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〜海外企業の実践事例から紐解く〜投資家・従業員視点の人的資本経営とは

昨今、ESG投資やISO 30414への対応など、人的資本の情報開示が国内外で注目されています。そこで今回、株式会社大和総研 金融調査部 SDGsコンサルティング室長の太田珠美氏に、『投資家・従業員視点の人的資本経営』をテーマとしてお話を伺った記事から、一部抜粋してお届けします。

本インタビューの全文は、下記URLからダウンロード可能です。
〜海外企業の実践事例から紐解く〜投資家・従業員視点の人的資本経営とは

■Profile
太田珠美/Tamami Ota
株式会社大和総研 金融調査部SDGsコンサルティング室長

2003年大和証券入社、リテール営業や企画部門を経て、2010年に大和総研に転籍。日本株式市場やコーポレートファイナンス関連のリサーチ業務に従事。2017年頃からサステナブルファイナンスのリサーチも行うようになり、2019年にSDGsコンサルティング室を立ち上げた際に室長に就任。東京工業大学非常勤講師も務める。公益法人協会「ESG投資研究会」委員、日本証券業協会「カーボンニュートラル実現に向けた証券業界に対するアドバイザリーボード」メンバー。

国内外におけるESG投資の広がり

——  海外の投資家が「無形資産の価値」を重視するようになってきました。日本国内におけるESG投資の広がりについて、どのような印象をお持ちですか?

太田氏:日本サステナブル投資フォーラムの調査では、機関投資家の運用資産全体のおよそ6割がESGを考慮した投資になっています。もはや機関投資家にとってESG投資は特別な運用手法ではなくなりつつある印象です。

——  ESG経営や人的資本経営は企業が「なぜ取り組むのか」を理解しているかどうかが、進捗に影響していると感じます。また、人的資本の情報開示を行い、ESG評価※1 を高めることで、パッシブ運用※2 における投資比率が増えていく、というような捉え方をしていますが、こちらに関してはいかがお考えでしょうか。

太田氏:「なぜ取り組むのか」という根本の理解はとても重要です。機関投資家は企業戦略とESGの取り組みの関連性も評価しており、この点も重要だと考えています。「組織として何を目指していて、それに対してどうやって取り組むのか」というように、点ではなく線でつなげて考えることが大切です。

※1 ESG評価:第三者評価機関が、企業のESGにおける取り組み状況を測定・算出した指標。
※2 パッシブ運用:市場全体の平均的な値動きと連動することを目標とした運用方法。本記事では、ESG評価に連動した運用方法を意味しています。

—— 現時点ではどのような傾向が見られるのでしょうか。

太田氏:企業理念に基づく企業戦略があり、その企業戦略とESGがどのような関係にあるのかを丁寧に説明する企業が増えているように思います。社内外に向けて「いかに分かりやすく表現するか」「いかに納得感を与えられる説明をするか」ということは重要だと感じます。

—— ESG評価を機械的に上げていくことも一つの手段としてあり得ると思うのですが、この点に関してはいかがでしょうか。

太田氏:「ESGに関する複数の取り組みを行っているが、情報開示はESG評価機関から評価される項目を重点的に行っていく」という考え方は、戦略としてあり得ると思います。

ただ、評価機関は複数あり、各機関によって評価項目や評価手法も異なります。すべてに対応しようとすると負担が大きくなるので、留意する必要はあると思います。評価機関の評価項目や評価手法を参考にしながら、自社が重点的に取り組む方針の項目から開示を進めていくのが現時点ではベストの形ではないでしょうか。

投資家視点の人的資本経営とは

—— 太田様は、元々企業の資本政策のリサーチに携わり、2019年頃から本格的にSDGsやESGの領域に注力されたと伺っております。ESGの中でも人的資本という領域に関わり始めて感じたことはどういったことでしょうか。

太田氏:私自身、日本的な雇用慣行になじんでいたため、海外企業のさまざまな事例に触れ雇用慣行の違いを改めて認識し、目から鱗が落ちるような思いでした。日本企業も最近は中途採用を増やしたり、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換を模索するなどの動きが活発で、「時代の大きな転換期に来ているのだな」と感じます。

ただし、重要なことは「海外と日本のどちらが正しいのか」ということではなく、それぞれの良いところを踏まえて自社の状況に即した対応をしていくことだと思います。

さらに、経営戦略との関係では、将来的に拡大していく予定の事業があったとして、それを担える人材が実際どのくらいいるのか、いない場合はどんな対策を打つのか、社内で育成するのか、中途採用で確保していくのか、そういった点が人的資本の情報開示の重要なポイントになると思います。

—— 海外投資家はESGの審査に長けている、着眼点が鋭いといった印象もあります。この点に関してはどのように対応していくべきでしょうか。

太田氏:「投資家たちがいま何を重視しているのか」という点に関しては、海外企業の事例などを参考にするのも有効な手段です。ESG情報の開示は海外企業も試行錯誤している段階ではありますが、制度整備が先行している国・地域もあるため、参考になると思います。

—— 日本国内では業界により、人的資本の情報開示への動きにかなりばらつきがあります。開示を促進するためにはどのようなことが必要だと思いますか?

