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駅まで15分のサンクチュアリ

昨日、勉強に疲れて20分ほど自室で昼寝をしていた。
最近は毎晩彼の隣で寝ていて、布団は彼の部屋に置きっぱなし。多少寒いが布団を取りに行くのも面倒で、ベッドにゴロリンとしていた。

眠りの浅瀬で漂っていたら、彼が部屋に来て、あたしに布団をかけてくれた。そしてすぐに、あたしの部屋を出た。

あたしは起きてから、嬉しくて泣いてしまった。

あたしは休職して、何の仕事もせずに家でダラダラしているだけの女だ。にも関わらず、ずっと優しくしてもらっている。

高校の時にいじめにあった。クラス全員に無視された。机にはゴミを突っ込まれ、椅子にはガムが付いていた。学校に行けなくなった。
母は「行きなさい」しか言わなかった。母は嫌がるあたしの腕を引っ張り、車に押し込んで無理やり学校に連れて行った。学校で何があったか話してもあまり聞いてはくれなかった。学校に行けなかった日は、ずっと機嫌悪く過ごされた。部屋で引きこもっているあたしを見て「携帯は触れるのにね」等の嫌味を言われたこともあった。

今のあたしは仕事に行けない。あの頃よりずっとマシなのに行けない。
それでも夫は、そんなあたしを否定したりしない。
「何も言わずに家に居させてくれて有難い」
と言うと
「俺がなんか言ったら、居場所なくなるやろ」
と言われた。
あぁ、あの頃のあたしには居場所がなかったんだ…その時初めて気づいたと思う。

他にも彼は
「家事してくれてるから、俺はめっちゃ助かってるけどな・・・俺こんなに家事してなくて良いんかな」
「家事したり、転職がんばったり、ちゃんと働いてるやん」
と、いつもあたしを肯定してくれるのだった。ちなみに彼はめちゃくちゃ家事をするし、あたしの家事は適当。

高校生のあたしは、布団なんてかけてもらえなかった。
家に居場所がある。それは特別なことだ。

彼と内見して選んだこのおうちを、あたしはかなり気に入っている。駅までは少し歩くが、広いし間取りにも余裕がある。特にキッチンが広くて、料理が少し楽しくなっている。秋は魚が美味しいので、最近は炊き込みご飯と焼き魚が多い。

今朝も彼の隣で目を覚ました。
最近は早く起きて勉強をしている。今日もいつもと同じように、ベッドを出ようとすると
「どこいくん」
と寝ぼけ眼の彼に抱き寄せられてしまった。
彼はあたしの背中を彼の腕の中に仕舞い込み、彼の布団の中にあたしをぐいぐいと引きこむ。自分が小さくなったみたいだった。あたしは彼の腕を抱きしめてもう一度眠った。甘い眠りだった。勉強のことなど忘れてしまった。

ここで誰にも邪魔されないように生きていけたら良いのに。許されるまで、このおうちで身を隠していよう。

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