kingfish

音楽と読書と素粒子物理学、プラス何かの面白そうなことで毎日を過ごしてます。当面は先日亡…

kingfish

音楽と読書と素粒子物理学、プラス何かの面白そうなことで毎日を過ごしてます。当面は先日亡くられた映画監督キム・ギドクの作品について私なりの解説していきます。ひとつのキム・ギドク論として完成するとよいのですが。

最近の記事

プンサンケ(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか③)

キム・ギドク 製作、脚本 チョン・ジェホン 監督 2011年6月23日 韓国公開 2012年8月18日 日本公開 原題訳 豊山犬 英題 POONSAN 宣伝文句 「おまえはどっちの犬だ」  チョン・ジェホン監督は、『絶対の愛』(2006年)で派生したキム・ギドクの原案を脚本化し、2007年に『ビューティフル』という作品を撮った(公開は2008年2月)。  同年『悲夢』の撮影中、主演女優イ・ナヨンが死にかけるという事故を経験したキム・ギドクは、ショックで現場に立てなくなり、脚

    • 映画は映画だ(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか②)

      キム・ギドク 製作、脚本 チャン・フン 監督、脚色 2008年9月11日 韓国公開 2009年3月14日 日本公開 原題訳 映画は映画だ 英題 ROUGH CUT 宣伝文句「つかの間でもいい。違う人生を生きてみたい」  2008年『悲夢』の撮影中、主演女優のイ・ナヨンを殺しかねない事故を起こし、現場に立てなくなったキム・ギドク。長年スタッフを務めたチャン・フンを監督に抜擢し製作したのが『映画は映画だ』。  これが、文句なしに面白い。  公開当時、事故は外部には知られてい

      • ビューティフル(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか①)

        キム・ギドク 製作、原案 チョン・ジェホン 監督、脚本 2008年2月14日 韓国公開 2008年7月13日 第22回福岡アジア映画祭最優秀作品(劇場未公開)        (タイトル『美しすぎて…』) 2008年2月17日 第58回ベルリン国際映画祭パノラマ部門出品 原題訳 美しい 英題 BEAUTIFUL 宣伝文 「あなたの美しさは、僕を狂わせる」  キム・ギドクの原案は、前年に女性の美を題材にして撮った『絶対の愛』から派生したと考えてよい。  『ビューティフル』は、そ

        • The NET 網に囚われた男~漁師がイムジン河で獲ろうとした魚

          キム・ギドク 監督、脚本、撮影 2016年9月10日 第73回ヴェネチア国際映画祭非コンペティション部門出品 2016年10月6日 韓国公開 2017年1月7日 日本公開 原題訳 網 英題 THE NET 宣伝文句「スパイでも英雄でもない。」 キム・ギドク 「南北の本質的な問題とは何かをのぞき込み、伝える必要があった。今回はあえて『見せない』手法を取りました。残酷なシーンはなくても、主人公が網にかかった魚のように南北の間で引き裂かれ、血を流す。そんな心理的な暴力を描きたかっ

        プンサンケ(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか③)

        • 映画は映画だ(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか②)

        • ビューティフル(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか①)

        • The NET 網に囚われた男~漁師がイムジン河で獲ろうとした魚

          STOP~B級SF映画の意義

          キム・ギドク 監督、脚本、撮影、照明、録音、編集、製作 2015年7月3日 第50回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭招待作品 2016年12月8日 韓国公開 2017年5月13日 日本公開 原題訳 ストップ 宣伝文句「鬼才キム・ギドクが今、どうしても撮りたかった映画」 「原発事故後の世界を描いた問題作『STOP』公開。鬼才キム・ギドク監督インタビュー」飯田高誉(美術手帳) https://bijutsutecho.com/magazine/interview/4104/  

          STOP~B級SF映画の意義

          殺されたミンジュ~復讐の神、贖罪の神、沈黙する神

          キム・ギドク 監督、脚本、撮影、編集、製作 2014年5月22日 韓国公開 2014年9月6日  第71回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門オープニング作品&作品賞 2016年1月16日 日本公開 原題訳 1対1...私は誰なのか 英題 ONE ON ONE 宣伝文「少女が葬り去られた日、良心は全てこの世から消えた」  キム・ギドク「私はこの映画を撮りながらとても苦しみ、取り終えた後もしばらくの間、苦しみました。それはおそらく私自身、民主主義に対して無関心になり、放置

          殺されたミンジュ~復讐の神、贖罪の神、沈黙する神

          メビウス~息子解脱する

          キム・ギドク 監督、脚本、撮影、編集、製作 2013年9月5日 韓国公開 2013年9月7日 第70回ヴェネチア国際映画祭招待作 2014年12月6日 日本公開 原題訳 メビウス 英題 MOEBIUS 宣伝文句「人間の業が廻る」  キム・ギドク:このモチーフを映画化しようと思ったのは、韓国社会が性的なことをシリアスに捉えすぎだと感じていたことからです。もっと突き抜けた、それを超えたものを、赤裸々に、率直に描いてみたいと思ったのがきっかけです。  しかし、この作品も表面に見

          メビウス~息子解脱する

          嘆きのピエタ~神になろうとした悪魔の子

          キム・ギドク 監督、脚本、編集 2012年8月29日 第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞 2012年9月6日 韓国公開 2013年6月13日 日本公開 原題訳 ピエタ 英題 PIETA 宣伝文「前代未聞の”愛”の結末に世界が言葉を失った、衝撃のラスト。激しく胸を揺さぶられる、魂のサスペンス・ドラマ」  映画はある男の死ではじまり、ある男の死で終わる。 (物語)  工場の町、清渓川。再開発事業の決定で立ち退きを余儀なくされた中小零細の工場主は、借金を当てに暮らしていた。

