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小説

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#異世界

ねこ、かばん

 世界は大まかに二つの地域に分かれている。
 すなわち人間界と魔界。
 かつて世界を二分した大戦禍――人魔大戦の名残りだ。
 今では両地域のヒトの交流や貿易などが盛んであるが、それでもそれぞれのエリアを指す言葉として使われている。
 そんな人間界と魔界のうち、魔界は更に四つのエリアに分かれている。
 龍族の魔王が統治するエリア、悪魔族の魔王が統治するエリア、魔人族の魔王が統治するエリア。
 三人の

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『おつかい』4

6/
 「…………」
 傍目には一切わからないがキルは上機嫌だった。
 なんせおつかいを終わらせたのだ。
 その上、帰りに市場のおばちゃんからリンゴを貰える。
 これはきっとドレが喜んでくれる。
 たくさん褒めてくれるだろう。
 その様子を想像するだけでもキルは上機嫌になる。

 ドレ以外に感情表現の薄いキルの感情を読み取れる者はほぼいない為、帰り道をぼんやりと歩いているようにしか見えない彼女が今

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『おつかい』3

4/
 ヴェルニア・セラリタ。
 キルとドレが現在の拠点にしている街の外れにある、お世辞にも大きくて綺麗とは言えない小さな診療所の主である。
 女性でありながら医師として自立している稀有な存在である彼女であるが、その経歴は華々しく、帝都の医術学院をトップレベルで卒業し、その後、世界でもトップクラスの医療技術を誇る帝都の国立医院に勤務していた、という経歴を持っている。
 容姿端麗にして博学多才、正し

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『大怪盗』2

3/
 「どうも」
 大荷物を載せた馬を従えた別の行商人が洞窟の前に立っていた見張りの男に短く声を掛けた。
 「ん、今日もご苦労」
 見張りの男が横柄な態度で応えた。
 行商人の男が証明用の書類を符牒を混ぜながら渡す。
 「最近、俺等の事を嗅ぎまわってる小物がいるらしくてな。頭領に適当にやるなって文句言われてて面倒なんだよな」
 文句を言いながら見張りの男が面倒そうにそれらを一つずつ確認していく。

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『大怪盗』1

 行商人の男が見えた。
 洞窟の中から見張りらしき男が出てきた。
 行商人と幾つか言葉を交わした様子が見えた。
 見張りの男は納得したように頷き、キョロキョロと辺りを確認したあと行商人の男を連れて洞窟の中に消えていった。
 数秒してドアの開閉音が辺りに響いた。

♪ ♪ ♪

 「いやぁ、相変らず凄いですね」
 行商人は洞窟の内部に広がる人工物の通路を見回した。
 洞窟の内部は岩の壁ではなく、綺麗

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