯びたものになっていたり、ロケーションが謎の洋館という、「いかにも」なものになっています。
このように「レトロなゲームシステム」と「それ以上にレトロな舞台設定」合わさることで、今作はとにかく優雅で洒脱な雰囲気が全体に漂っています。
今作はゲームプレイやストーリーもそうですが、大前提としてこの「ドット絵で描かれた1930年代」という雰囲気を浴び続ける体験がとにかく「よい」のです。
実際には不便で辛く大変だったんだろうけど、でも憧れてしまう世界
まさに「古き良き時代」と言う言葉が非常に似合う作品です。1930年代は江戸川乱歩が明智小五郎シリーズを書いていた時代です。明智小五郎シリーズの映像化作品にあるようなレトロ、というよりアンティークで上品で優雅な雰囲気が今作からも感じられます。プレイしている間「今作をドラマにするとしたらどの俳優さんに演じてもらいたいだろう?」と考えることがとても多かったです。余談ですが、この記事を書くに際し今回明智小五郎シリーズを調べていたら陣内孝則さんが明智小五郎を演じられている映像があって「あっ今回の主人公にもぴったりかも!」と感じました!ぜひ見て欲しいです!プレイ中は稲垣吾郎さんとか中村俊介さんとかどうかな…?とか、金田一耕助を演じられた時の石坂浩二さんとかピッタリじゃないかな…?なんてことも妄想したりしました。
また、セリフ回しも本当に素晴らしいんです。ネタバレ防止のため映像はカットさせてもらいましたが、以下のようなセリフのこのおしゃれさと洒脱さが本当によいです。このようなセリフが各所にあるのでぜひ味わってもらうためにもプレイしてもらいたいと心から思います。
・おすすめポイント②ミステリーに怪異ホラーをきれいに合わせたストーリーとゲームプレイ
「星影の館殺人事件」は「怪異ホラーミステリー」と銘打たれた作品です。その名の通りある「怪異」が物語に密接に関わってきます。この怪異が見た目、生態といいとにかく作りこまれています。
素直に言うとプレイする前は「ミステリーに怪異要素も入れるのか…?」とやや怪訝に思っていました。ただ今作はそんな私の浅はかな心配をよそに怪異の存在が物語を面白く、熱く、また読みやすくそてくれています。
最大の効果としては今回の舞台の「異界」感を強調することではないかと思っています。今作は過去を舞台としているので現代から見ればそもそも全ての舞台が「異界」となります。そのため、例えば衝撃的な展開、自分の常識からして理解できないような行動や言動があっても一部は「昔ならこれぐらいなのでは?」となる可能性もあります。そのため、この「怪異」の存在により「ここはこの時代の中で比較してもヤバい場所」ということを意識しながらプレイできます。
また、怪異というジョーカー的な存在がいることで「もしかすると何か起きるかも…」という緊張感がプレイ中常時漂います。実際に何かが起きた時は「ついにきた…!」というドキドキがすごかったです。
さらに今作はミステリーとしても上質です。事件も非常に悩まされるシチュエーションで興味をそそられます。調査を進めるたびに新しい事実と登場人物の裏の顔が少しずつ見え、調査は前に進みつつもどんどん複雑になっていきます。
それによって事件の見え方と登場人物への印象がどんどん変化していき、まさにプレイヤーは事件に翻弄されていきます。私は特に登場人物の「長男」にはなんとも言えない感情を抱いていました。それは家柄や怪異の存在など、彼にまとわりつく複雑な事情が作ったものでしょう。全ての登場人物がそのように一筋縄ではいかない魅力的な存在で、ときにはイラついたり、時には感情移入したり、時には癒されたりしながら彼らと向き合っていくことになっていきます。
「『理』が大切であるミステリー」と「『理』を乗り越える存在である怪異」は、ややもすると互いの良さを消し合う可能性もありますが、今作ではその二つの要素が互いに相互作用を起こし作品をとても面白くしてくれています。その理由として、怪異の設定が生態なども含めしっかりしているので、怪異という存在にもミステリー的な「ルール」つまり「理」が適応できているというのが大きいのでしょう。
この記事を書く前に作者様の前作「怪話」をプレイしました。こちらはSFC~PS時代のサウンドノベルや「本当にあった怖い話」的なビデオホラーを再現したような作品となっており、非常に読みごたえと怖さを楽しめました。恐らくジャンルの面白さをしっかり理解して、それを組み合わせたり現代的な面白さにすることに長けた作者なのかなぁと想像します。
・おすすめポイント③ミステリー的な快楽を味わえる
今作がミステリー、とりわけ本格ミステリーとして本当に面白いと感じたのは事件解決へ向かうクライマックスです。
具体的なことは言えませんが今まで浮上した大量の謎がそこで一気に真相へと向かっていきます。ミステリー作品を読んだり見ていたりして一番盛り上がるというか、しびれるようなミステリー的快楽を感じさせてくれます(あまり言えないけど、あれができるんですよ!)ゲームとしてもそこまでの自分の捜査・ゲームプレイがしっかり報われるという意味で充実感がありました。演出や映像もドライブ感が増してテンションをあげてくれます。
また、エンディングも非常に豊かかつおしゃれで、最後にいい贈り物をいただけたような気分になれます。フリーのノベルゲームとしてはプレイ時間の長い作品ですが、その甲斐がある素晴らしい作品でしょう。
・こんな人にお薦め!
(掲載されているサイトが多いため、一部に絞ってリンクを貼りました)
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・あとがき
とにかく力作でした…!「コマンド選択アドベンチャー」「怪異ホラー」「本格ミステリー」というジャンルをしっかり一本の作品に練り込まれていて、プレイしている間も力が自然と入ります。それでいて非常に上品で、思わずニヤッとするようなところもいっぱいありました。「怪話」と合わせて作者様の力量やばいな…と感じますし、ぜひ次作も遊ばせていただきいと思います!
BOOTHとDLSiteの有料版についているおまけも非常によかったので、今作を遊びたくなった皆様はぜひ有料版も検討してほしいです!
・おまけ
今作は実況をさせていただきました!私事ですが今作の実況は今までの私の全配信でぶっちぎりの過去最多再生数となりまして、その点でも今作の持つ力を感じました。
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