          嘆きのピエタ~神になろうとした悪魔の子

          悲夢~愛は女が持っていたと警官は言った

          キム・ギドク 監督、脚本、編集、製作 2008年10月9日 韓国公開 2009年2月7日 日本公開 原題訳 夢うつつ 英題 DREAM 宣伝文「狂おしいほど切ない、愛しい人に出会う夢」  「夢ではないかもしれないし、悲しい夢かもしれない。二重構造になっている。複雑に思うかもしれないが、とても分かりやすい映画。難しく考えず、気楽に見てほしい。ただし1回ではなく2回。2回見ることで、いろいろなとらえ方ができる」とキム・ギドクが自ら多重性を明らかにした殺人事件の謎を解く。  キ

          悲夢~愛は女が持っていたと警官は言った

          ブレス~女の一生

          キム・ギドク 監督、脚本、出演、製作 2007年4月26日 韓国公開 2007年5月27日 第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品 2008年5月3日 日本公開 原題訳 息 英題: BREATH 宣伝文「愛は、天国と地獄。だから輝く----」  まず、服役中の死刑囚と同房の3人は、この男が殺害した家族だ。死刑囚が雑居房にいるのがそもそも不自然。言わば幽霊なのである。雑居房が家庭の暗喩で1024号は妻、その他2人は彼が殺した子供で家族の暗喩になる。  死刑囚が3度自

          ブレス~女の一生

          絶対の愛~あるいは魚と巻貝の置き物

          キム・ギドク 監督、脚本、編集、製作 2006年8月24日 韓国公開 2007年3月10日 日本公開 原題訳 時間 英題 TIME 宣伝文「永遠に愛されたかった…」  キム・ギドクはこの作品について「日本でも知られているとおり、韓国は整形する人が多い。韓国内では道徳的に正しいか、論争になっているほどです。好みの顔かたちはみんな欧米風の顔なんですね。これをモチーフとして愛の物語を思い立ちました」と語っている。  時計が止まるオープニングのあと、整形手術のグロテスクな映像がク

          絶対の愛~あるいは魚と巻貝の置き物

          弓~アフロディーテが見た夢

          男の私としては、ほどほどにして頂きたいのである。キム・ギドク 監督、脚本、編集、製作 2005年5月11日 第58回カンヌ国際映画祭ある視点部門オープニング上映 2005年5月12日 韓国公開 2006年9月9日 日本公開 原題訳 弓 英題 THE BOW 宣伝文「海の上、ふたりきり。老人は少女に永遠の夢をみた。」  絵画には言葉がない。時間も音もない。何を語りかけているのかは、観る者の想像力次第。そんな絵のような美しさで我々を夢の中にいざなう映画。  大海原に静かに浮か

          弓~アフロディーテが見た夢

          うつせみ~青い死の気配

          復讐するは我にありと言って、テソクは<みしるし>を現わす。 キム・ギドク 監督、脚本、編集、製作 2004年10月15日 韓国公開 2004年9月11日 第61回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞) 2006年3月4日 日本公開  原題訳:空き家 英題:3-IRON(3番アイアン) 宣伝文「私たちは永遠に、よりそう」  毎回夢のような映画を観せてくれるキム・ギドク。『うつせみ』はその極地だ。わからないようでいてわかったような気分になる。夢が何を言っているかなど知り

          うつせみ~青い死の気配

          春夏秋冬そして春~蛇が梵字になる世界

          映画化不可能な小説というものがあり、小説化できない映画がある。誰も目で見たことのない生命宇宙を見る。 キム・ギドク 監督、脚本、編集、出演 2003年9月19日 韓国公開 2004年10月30日 日本公開 原題訳 春夏秋冬そして春 英題 Spring, Summer, Fall, Winter...and Spring 宣伝文「魂が震え、心が泣く。美しく感動的な人生の四季の物語」  本作においては謎はなく、ただキム・ギドクの芸術世界の深淵を覗いていればよい作品である。以下

          春夏秋冬そして春~蛇が梵字になる世界

          コースト・ガード~お前たちの要求に従っただけだ!

          どこからか発砲される弾丸は、罪悪感なのか、匿名の陰に隠れて放たれる暗く狂った断罪の声か。 キム・ギドク 監督、脚本 2002年11月14日 韓国公開 2005年4月16日 日本公開 原題訳 海岸線 英題 COAST GUARD 宣伝文「海岸線に響いた一発の銃声の先に兵士たちが見たものとは?」  キム・ギドクによれば「強権的な父親から離れられれば何でもよかった。入隊した海兵隊での5年間の体験、聞いた話を元に脚本は書かれている。50%は映画として膨らませた」作品となり、『受取人

          コースト・ガード~お前たちの要求に従っただけだ!

          悪い男~神の沈黙を描いた隠し絵

          「私をこんなにして無責任じゃない!今すぐに出てきなさいよ。ひどいやつね。」「出てきて。今すぐに」というソナの叫びは、神の出現を願う人々の声そのものである。 キム・ギドク 監督、脚本 2001年11月1日 韓国公開 2002年2月16日 第52回ベルリン国際映画祭コンペティション部門上映 2004年2月28日 日本公開 原題訳 悪い男 英題 BUD GUY 宣伝文「最悪最上の純愛に世界は騒然とした…。」  韓国は学歴社会で、階級社会です。女子大生とヤクザという別の世界を生きて

          悪い男~神の沈黙を描いた隠し絵