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【#7前川 和彦】命を救うために最大限の力を尽くす

HuMAの活動に携わる人々に注目するインタビュー。第7回目は、2022年6月まで10年間HuMAの理事長を務めてきた前川和彦さん。現在も顧問としてHuMAとの関わりと保ちながら、介護福祉施設で高齢者のケアに従事しています。
歴史的な事件や大災害の現場に立ち、日本の救急医療の発展と共に歩んできた前川さんが今、思うこととは。

2019年九州北部豪雨の支援活動報告会
理事長としての登壇

即時の判断とチームワークが求められる救命医療の世界

1968年、大学を卒業した私は、外科医師としてキャリアをスタートしました。しかし外科の処置は決まった手順で行うことが多く、単調ともいえる日々に次第に物足りなさを感じるようになっていきました。
「もっと変化や躍動感を感じられる場に身を置きたい」そんな想いを抱いて渡ったアメリカの地で出会ったのが、外傷外科と重症患者管理の世界でした。
救命医療の最大の目的は、言葉のとおり、命を救うこと。一刻を争う状況の中で、私たち医師は即時の判断を求められます。わずかの見落としや対応の遅れで患者さんが命を落としてしまうリスクもある。今まで経験したことがない事態に直面することもある。その中で活きるのは、やはりチームワークです。
当時はまだ、CTや超音波検査などの画像診断法もなかった頃。メンバー全員がそれぞれ持ち合わせている知識や手法を駆使して最善を尽くし、治療が功を奏した時の喜びは何物にも代えがたいものでした。

阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、東海村臨界事故の現場で

アメリカから帰国後、国内での救命医療に携わる中で、3つの大きな出来事がありました。1995年1月に発生した阪神淡路大震災、そのわずか2カ月後に起こった地下鉄サリン事件、それから1999年に茨城県東海村の核燃料加工施設で起こった臨界事故です。

阪神淡路大震災では、東京大学医学部付属病院から神戸市生田区の避難所に医療チームを派遣しました。私自身はその時、胃癌の手術を受けて間もない身だったため東京に残り、チームの責任者として支援活動に関与していました。震災がもたらした傷は深く、発災直後の医療処置に留まらず長期的なケアが必要でした。発災から5年後には兵庫県が実施した復興検証事業の一環として現地を訪れ、保健医療の領域の復興検証も行っています。

地下鉄サリン事件では、都内の病院に搬送された被害者の方に救命措置を施しました。13人の方が亡くなり、5000人を超える方々が負傷した凄惨な事件。二度とあってはならないことですが、この急性期医療の経験を将来につなげていくため、サリンに暴露され入院した方々の直後の治療方法のアンケート調査と、サリンによる慢性の健康影響の調査を実施しました。

そして、東海村臨界事故。核燃料サイクルでは予想しなかった場所で、予想しなかった事故が起こり、その現場で作業をしていた人の被ばく線量は通常の医療基準からすると「生存不可能」と判断されるほどのものでした。
当時の私は被ばく治療の専門医ではなく一介の救命医。しかし、どんなに絶望的な状況であっても、誰かが命を救う手立てをとらなくては。
そのような想いで病院をあげてあらゆる手を尽くしましたが、残念ながら被ばく者の方2名が亡くなられました。司法解剖のために胸部の筋肉を剥がした時、放射線に蝕まれた身体は今までに聞いたことのない音を立てました。「ああ、これは人知の及ばない領域なのだ」自分の無力さを目の当たりにした瞬間でした。

理事長の役割は支援活動を支えること

2011年、東日本大震災が発生した後にHuMAの理事長の職を引き継ぎました。HuMAはボランティアで集まった医療従事者を中心に成り立っている組織。それゆえに財政基盤の弱さや人材確保の難しさといった課題もありますが、自分のこれまでの経験がここで役に立つならと思い、その役割を担ってきました。

理事長として最大の関心事は、現地に派遣するスタッフの健康と安全です。特に海外での活動の場合、気候や衛生環境だけでなく治安や政治情勢も日本と大きく異なります。
実際に、フィリピンでは一部のスタッフが体調を崩したり、ネパールでは大地震の余震に襲われたり、バングラディシュでは現地当局の警察に一時足止めされたりと、危険な場面にも遭遇してきました。
医療支援ができるのも、自分たちの健康と安全があってこそ。現地で活動が行われている期間中は常に気を配っていました。
また、HuMAでは支援活動後に現地への提言を含めたレポートを提出しており、現地に派遣されたスタッフがまとめた資料の確認を理事長が行うことになっています。
立つ鳥跡を濁さず。現地の人々に「HuMAのチームが来て良かった」と思ってもらえるように活動を締めくくるのも、大切な役割の一つだったと思っています。

2019年長野県を襲った台風の被災地で

次の時代を担う人々へ

HuMAでは、若いスタッフと共に国内の被災地で活動をすることも多くありました。彼らとの連携や対話を通して、そのエネルギーに良い刺激をもらいました。
これからの医療を担う人々にとって、災害医療の現場は非常に重要な学びの機会になると考えています。
平常時の病院での治療は、設備や資材、人員が十分に整っていることがほとんどですが、災害の現場では、さまざまな制限がある中で自分たちの能力を最大限に発揮する必要があります。
目の前の命を救うため、自発的に考え行動する。災害医療は医療倫理の出発点だと思うのです。

人の命に向き合うことは、決して生易しくはありません。しかし、だからこそ自分自身が取り組む意義がある。
そのような志を持った若い人々が、次の時代の医療を牽引していってくれることを強く願っています。

2019年HuMA導入研修
次の世代を担うスタッフに期待を込めて

災害医療支援活動には多くの方々の支援が必要です。一人ひとりの協力が支えになります。HuMAについて、より詳しく知りたい方はこちら

[TEXT:堂本侑希(広報ボランティア)]


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