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小説

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2021年3月の記事一覧

飛行船、ほうき星、燃やす

 飛行船が見えた。
 青い空に浮かぶ大きな飛行船。
 きっと、みんなには見えない。
 ほうき星が見えた。
 空に大きな線を引くほうき星。
 きっとみんなには見えない。
 手を伸ばしてみるけれど、当然届くことは無い。
 伸ばした先の掌を透けて太陽が見える。
 目を瞑る。
 飛行船もほうき星も見えなくなった。
 みんなと同じように、私にも見えなくなった。
 それでも、きっと、そこにある。
 もう一度、

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ねこ、かばん

 世界は大まかに二つの地域に分かれている。
 すなわち人間界と魔界。
 かつて世界を二分した大戦禍――人魔大戦の名残りだ。
 今では両地域のヒトの交流や貿易などが盛んであるが、それでもそれぞれのエリアを指す言葉として使われている。
 そんな人間界と魔界のうち、魔界は更に四つのエリアに分かれている。
 龍族の魔王が統治するエリア、悪魔族の魔王が統治するエリア、魔人族の魔王が統治するエリア。
 三人の

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用意周到、朝もや、糸電話

 目の前の大きな窓から望む景色には全体に靄が掛かっていた。
 フロントの話によれば、このホテルの周辺には自然が多いため朝もやがかかることが多いとのことで特別珍しい光景というわけでもないそうだ。
 その景色を眺めながら片手に持ったコーヒーを飲んだ。
 その光景がいかにも呑気に見えたのか、近場に居た数人のゴツイ男に睨まれた。
 黒いスーツ姿で、彼らの立ち姿を見る者が見れば一瞬でそのスーツの内側に銃火器

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葛根湯、単行本、フェイクニュース

 「はぁ……」
 ため息が漏れたのは体調が悪いから。

 朝起きた時点でどうにも喉が痛かった。
 自分の体のだるさから大体は察しがついていたものの体温計を使う。
 体温計は37.3℃を示していた。
 案の定、風邪だった。
 微熱ではあるが、のどの痛みと倦怠感があるので間違いないだろう。
 しかし、今日は大学をサボるわけにはいかない。
 必修の講義の単位が危ないのだ。
 留年したくない。
 風邪を押

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ドミノ倒し、快感、反乱

 反乱だ。
 それはきっと、人類の歴史には何の痕も残さないような、ほんの小さな反乱。
 それでも彼らの目は鋭く、目の前の大きな障害に対して明確な反旗を翻し、声高々に抗議を繰り返している。
 彼らの、その激しく燃え滾っている熱情をして反乱と呼ばずなんと呼ぶのであろうか。
 彼らを遠くから眺めているだけの俺には到底持ちえないような煌々とした彼らの輝きは、時に美しく、青春の爽やかさを纏う。
 自分にない

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