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【実話怪談】保育園、こども園の不思議な話【短編2話】

「ビッグフット」

昔、子育て支援のボランティア活動をしていた時に仲良くなった、小学生のカホちゃんから聞いたお話です。
カホちゃんは小学4年生で、よく喋る女の子でした。

「私が昔行ってた保育園のこと、特別に教えてあげる!」

ある時、何をどう気に入られたのか私にだけ教えてくれたのが、保育園での奇妙なお話でした。
その保育園は私のマンションからも近く、白いフェンスに囲われた古い保育園です。歴史のある保育園で、私が生まれるよりずっと前からそこにあるのだといいます。
防犯上の理由なのか、白いフェンスは私の背より高くて中の様子は全くわかりません。それでも保育園の横を通る度に、子どもたちの賑やかな声が聞こえます。

「あの保育園のお庭には、大きな足跡があるの。」

カホちゃんが小さな声で周りに聞えないように言いました。
「足跡……?」
「うん。すごく大きいの。今の私の背の高さくらいあるの。」
そう言われて、カホちゃんを見ます。
カホちゃんは今時の子どもらしく、スラッと身長が高い女の子です。145センチくらいはありそうでした。
「それは大きいね。」
私もなんとなく声色を落とします。
「でしょ?その足跡は片方だけで、お庭の隅の方に必ずあるんだ。裸足の足跡なんだけど、ちゃんと指の跡もしっかり見えるんだよ。」
カホちゃんが年齢に似合わず神妙な顔をしました。
「不思議なんだよ。お庭で遊ぶ時にみんなで砂をかけて消しても、次にお庭に出る時に見ると、必ず同じ場所にまた足跡があるの。」
段々興味が出てきて、私は聞きます。
「それ、先生は知ってたの?」
「知ってたよ。先生も消してたもん。あの園にいる人、みんな知ってる。でもね……みんな、忘れちゃったみたいなんだ。」
心なしか、寂しそうな顔です。
「小学生になって、あのお庭の足跡のこと、同じ園だった子に話したら、みんな全然覚えてないんだよ。」
そうなんだ、と残念そうに言う私の声色に、焦ったようにカホちゃんは続けます。
「でも嘘じゃないよ!ハセガワくんも、覚えていたから。」
ハセガワくん、というのは、同園出身のクラスメイトらしい。
「ハセガワくんが言ってたんだけど、年長さんの時、お泊り会で見たんだって。」
何を?と、続きを促すと、カホちゃんは更に声のボリュームを落としました。
「足跡が、出てくるところ。」
真剣な顔です。
出てくる?どういう意味かと問う前に、カホちゃんは続けました。
「足跡は、地面から浮き上がってくるんだって。どんなにその場所の土をぐちゃぐちゃにしても、じわ〜って浮き出てきて、元通り。」
私は想像しました。
浮き出るということは、その場所に地下水が滲み出して、たまたま足跡のように見えるとか……そういうことだろうか。
「足跡って、常に濡れてたりする?土がいつも泥っぽいとか。」
私が聞くと、カホちゃんは不思議そうに言います。
「他のところと、土は変わらないよ。お砂場の砂と一緒の、サラサラした土だった。」
どうやら地下水ではないらしい。
もう一つ、気になったことを聞いてみる。
「その足跡って、いつも同じ形なの?」
カホちゃんは少し考えて、自分の足元をじ~っと見て、そして。
「右足……いつも、右足だった!」
そう言うと満足そうに頷いて、遊びに戻っていきました。

右足。

右足ということは、左足もどこかにあるんだろうか。

少し想像した時。

足跡だけでなく、何故かその巨大な足跡をつけるそのもの自体が頭に浮かびます。
どこからか強い視線を感じたので、急いで考えるのを止めました。

それ以降、その園の白いフェンスの脇を通る度、フェンスを見上げないように気をつけています。見上げてしまったら、足跡の主と目があってしまうような気がするからです。

これは、某保育園の実話です。

「人数確認」

10年ほど前に勤めていた、こども園でのお話です。

その園は園児の人数が多くて、園内を移動する前や後お散歩の時には、こまめに人数確認をしていました。
他の園でも、もちろん人数確認はありますが、人数が多いぶん気の抜けない作業でした。

4月。

新しい年中クラスさんがお散歩に行くと言うので、私がクラス補佐に入り、ついていくことになりました。
「みお先生、人数確認をお願いしても良い?」
担任のミナモト先生が言います。
(人数確認作業って、ヒューマンエラー防止のために普通は2人でやるんだよなぁ……。)と、私は不思議に思いました。
この場合、ミナモト先生と私、2人しか職員はいないから、お願いされなくても必ず2人で人数確認をするはずです。
それをわざわざ口にするということは、私が人数確認を怠るような人に見えたということなので、複雑な気持ちになりました。
とはいえ、ミナモト先生とは確かにあまり関わりが無かったので、どこまで信頼していいかわからないという気持ちもよくわかります。
「人数確認、承知しました。」
明るく言って、お散歩に出発です。

