誕生日には新しい経験を
5月18日はわたしの誕生日。
だんだん何度目なのかあやふやになってきた誕生日。
年月を重ねるたびにワクワク感が薄れていく誕生日。
カウントダウンどころか、ボーっとしていたら過ぎていってしまう誕生日。
ここ数年は「とりあえずケーキだけでも」とケーキ屋さんに駆け込んで、なんとか誕生日を特別な日にしようとしていました(笑)そんな惰性の誕生日を送っていた数年ですが、なんと今年はすごく特別な誕生日を過ごすことができたんです。
「誕生日プレゼント、モノと経験どっちがいいですか?」
唐突な友人からの質問に、どっちにしようか一瞬考えました。最近ハマってずっと欲しいなぁと思っていた九谷焼の食器セットが脳裏にふっと………、いや。自分で買えばいいや。
「経験で」
「本当に?」
「経験で。お願いします」
「…わかりました。楽しみにしててください」
その瞬間に始まった誕生日までのカウントダウン。
子どもの頃に戻ったような感覚でした。なんなら、プレゼントの中身が何なのか事前にわかっていた子どもの頃よりも、ずっとずっとワクワクしたかもしれません。
迎えた誕生日。
プレゼントは————歌舞伎鑑賞。
スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』に連れて行ってもらいました。
朱が印象的なロビー。そこに差し込まれる黄や緑。
長い列の先にお弁当。壁に沿って整列する提灯。
ホールでは幕に描かれた天女がお出迎え。
朱の座席に朱のクッション。
席はなんと前から4番目。友人はなんと一番前。
パンフレットに夢中になる開演前。
そして始まる第一幕。
早替りと役の切り替えに目を奪われる。
一気に歌舞伎の世界に惹き込まれる。
幕間のお弁当。
風呂敷の結び目を解く瞬間がたまらない。
全部食べるかどうか迷っているうちに完食。
続く第二幕。
華やかな衣装に目が釘付けになる。
女方の美しさにため息が出る。
所作だけで女だとわかる。すごい。
女方のとりこになったところで幕が降りる。
「第三幕は席を交代しましょう」と友人が言う。
…なに言ってるのかちょっとわからない。
………………ほんとに!?……え、いいの!?
一番前の、ど真ん中。
ステージが目の前でちょっとそわそわ。
でも始まったらそわそわなんてどこかに飛んだ。
役者の表情に魅了される。心が伝わってくる。
登場人物の感情に飲まれそうになる。
志貴の里の場面。
兄橘姫が発する「ヘタルベ」のひとこと。
鳥肌が立った。ものすごい感動に包まれた。
カーテンコール。
しても、しても、し足りない拍手。
終演後はしばらく席から立てなかった。
言葉通りの「胸いっぱい」を本当に久しぶりに実感しました。湧き上がる感情をゆっくり味わって、咀嚼して、そのときしか得られない感動を堪能しました。その日はずーっと余韻に浸って、歌舞伎の世界から抜け出せなかったことを覚えています。
歌舞伎役者の中村壱太郎さんが大好きになり、あれから毎日のように壱太郎さんのYouTubeを見ています。古典的な作品にも興味が大爆発。有名な古典作品を調べては公演の予定がないかをチェックする、その繰り返し。新しく経験したものでこんなにも夢中になったのは久しぶりです。
今年の5月18日は忘れられない誕生日になりました。
「誕生日には新しい経験を」
来年は何をしようかな。
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