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小説

258
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2022年8月の記事一覧

登場

 「……」
 「……」
 沈黙が続いていた。
 部長が何やら連絡を入れてから数分が経っていた。
 何かの連絡を入れた、ということは誰かが来るのだろう。
 問題はその誰か、というのが誰なのかということである。
 部長の方をチラリと見た。
 部長は普段と変わらず退屈そうな顔でパソコンの画面を眺めているだけで、その表情からは何も読み取れない。
 仕方なしに頭を捻ってみる。
 そもそもだ、俺は部長の交友関

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たこ焼き

 「うーん……」
 放課後の部室で、俺と部長は2人して頭を捻っていた。
 考えているのはもうすぐ始まる文化祭の出店に関してだ。
 一応、部活動という名目でこの部室を使用している俺たちも何かしらやらなければいけないことになってしまった。
 先程までいた伊吹先輩は生徒会長の仕事の途中らしく部室を後にした。
 カチカチと部室に掛けられた時計が時間の経過を告げている。
 案というようなものは何も出てこない

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誤解

 ザワザワと教室の中は騒がしかった。
 喧騒は放課後なのだから当然と言えば当然なのだが、今日のそれはいつも以上だった。
 理由はある。
 もうすぐ文化祭で、今はその準備期間だからだ。
 誰もかれもが浮かれている。
 教室の中はすっかり作業場と化していて床には段ボールやらカッターやらペンキやらが散らかっていた。
 そんな喧騒の中で俺が何をしているのかと言えば、教室の隅に座って独りただただ黙々と積み上

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Earendel 2

 あの戦いが終わった後、私たちは宇野君との関係を切る事になった。
 特別な人間では無くなった彼を、彼では無くなった彼を放って置くことは本当に心苦しかった。
 一度でも彼に心を寄せていた私たちが彼の隣にいるべきだと、そう思っていた。
 彼の居ない中で集まった私たちがそういう結論を出そうとしていた時、1人が反論した。
 『今更、私たちがお兄ちゃんに何が出来るというの?』
 宇野聖花は宇野耕輔の義妹で、

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Earendel 1

 人間は古代から夜空に浮かぶ星に手を伸ばしてきた。
 それらに絶対に手が届かないという事を知っていても、人間は神秘的な輝きを放つ星を追い続けてきた。
 人間が宇宙というものを認識してから何世紀が経つのだろう。
 その間、大きな科学技術の進歩を幾つも繰り返してきた。
 そのおかげで星に手を伸ばす事が叶うこともあった。
 例えば、隣りの惑星ならば地表の写真を見られるようになったし、最遠の人工物は遥か彼

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