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倫敦塔に憧れて…

行きそびれた倫敦塔

ロンドン観光した時に寄らなくて後悔している観光名所、それが倫敦塔(ロンドン塔)です。
何故いまさら4年も前の事を思い出したのかと言うと、たまたま本棚にあった夏目漱石の同名の随筆を読んだのがきっかけでした。
実は、かなり近くまで来ていたんです!テムズ川沿いを歩いてモダンテートまで行った時、川の対岸に倫敦塔が見えていました。足を伸ばせば30分ぐらいで着いた事を後でGoogle MAPで調べて後悔しました。

夏目漱石は倫敦塔の事を漱石はこう評しています。

倫敦塔の歴史は英国の歴史を煎じ詰めたものである。過去という怪しき物を蔽える戸張が自らと裂けて龕中の幽光を二十世紀の上に反射するものは倫敦塔である。
凡て葬る時の流れが逆しまに戻って古代の一片が現代に漂い来れりとも見るべきは倫敦塔である。人の血が結晶して馬、車、汽車の中に取り残されたるは倫敦塔である。

確かにWikipediaで調べてみるとこの塔で死刑になったり投獄された有名無名の人々が数多くいます。まるでイギリスの過去の凄惨な歴史を倫敦塔がテムズ川の水面に映し出している様です。

倫敦塔の正式名称は「女王陛下の宮殿にして要塞」です。
そもそもは1086年即位したウィリアム征服王がロンドンを守る為に要塞を建築したことに始まっています。一時期は王室の居城として拡大されました。それにともない城塞全体を指す名前となり、本来の塔はホワイトタワーと呼ばれるようになりました。その後、牢獄として使われた歴史が長く暗いイメージが定着してしまいました。

断頭吏の歌

漱石は倫敦塔の断頭台がある部屋で、断頭吏が歌をうたって斧を磨ぐシーンを空想しています。後書きで漱石自身が書いていますが、このシーンはエーンズウォースの「ロンドン塔」という小説をベースにしています。

英文が素晴らしいのでそのまま転載しました。下記はGoogle翻訳を自分なりに読みやすく意訳したものです。訳が正確では無いかも知れないのでごめんなさい。

The axe was sharp, and heavy as lead,
As it touched the neck, off went the head!
          Whir―whir―whir―whir!
Queen Anne laid her white throat upon the block,
Quietly waiting the fatal shock;
The axe it severed it right in twain,
And so quick―so true―that she felt no pain.
          Whir―whir―whir―whir!
Salisbury's countess, she would not die
As a proud dame should―decorously.
Lifting my axe, I split her skull,
And the edge since then has been notched and dull.
          Whir―whir―whir―whir!
Queen Catherine Howard gave me a fee, ―
A chain of gold―to die easily:
And her costly present she did not rue,
For I touched her head, and away it flew!
          Whir―whir―whir―whir!

斧は鋭く、鉛のように重かった、
首に触れると頭が消えた!
Whir―whir―whir―whir!(斧を研ぐ音)

アン女王は彼女の白い喉をブロックに置きました、
致命的な衝撃を静かに待っている。
それが相棒で彼女の首を切断した斧、
そして、とても速く、とても真実で、彼女は痛みを感じなかった。
Whir―whir―whir―whir!(斧を研ぐ音)

ソールズベリーの伯爵夫人、多分彼女は死なないだろう。
誇らしげな乙女として―豪華絢爛に。
斧を持ち上げて、彼女の頭蓋骨を割って、
そしてそれ以来、斧の刃は欠けて、鈍くなってしまった。
Whir―whir―whir―whir!(斧を研ぐ音)
キャサリンハワード女王は我に代金を払った―
金の鎖―楽に死ぬ為に…
そして、彼女はプレゼントを渋らなかった。
我の斧が彼女の頭に触れたので、頭は飛んでいった!
Whir―whir―whir―whir!(斧を研ぐ音)

残酷だけど、今から断頭台に立つ人々の様子がリアルにそしてリズミカルに描かれています。シンプルでインパクトの強い歌だからこそ頭に残りますね!

ビーフ・イーターとクロウマスター

そんな倫敦塔ではガイドツアーに参加すると、「始終牛でも食っている人のように思われるがそんなものではない」と漱石も言っていたビーフ・イーターと呼ばれるシルクハットを潰したような帽子を被り、赤と黒のカムイの民族衣装を着て槍を持っている衛兵が、誰がどこでどんな風に殺されたかなどもふまえ、塔内の歴史を案内してくれるそうです。漱石は塔内でビーフ・イーターに会って日本製の古い具足を見せてもらったみたいです…

小説の最後に倫敦塔のカラスの事を話す婦人と子供の会話に一種の神秘を感じていたのに、宿の主人に「奉公のカラス」だから当たり前だと一蹴されます。
「奉公のカラス」とは倫敦塔で飼育されているワタリガラスの事です。
「カラスがいなくなるとロンドン塔が崩れ、ロンドン塔を失った英国が滅びる」と占い師の予言があってから現在まで、倫敦塔ではワタリガラスが決まった数を何匹か飼育されるようになりました。

ちなみに倫敦塔でワタリガラスを世話する係を「クロウマスター」と言います。なんだかダークヒーローみたいでなんだかカッコいい響きですね!
前述の「ビーフ・イーター」と言い名前がいちいちファンタジーの世界を連想させるので不思議と胸が高まります。

最後に

そして宿屋の主人に他の空想もぶち壊しにされて気分を害した漱石は怒って

余の空想の後半がまた打ち壊わされた。主人は二十世紀の倫敦人である。
それからは人と倫敦塔の話しをしない事にきめた。また再び見物に行かない事にきめた。

と断言してしまいました!明治の文豪は意外と短気なんですね…

ですが、僕はコロナ禍が収まっ後に、一度でいいから倫敦塔ツアーに参加して歴史の重みを感じ、ファンタジーの世界の想像に浸りたいと思います。
でも最後に、4年前に僕が何故倫敦塔に行かなかったのかが今でも謎です。その理由はロンドンの歴史の闇と共にテムズ川に流されて忘却の彼方へ消え去ってしまったのでしょうw


参考資料
倫敦塔 夏目漱石 新潮文庫
世界史 10の「都市」の物語 出口治明 PHP文庫
地球の歩き方 ロンドン ダイアモンド社
ロンドン塔 Wikipedia

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