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大人がハマる昆虫研究

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40になって知ったディープな昆虫の世界。身近な環境も、視点次第で宝の山に。
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#大人の自由研究

微小甲虫の楽園としての「芝生の裏側」―チビミズギワゴミムシとコケシマグソコガネ―

微小甲虫の楽園としての「芝生の裏側」―チビミズギワゴミムシとコケシマグソコガネ―

はじめに私が現在居住する賃貸住宅の庭には5 $${\text{m}^2}$$ほどの小さな芝生がある(下写真)。

いくら虫屋でも、こんなつまらなそうな場所でわざわざしゃがみ込んで虫を探そうという発想にはなかなか至らないものであるが、たまたま妻に頼まれた作業を玄関前で行っていたのがきっかけで、この芝生にチビミズギワゴミムシとコケシマグソコガネが生息しているのを発見した。いずれの種も、こんな身近過ぎる

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アキノヒメミノガ―身近なミノムシの謎の多い生態―

アキノヒメミノガ―身近なミノムシの謎の多い生態―

はじめにアキノヒメミノガ Bacotia sakabei Seino, 1981という虫がいる。ミノガ科(いわゆるミノムシ類)に属する小型で焦げ茶色の地味な蛾である。ミノムシ類は、幼虫が植物質の材料を綴り合せて作ったポータブルケース(ミノ)を背負って暮らす生態で広く知られている。また、下手に自然度の高い所よりも、人間の居住環境近くの方が多く見られるため、蛾類の中では特に身近な仲間である。その中で、

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コマルガムシ―神出鬼没すぎるその生態―

コマルガムシ―神出鬼没すぎるその生態―

2022年5月中旬のこと、近所の行きつけの相模川で水際の微小ゴミムシ類でも調べようと石を起こしたところ、微小で細長い水生甲虫がゴマ粒のように大量に浮き上がってきて驚いた。

何だこれは?一見してガムシ科だが、見たことがない。ツヤヒラタガムシに形態が似ているが、ツヤヒラタは翅の端部が明るい色に見えるはずだし、これより一回り大きいはず。本種は真っ黒で、体長2 mm弱しかない。調べると、本種はどうやらコ

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アリヅカコオロギは木に登る

アリヅカコオロギは木に登る

タイトルの通りで、だから何?という話かもしれないが、本当に木に登るのである。個人的にちょっとした発見だったので紹介する。アリヅカコオロギ類Myrmecophilus sp.という虫がいる。バッタ目に属するが、体長はわずか3 mmほどで翅もなく、珍奇な形態をしている(トップ画像参照)。この虫はアリの巣の中に生息し、アリから餌をかすめ取って生活することで知られている。この虫を含む好蟻性昆虫については、

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コモンシジミガムシとヒメシジミガムシ―最も身近な水生昆虫―

コモンシジミガムシとヒメシジミガムシ―最も身近な水生昆虫―

はじめにコモンシジミガムシとヒメシジミガムシという流水性の水生甲虫がいる。いずれも、開けた河川の河原の水際の石を動かすと、ワラワラと泳ぎだす個体がたくさん出てくるほどで、見つけるのは容易である。個体数の多さとその見つけやすさから、最も身近な水生昆虫といえるが、体長が2.5 mm前後と小さいためか、水生昆虫をやっている人以外では認知度は今一つである。

両種とも外見はよく似ているが、ヒメシジミガムシ

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ケシマルムシ徒然

ケシマルムシ徒然

2016年から始めた自分の浅い虫屋歴で、我ながらよく見つけたものだと未だに感心するのが、ケシマルムシである。

2018年の8月、神奈川県平塚市にある県立の「花菜ガーデン」に家族で遊びに行った折、園内にある水田の水際の泥をかき混ぜて浮いてくる水生甲虫を探していたところ、異様に小さい甲虫らしきものが浮いてきた。浮いた個体は水面でジタバタするばかりで泳げるようには見えなかったが、完全に水中から出てきた

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圃場整備された水田にはどれくらい水生昆虫が生息しているのか?

圃場整備された水田にはどれくらい水生昆虫が生息しているのか?

現在国内で止水性の水生昆虫が絶滅の危機に瀕しているのは周知の通りで、神奈川県においても、かつては水田で普通に見られたらしいナミゲンゴロウやタガメが姿を消してからすでに久しい。これら止水性水生昆虫の減少の原因として、水田における強力な農薬の使用や圃場整備による乾田化、中干しの強化等の稲作の近代化の他、水田に付随するため池への侵略的外来種の侵入や護岸強化が挙げられている。このようなネガティブなイメージ

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相模川の伏流水に生息するメクラヨコエビ類

相模川の伏流水に生息するメクラヨコエビ類

神奈川県厚木市内の相模川に水生昆虫探索によく通っており、伏流水の湧く地点から盲目のヨコエビ類を見つけたことがある。話によると、このような地下水性のヨコエビ類はそれほど珍しい存在ではないらしいが、実際に目にすると、地下水の知られざる生態系を垣間見たようで、何とも不思議な気分になる。

よく分からないが、メクラヨコエビ類のPseudocrangonyx属だろうか? 上記ヨコエビは、2018年12月~2

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