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中学生がAIを作って実験してみた話 #2【教員視点|後編】

こんにちは。ヒューマノーム研究所 次世代先端教育特命研究員の辻敏之と申します。普段は中学・高校の教員をしながら、ヒューマノーム研究所のお手伝いをさせていただいています。

2021年12月15日(水)に三田国際学園中学校(東京都世田谷区)にて、当社が三田国際学園中学校と共同開発する教育プログラム「Humanome CatDataを用いたAI構築ワークショップ」を開催しました。

本記事は、このワークショップを設計・実施した教員の目線から、授業の様子をまとめたレポートの後編となります。前編では、Humanome CatData(以下「CatData」)の導入からIrisデータセットを用いてアヤメの種類を予測するAI構築まで進めました。本ワークショップは「データの意味を理解する」ことを裏テーマとしています。

CatDataは、表データの解析やAI構築ができるノーコードツールです。 初心者もデータ解析の楽しさが気軽に体験できるよう、プログラミング・数式の知識いらずで操作できます。

1. カエデ種子の落下実験について

ワークショップの後半では、カエデの種子を模した羽根がどんな姿勢で落下するかを予測するAIの構築にチャレンジしました。

カエデの種子(図1)は落下するときに回転することが知られていますが、その形を模した羽根も同じように回転しながら落下します。この形状を少し変化させると回転姿勢が変化し、この姿勢は何種類か存在します。ここでは羽の形からその回転姿勢を予測するAIを構築することを試みました。

図1. カエデの種子

前半で使っていたIris データセットでは、アヤメの種類については写真を直接見れば区別することが出来ました。しかし、羽根の形状と回転姿勢の関係を見た目で判断するのは少し難しく、きちんとした関係はよくわかりません。

あまりに抽象的な話になってしまうと、イメージすることが難しくなり、意欲の低下に繋がります。まず初めに本物のカエデの種子が落ちる様子を観察させ、回転していることを確認してもらいました。そのうえでカエデの種子を模した羽根が落下する様子を観察してもらいました。

「同じように落としても回転姿勢が変化する。これはなぜだと思う?」と問いかけると、形が違うからではないか、形が違うことが影響するのであれば形状から予測できるのではないか、という意見がすぐに出てきました。Irisデータセットを解析したあとだったこともあり、予測するという発想を持った生徒がいたことは心強く感じました。

2. 種子の落下実験内容・概要

今回のワークショップではあらかじめいろいろな形状の羽根を落下させる実験を行い、その形状と回転姿勢をまとめたカテゴリデータを作成しました。形状として羽根の4ヶ所の長さを計測したデータと回転姿勢をカテゴリとして持つデータセットです。

このデータセットを用いて

  • 学習モデルの構築

  • 生徒たちが自分で羽根の形状を考える

  • データを可視化して作成する形状を決定する

  • 羽根の回転姿勢を学習モデルで予測

  • 実際に羽根を作成し、落下実験

  • 予測が正しいかどうかの評価

という流れで進行しました。

この行程のポイントは、学習モデルを評価する羽根を自身が工作して作るというところです。このとき、データセットを可視化することで、より当たらなさそうな羽根を作るようにアドバイスしてみました。生徒たちは「AIが予測を外す」というシチュエーションを目指してデータを検討していました。小学生・中学生たちはこういうのとても好きですよね。

自作の羽根の予測と評価が終わったあとは、そのデータを学習データに取り込んで学習モデルを再構築しました。こうすることでなにが変わる?と問いかけると、より精度良く予測できるようになるのではないか、みんなのデータを集めたら強いAIが作れるのではないか、という声を聞くことが出来ました。

このあと、

  • 自作の羽根データを学習データに加える

  • 学習モデルの再構築

  • 全員に対してクイズを出題

という流れでコンペティションを行いました。
あらかじめ用意した新しいサンプルの羽根を問題として、実験を行いました。予測があたった生徒も外れた生徒もいましたが、みな楽しそうに自身AIの予測に一喜一憂している姿が印象的でした。

3. ワークショップの感想

ワークショップ後に、参加した生徒に対しアンケートを実施しました。多くの生徒が今回のワークショップに満足したと回答し、理由として実際にAIを作成できたこと、当たり外れはあったけど予測ができたことを挙げていました。

図2. 事後アンケート結果

AIというものの見方は変わりましたか?という項目では13人中12人が変わったと回答し、より身近なものだと感じるようになった、完璧じゃないものだと感じたなど、その理由を教えてくれました。

今まではAIは、ただデータを集めてそれをまとめて結果を出すものだと思っていたが、今日、実際にAIを構築する工程で、データを集めて予測して、、、というのを行うことでより正確なAIが作れることを知り、AIを作るのは単純じゃないと思ったから。
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CatDataを使ったり、自分で種子の形を考えたりするのはすごく難しかったけど、自分の実験データをAI に学習させて、次の実験の結果を予測する、という初めての経験をたくさんすることができたので、この講義を受けることができてよかったと思いました。また、こういう機会があればまた参加したいです。

CatDataワークショップ・事後アンケート回答より

中でもこれらのコメントは、今回行ってよかったと心から思えるものでした。「AI構築」と銘打ったワークショップでしたが、本当に伝えたかったことはデータの構築と観察が大切だという点です。あくまで機械学習によるAIの構築は手段であり、本当に重要なことはデータを理解することだと考えているからです。

図3. CatDataを使ってみて

また、CatDataを使った感想として、13名中7名が簡単だったと回答しました。難しかったと回答した6名は、その理由として

  • スプレッドシートとの行き来が難しかった

  • ひとりで始めるのは難しそう

などを挙げていました。

スプレッドシートとの行き来については、ワークショップ実施者として私の反省点になるところです。2つ目についてですが、たしかにAI構築に関する学習をひとりで始めるのはなかなかハードルが高いかと思います。本noteには独習をサポートする「CatData事始め」とも言える連載がありますので、興味を持った方はぜひお試しください。もちろん無料です。

4. おわりに

さて、ここまでAI構築ワークショップを実施する上で考えたこと、実際におこなったこと、その結果生徒たちに生まれたものについてまとめました。いかがだったでしょうか。

まだまだ至らないところはあり、13人という人数にも救われたところがありましたが、概ねうまくいったワークショップだったのではないかと自負しています。

今回は中学生を対象としたワークショップのご紹介となりましたが、ヒューマノーム研究所は、高校生、大学生、社会人を対象とする実体験を通したAIワークショップの企画・運営を承っております。ご興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひヒューマノーム研究所までお問い合わせください。

※ 筆者紹介
辻敏之:機械学習やIoTデバイスを用いた先進的な教育活動に興味があります。好きなことは写真撮影と美味しいものを食べること。普段は中高生に理科を教えたり、研究指導したりしています。

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