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ひゃくま
2020年4月28日 21:39
「……しかし、寒いな」 風島清景はコートに身を隠す様にしながら、独り言のように呟いた。 視界に空から落ちてくる白が絶え間なくちらつく。 吐いたため息も白くなった。 目の前の信号が赤から青に変わり、マフラーや暖かそうなコートを身に纏った多くの人々が動き始めた。 その流れに逆らわず、二人も歩き始めた。 「まぁ、冬だしなぁ。でも、まだ雪積もってないから、冬も寒さもこれからだよ」 暖かそ
2020年4月21日 21:23
夜の帳がすっかり落ち、夜空にはいまだ見慣れない配置で星が並んでいるが、この街の騒がしさは衰えてはいない。 酒場のドアをくぐると滑らかな笛の音と激しい打楽器の音、そして客の歓声や手拍子の音が響いてくる。 「あー、疲れた」 その騒がしさに慣れている青年は喧騒に構わずに呟き、酒場のカウンター席に着いて、持っていた黒いハードケースを立て掛ける様に置いた。 「アンタ、今日ミス多かったわよ」 青
2020年4月14日 23:31
「……は……ははは……は、あたしも……やれる……もん……だな」 額から垂れる血が目に入り、視界が滲む。 疲れた。 両手両足にはもうすでにほとんど力が入らず、地面に突き立てた刀に体重を掛けるようにして何とか倒れこまずに済んでいた。 何とか首を持ち上げ、滲む視界で改めて目の前を視る。 そこに倒れているのは正真正銘成体の黒竜であった。 「……爺さんの……地獄じみた修行……のおかげだな」
2020年4月7日 21:19
メルの刃がドラゴンの鱗を簡単に切り裂いたのは、刃の性能によるところが大きい。 それは逆に言えばドラゴンの不意を突かなくとも、メルの攻撃がドラゴンに通じるという事である。 尤も、メルの攻撃がドラゴンにダメージを与えられるかという問題の解決にはつながらず、ドラゴンの危険度が下がるわけではない。 危機は依然変わらない。 いや、むしろメルの攻撃によって怒りをあらわにした現状は危機は更に上がったの