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#2 効果が出ない健康食、からだは《YES!》と言ってる?

体に良い食べものとは?

 健康を意識した食習慣を始めると、本や雑誌、テレビやインターネットの健康情報が気になり始めます。アブラナ科の野菜が良い、オーガニック野菜が良い、精製されていない食品が良いなど、情報は際限無く溢れています。
 「もっとほかに体に良い食べものがあったら教えてください」と、私もよく質問を受けます。健康食情報への感度を高めて良いと思われるものを食べているのに、望んでいる健康状態にたどり着けずに悩むかたもいます。

食べもの自体に善悪はない

 たいていの食養生法には、食事のルールがあります。
 野菜を豊富に食べ、野菜ジュースもたくさん飲むゲルソン療法の食事ルールは前回の連載でご紹介しましたが、いちばん大きな特徴といえば《塩を使わない》ことです。食塩、海の塩、岩塩、これらを含む調味料類のすべてを基本的に使いません。また、日本の伝統食であり、健康食材として幅広く受け入れられている大豆や大豆加工食品も残念ながら食べません。
 食養生法にこうした独特なルールがある理由は、管理されたルールの相乗作用で最大の効果を生み出すように《全体がデザインされている》からです。
 つまり、ゲルソン療法の効果を出そうとするときには塩や大豆が禁止食材になりますが、塩や大豆がすべての人にとって有害な食材という意味ではありません。

2 PBNHカンファレンスのビュッフェ、2018年9月米国サンディエゴ

(写真)PBNHカンファレンスのビュッフェ/2018年9月米国サンディエゴ

混ぜるな危険

 日本発で世界的に普及し受け入れられている食養生の一つにマクロビオティックがあります。加熱調理した野菜や玄米と天然塩を独特な考え方で使い、生野菜や果物、野菜ジュースをあまり用いないのが基本ルールです。
 塩や塩を含む調味料を使えるので日本人にとっては伝統的な和食に近くて親しみやすく、海外にもファンが多くいます。正しい知識を身につけて、栄養管理をしながら始め、望む健康を手に入れた人もたくさんいます。
 ところが、異なる食養生のルールをミックスし始めると問題が起きやすくなります。たとえば、マクロビオティックからは食事を採用し、ゲルソン療法からは大量ジュースを採用し、同時進行で行うと困ったことが起こります。
 なぜなら、食事の塩分制限をせず、ゲルソン療法の治療食並みに1日2リットル以上にもなる野菜ジュースを飲み始めると、浮腫みやすくなる可能性が高いからです。こうして体内に貯留し始めた水は体を冷やし、健康状態を悪くしてしまうかもしれません。塩分と水分のマネジメントは想像以上にデリケートな問題です。

からだとの対話

 毎日の食事をより健康的なものにしたい、そう考えてさまざまな食養生に取り組む姿勢はとても真面目なものだと思います。本を読み、講演会や講座で学び、非常に知識が豊富なかたに出会って驚かされることもよくあります。その学びの結果として望む健康目標を叶えられたら幸いですが、そうではない場合、少しの間だけ頭の知識をお休みさせてみましょう。そして、からだの声に耳を傾けてみましょう。
 食事をより健康的なものにするのは、心身の健康状態をより良くしたいという思いからスタートしたはずです。からだの声は「快適になった!」と言っているでしょうか?

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理論どおりにいかない現実

 食養生の多くには、その利点を説明する理論が用意されています。なぜその食事が人の健康状態を良くするのかを知る体験はとてもワクワクするものです。宝の地図を手に入れた気分になるかもしれません。
 でも、理論どおりに現実が進むこともあれば、そうではないこともあります。科学者の世界では、理論どおりに実験の結果が得られないことはよくあるのだそうです。
 私たちのからだは皆その歴史が違います。からだの条件が異なれば、食事法の結果も異なるのはむしろ自然なことかもしれません。

多角的な視点を持って安全に

 からだとの対話を始めると、少しずつ気がつくことが出てきます。たとえば、搾りたての野菜ジュースを初めて飲んだ時に「全身がぽかぽかしてきた」という体感をよく聞きます。逆に「冷えるようになった」という声を聞くこともあります。こうした体感は日々メモに残しておくと、「どう食べたときに健康状態がどう変わったか」が明確になり、他人にも相談しやすく、間違いにも気づきやすくなります。
 そして、痛みや違和感があるときには医療機関で受診することも大切です。自分の体を別の視点からもモニターしましょう。たとえば車を運転するときにはドライバー自身の目視だけでなく、バックミラーやサイドミラーといった別の視点があるので運転の安全性が高くなります。視点が多いほど、問題解決の糸口を見つけやすくなります。
 健康を意識して食事を変えるという行為はとても自由で未来志向なものです。知識優先の狭い路地に入り込んで行き詰まることがないよう、からだの声を聞きながら安全に進めていきましょう。

■参考書籍
『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』、氏家京子著、2019年発行

ゲルソン療法に関する日本語HP
ゲルソン・クリニックのHP

このコラムを書いた人
氏家京子(うじいえ・きょうこ)

1972年生まれ。
健康雑誌の編集部に6年勤務。米国系統合医療サービス企業に1年勤務。 フリーランスジャーナリストとして独立後、統合医療や自然療法分野の取材を国内外で継続し、医療消費者への教育活動、統合医療に関する翻訳書籍の出版を行う。
1998年から始めたゲルソン療法の取材経験は日本でもっとも豊富で、米国ゲルソン・インスティテュートから日本アンバサダーに任命される。
ゲルソン療法のワークショップを開催するほか、ゲルソン・クリニックへの入院希望者に通訳として同行する業務も行う。
ゲルソン療法の患者教育を担うゲルソン・エデュケーター育成、ゲルソン療法専門医の育成にも携わる。
2019年6月、『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』を出版。


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