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小説

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2024年4月の記事一覧

砂上の楼閣 8

 『グ……グゥオオォォォオオ!!』
 大音量の咆哮が地下空間全体に響き渡り、壁や柱が震えた。
 あまりの音量にトゥーリアは片耳を押さえ、顔を顰める。
 が、悠長にしている時間など無い。
 立ち上がり、構える。
 黒い怪物と目が合った。
 そこに人間の意識のようなものは、もう既に何一つ感じられなかった。
 瞬間、怪物が撃ち出されたような速度でトゥーリアへ一直線に向かって来た。
 今度は油断しない。

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砂上の楼閣 7

 「死にたくない」と呟き続ける少年の身体の震えはどんどん強くなっていく。
 先程から、その調子だったので様子がおかしい、ということに気付くのも遅れた。
 「? ……ッ!?」
 少年の身体の振動に合わせてFPも小さく振動していることに気付き、トゥーリアはほぼ反射的に地面に倒した少年の身体から離れた。
 「死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない」
 少年の身体の震えは止ま

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砂上の楼閣 6

 深い暗闇の中、今更抵抗をしようと男がもがく。
 しかし、戦闘慣れに加え、FPによる肉体強化の恩恵を受けるトゥーリアに背中の中心を抑え込まれているため、ジタバタと情け無く四肢が動くだけだった。
 数十秒程、その状態が続いたが、やがて男は抵抗が無駄であることを悟ったのか動かなくなった。
 男の動きが収まったのを見計らって、トゥーリアは空いている片手でコートから先程しまったライトを取り出して相手の顔を

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砂上の楼閣 5

 視線に気付いた段階でこちらのライトは消した。
 地下鉄構内を照らすのは相手の持つ小さなライトだけで、トゥーリアの目にはかなり頼りなく、淡い光が届くだけだ。
 相手の足音が響く。
 「何処だッ!! 出てこいッ!!」
 校内に響く男の声は、威勢のこそ悪くないが、震えていた。
 再び足音が響く。
 相手は、こちらの位置を特定しているわけではないようだった。
 ここでトゥーリアは悩む。
 相手を倒しに行

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砂上の楼閣 4

 階段を下りきったトゥーリアの目の前には広い空間が広がっていた。
 照明の設備は無いのか、あっても電気が無く機能していないのか真っ暗な闇が広がるばかりで、空間が広いということも自分の足音の反響具合とFPによる大雑把な走査で得た情報だった。
 『運び屋』は様々な環境に身を置きながら、様々なモノ、或いはコトを運ぶのでこういう時の装備も最低限は備えてある。
 数秒、耳とFP感覚を澄まして少なくとも周辺に

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