太田氏:業界全体で動きが活発化していないということは、「業界内のシンボリックな存在」になれるチャンスがまだ残っている、ということでもあると思います。この状況を活かして、他社に先駆けた開示戦略を立案・実行していくといった、前向きな意識は必要だと思います。

もちろん、先進的な企業になろうとしても結果的にうまくいかず、時間と費用だけかかってしまった、となるリスクもあります。しかし、即時的な評価が受けられなかったとしても「なぜ評価されなかったのか」を分析すること自体が、企業の成長につながりますし、一つずつ改善点に対処していくことで、徐々に結果として表れてくると思います。

国内外の好事例と注目される指標とは

—— 海外では人的資本に関する法制度が整備されつつあります。 海外の好事例と国内の好事例における共通点、または相違点はどのような点が挙げられますか。

太田氏 :共通点としては「リスクマネジメントの視点」での開示が充実していること、相違点としては「育成領域の開示・取り組み」が挙げられます。育成や採用などの「攻めの開示」に関しては、労働市場における人材の流動性が高いこともあり、欧米の方が進んでいる印象です。

育成領域の取り組みの例として、従業員のスキル習得に対する企業の姿勢は海外と国内で大きく異なります。日本では「その企業でしか通用しないスキル」の習得が多いのに対して、海外では「どの企業でも通用するスキル」を企業側が積極的に習得させる傾向があります。

「どこでもやっていけるスキルが身につけられる」というのは、従業員のインセンティブとしても機能しており、開示の際のアピール要素にもなっているようです。日本でも近年、雇用の在り方は変化してきていますが、終身雇用の考え方が根付いている企業も多く、「他社でも通用するスキルを身につけると転職されてしまうのでは」と、リスクとして捉えられることもあるようです。

また、従業員側がその必要性を感じていないというケースもあります。日本の働く側の意識をどのように変えていくのかについても、考えていく必要がありそうです。

—— 人的資本の情報開示の懸念点を挙げるとしたらどのような点が考えられますか。

太田氏:1つ目は、開示自体が目的化されてしまい、本質的ではない施策が実行されてしまう可能性があることです。2つ目は、国・地域ごとに様々な雇用慣行があることを理解しないまま、投資家の方々が表面的な投資判断をしてしまう可能性があることです。この2点は懸念点として挙げることができるのではないでしょうか。

—— 人的資本の情報開示の頻度については、どれくらいのペースで開示していくべきだと思いますか?

太田氏:基本的に年1回のペースが望ましいです。中長期戦略をふまえた人事戦略等のKPIは、投資家が進捗を見るためにも年1回、戦略自体の大きな見直しは3〜5年おき、というような開示頻度をイメージすると良いと思います。

——では、開示する項目という点で、どのような項目に関する注目度が高いと感じていますか。

太田氏:ダイバーシティに関する項目の注目度は高い印象を受けます。たとえば「女性管理職比率」という指標は、多くの関心を集めている指標ではないでしょうか。ただ、このような指標は、「数値をどれだけ上げられるか」に固執してしまうケースも見られます。

企業価値につなげていくためには数字を追うだけでなく、「多様な意見や視点を取り入れ、どのようにビジネス展開し、改善につなげるか」といった点を考えることが重要です。

—— 人的資本の情報開示は従業員にとってどのようなメリットがあると思われますか?

太田氏:統合報告書は投資家に向けたものであると思われがちですが、会社の考えを従業員に示す際にも有効ですし、取引先に渡す自社の紹介資料としても有効です。ブランディング要素を含めて、開示していくということが重要です。また、社会で何が必要とされているのかを察知して、自社製品の開発や活用方法を考えていくことが重要になってきます。

人事・経営企画に期待する役割

—— 人事・経営企画・経営陣の役割について、どのような役割・取り組みを期待していますか?

太田氏:人事の役割は年々増加してきており、採用や研修、ダイバーシティなどにおける考え方にも、変化が生じてきています。旧来の考え方に固執するのではなく、大局的な視点を持つことが求められてくると思います。

また、CHROの役割もますます広がっていくことが予想されます。将来のビジョンと人事戦略がしっかりリンクしているのかどうかを今一度確認し、リンクできているのであれば開示を、できていないのであれば改めて議論し、戦略を立て直すことが重要になってくるのではないでしょうか。

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