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小説

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2021年1月の記事一覧

『おつかい』4

6/
 「…………」
 傍目には一切わからないがキルは上機嫌だった。
 なんせおつかいを終わらせたのだ。
 その上、帰りに市場のおばちゃんからリンゴを貰える。
 これはきっとドレが喜んでくれる。
 たくさん褒めてくれるだろう。
 その様子を想像するだけでもキルは上機嫌になる。

 ドレ以外に感情表現の薄いキルの感情を読み取れる者はほぼいない為、帰り道をぼんやりと歩いているようにしか見えない彼女が今

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『おつかい』3

4/
 ヴェルニア・セラリタ。
 キルとドレが現在の拠点にしている街の外れにある、お世辞にも大きくて綺麗とは言えない小さな診療所の主である。
 女性でありながら医師として自立している稀有な存在である彼女であるが、その経歴は華々しく、帝都の医術学院をトップレベルで卒業し、その後、世界でもトップクラスの医療技術を誇る帝都の国立医院に勤務していた、という経歴を持っている。
 容姿端麗にして博学多才、正し

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『おつかい』2

2/
 現在、キルとドレが暮らしている家から病院やギルドに向かうまでには大きく分けて二つのルートがある。
 一つは大通りに出るルートである。
この街の中でも主要な交通網を通るルートであるが、診療所やギルドに向かうには遠回りになるため少々時間が掛かってしまうルートになっている。
ただし大通りという事もあって乗合馬車なども運航しているため、不便という程ではない。
 それと大通りという事もあり人の通行量

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『おつかい』1

 朝、目が覚めた時から喉の奥が妙に痛んで、体にも倦怠感があった。
 朝特有の気怠さだろうと、何とか思い込むようにして同居人のための朝食を作った。
 いつものように目覚めの悪い同居人を何とか起こして、朝食に付かせた。
 俺はというと、朝は食欲がないタイプの人間なのでいつも通りコーヒー片手に新聞を読んでいた。
 異変はそのころから強くなっていった。
 喉の痛みが無視できないぐらいに強くなり、体全体が重

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