春の陽気が心地良く、お散歩日和だったことを覚えています。

年中さんは、28人。

玄関で靴を履いたタイミングで人数確認をして、しっかり28人カウントして出ました。

公園に着いた時。

公園から出る時。

園に戻った時。

誰も欠けることなく、常に28人で、その日無事にお散歩を終えるはず、でした。公園から出る時に、しっかり28人数えて報告した時に、ミナモト先生が言うのです。

「みお先生、ありがとう……変なことをお願いしても良い?」
躊躇うようにミナモト先生が口にします。
真剣な表情に、少し身構えながら頷くと、ミナモト先生は言いました。
「これから園に帰るまでの間にも、歩きながら1回人数確認してもらいたいんだけど、良いかな……?」
前を歩くミナモト先生には、確かに後ろに歩く子どもたちは見えません。
人数確認は、後ろから全体を見て歩く私にしかできないことですが、それはつまり、歩いてる途中で誰かがいなくなることを心配しているということです。
(やっぱり、全然信頼されてないなぁ……。)
と思いながらも、ミナモト先生はもしかしたら、過去に何か失敗したことがあって不安なのかもしれないな、と思い直します。
子どもの命を預かるこの職業において、慎重なことは良いことです。
「承知しました。途中で人数確認しますね。」
笑顔で言って、出発しました。

公園から園までの道のりは、15分程度です。

半分くらい歩いたところで、ミナモト先生と約束した人数確認をします。
ミナモト先生の後ろについて、手を繋いで2列で歩く子どもたち。
目線を送りながら、数えます。

1、2、3……心の中で、年中の子どもたちが被っている緑色のカラー帽子を数えていきます。

……25、26、27、28、29。

ほら、みんないた。
ちゃんと、29人。

29人。

あれ、と思います。
年中クラスは、28人です。
いやいや、29人なわけがない。
だって、子どもたちはみんな、手を繋いでいるのだから。
(そもそも偶数じゃないとおかしい。1人余って、誰かが先生と手を繋ぐことになる。)
焦ってミナモト先生の隣を見ますが、ミナモト先生は間違いなく1人で歩いています。
混乱しながらもう一度、ゆっくり確認します。

1、2、3、4…………27、28、29。

(あり得ない。ちょっと待って。数え方を変えよう。)
私はもう、冷や汗が止まりません。
2人1組なのだから、列の左側の子だけを数えて、14を数えたら、14✕2で28人。
これなら絶対に28人になる。
再度数えます。

1、2、3……………12、13、14、15。

15。

15✕2で、30人です。
軽くパニックになりながらも、同じように数えます。
やはり、15です。

おかしい、おかしい、おかしい。

こんなことは有り得ない。
ミナモト先生に報告するべきか。
他園の子どもが混ざっていることはないだろうか。
(いや……あの公園、今日は他園の子どもは居なかった。それに、この緑色のカラー帽子が、たまたま他園児と被るなんてことなんて、ない。)

『変なことをお願いしても良い?』

ミナモト先生の言葉が頭に浮かびました。
あの口振り。
ミナモト先生は、もしかしてこうなることがわかっていたんじゃないだろうか。

その後、園に着いてから人数確認をすると、間違いなく28人でした。
(そんな馬鹿な……。)
青ざめながらミナモト先生に報告すると、ミナモト先生は私を見て何か悟ったのか、「後で少し話そう。」と言いました。

昼休み。

子どもたちをお昼寝させた後、年中クラスの保育室でミナモト先生が先に口を開きます。

「子どもの数、多かったでしょう?」

やはり、ミナモト先生はこうなることがわかっていたんだと思いながら、私は頷きました。
「このクラスだけなの。私、この園ではすっかり古参だけど……初めて気付いた時は、この子たち、まだ1歳児だった。他の先生は、私が言ってもわからなくてね。だから気のせいだと思うことにしていたの。」
ため息をつきながら、ミナモト先生は続けます。
「もちろん、全員の顔と名前を確認しながら数えたこともあるんだ。それなら、数え間違えるはずがないから。でも、多いんだよね。知らない子は誰ひとり居ないのに、1人多いの。」
何を聞くべきだろうか。
少し考えて、私は口を開きます。
「ミナモト先生、心当たりは、あるんですか?」1人多いという、その子が誰なのか。
もしかしたらミナモト先生は、わかっているんじゃないだろうか。

一瞬。

ミナモト先生の顔が歪み、泣き出しそうに見えました。
少し間があって。
「それは……わからない。ごめんね、変な話に巻き込んじゃって。みお先生なら、もしかしたら見えるんじゃないかと思って、試すようなことをして。もう忘れて良いから。この話はおしまいにする。」
そう言ったきり、ミナモト先生は二度とその話題を口にしませんでした。

だけど、そのクラスの卒園式に、ミナモト先生が1つ多く卒園児の花束を用意していたことをよく覚えています。

これは、某こども園の実話です。

保育園の関係のお話は以下のお話にもあります。
宜しければ、どうぞ。


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