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映画は映画だ(キム・ギドクはどこまでキム・ギドクか②)

キム・ギドク 製作、脚本
チャン・フン 監督、脚色
2008年9月11日 韓国公開
2009年3月14日 日本公開
原題訳 映画は映画だ
英題 ROUGH CUT
宣伝文句「つかの間でもいい。違う人生を生きてみたい」

 2008年『悲夢』の撮影中、主演女優のイ・ナヨンを殺しかねない事故を起こし、現場に立てなくなったキム・ギドク。長年スタッフを務めたチャン・フンを監督に抜擢し製作したのが『映画は映画だ』。

 これが、文句なしに面白い。
 公開当時、事故は外部には知られていなかったわけだが、知っていればなおのこと面白い。この「殺しかねなかった」事件あっての脚本なのだ。
 キム・ギドクの役者に演技をどこまで求めるべきか、役者にとって演技とは何かという問いかけに、役者は惚れ惚れとするアクションで応え、弟子のチャン・フンの映画愛と奮闘する様子が、画面から溢れんばかりなのだ。
 師弟関係にある自分たちを主役のふたり、ヤクザと俳優に投影し、映画監督を観客に見立てる。そのうえで映画は役者を観るものだと言っている。彼らは本当に殴り合っているようにしか見えない。
 ヤクザ映画としてはもちろん、映画についての映画としても面白く、自嘲気味のタイトルも洒落ているではないか。

 チャン・フンについてはキム・ギドクの元を離れて、アカデミー賞外国語映画賞韓国代表作にもなった大ヒット作『タクシー運転手』(20017年)を観たが、これも面白い。

 キム・ギドク史的には、感情をゆさぶることを目的に作った娯楽作品という点が見逃せない。
 脚本が認められて映画界に入ったわけだし、普通にうまい脚本家なのは初期作『鰐』、『ワイルド・アニマル』を観ればわかるが、今回は深々と感じ入ってしまう。問題の『悲夢』が観る人を選ぶ作品であるのに対し、本作が同じ2008年の作品だということを考えれば、人間ドラマぐらい書こうと思えばいつでも書けるといったふう。実際、韓国でも公開当時100万人を越える観客を動員しているのだから、自分にしか撮れない映画にこだわった生涯だったんだなと思う。

以下、innolife.net記事(2011年5月16日)全文。

第64回カンヌ国際映画祭で新作『Arirang(アリラン)』を公開したキム・ギドク監督が、衝撃的な告白をして話題になっている。
キム監督の自伝的な映画『Arirang』で彼は、2008年の映画『悲夢』を撮影している途中、もしかするとイ・ナヨンが命を失う可能性もあった事故が起きたと打ち明けた。当時イ・ナヨンが演じる主人公「ラン」が監獄の窓のさくで首をつって自殺を試みるシーンがあったが、実際に俳優が首が絞められたままぶらさがってしまう危うい事故がおきたが、キム監督が急にはしごにのぼって彼女を引き下ろして危機を免れたが「頭をかなづちでなぐられたようなショック」を受けて、その後作品活動をすることができなかったと告白した。
 引き続きキム監督はイ・ナヨンが当時しばらく気を失って目覚めたし、本人は何が起きたのか分からなかったと明らかにした。自身は事故後、隣の監房に行って泣いたとも告白した。

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