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【#5夏川 知輝】厳しい状況の中でも、今自分ができることがあるはず

HuMAの活動に携わる人々に注目するインタビュー。第5回目は、救急や災害医療をはじめ幅広い専門分野を持つ医師、夏川知輝さん。HuMAの一員として10年以上活動する中で見えてきたという、夏川さんの「大切にしたいこと」とは。

活動の原点は東日本大震災

「東北で困っている人たちのために、何か自分ができることをしたい」
2011年3月、大阪府内の病院で勤務していた私は、報道で伝えられる東日本大震災の凄まじい被害状況を前にして「とにかく行動をしなければ」と考えていました。

しかし、当時の公的な医療支援に関わることができる医療従事者は限られており、現地派遣が叶うのは病院の中でも特に経験の豊富な医師たち。医師になってまだ7年目だった私にチャンスは巡ってきません。そんな中で知ったのが、HuMAの存在でした。

HuMAのチームに加わり、現地入りしたのは発災の翌月のことでした。活動場所は特に津波の被害が大きかった南三陸地方。地域の中で唯一の総合病院は4階部分まで津波に飲み込まれ、その機能を失っていました。私たちは、イスラエルの医療チームと共に比較的安全な場所に仮設の診療所を設けて外来診療を行い、合わせて避難所や在宅避難をしている家庭への訪問診療も続けていました。

自分が暮らす大阪では普段と変わらない日常があるのに、南三陸では電気も水もトイレも十分にない。避難所では人々がレジャーシートの上で生活をしている。家族や大切な人たちと離別し心の傷を負った人も大勢いる。そして、現地の医療従事者たちは疲弊しきっている。
「ここは本当に同じ日本なんだろうか」現実を目の当たりにして愕然とし、同時に「被災地の困難の連鎖を止めなければならない」と強く感じました。

夏川医師②
南三陸の仮設診療所で

東日本大震災での活動を機に私はその後、ほぼ毎年国内外の被災地で支援活動に携わってきました。それらを通じて今、私が大切にしていることが次の3つです。

Respect―現地の生活・医療水準を尊重する

私たち支援者はヒーローではありません。「自分たちのやり方こそ正しい」と考えてはいけないのです。

例えば、日本では最善のケアを受けることが当然と考えられていますが、別の国では高度な医療技術を受けることで家が経済的に破綻してしまうこともあります。また「小児科」という分野がなく、子どもと大人の診療を同じ医師が行うという地域もあります。

生活や医療のあり方はさまざまで、そのどれもが地域の中で活きているもの。必ず現地の医療従事者たちの意見を聞き、彼らの考え方、やり方に沿った形で支援を行うようにしています。

Resilience―現地の人々が自立した日常を取り戻せるように

私たちの支援はあくまでも、現地の人々が自分たちで生きていける状態を取り戻すためのものです。医療設備が十分整っていない地域で一時的に手厚いケアを提供しても、支援が終わった後にケアが途絶えてしまっては意味がない。重要なのは、災害で壊れてしまった医療システムの復活を図ることです。

私も支援活動を始めた当初は「できることは全てやるべきだ」と考えていました。しかし、以前に支援した地域のフォローに訪れた際、過剰な支援はかえって現地のためにならないということを実感しました。

災害直後の急性期医療のニーズが低くなってくると、被災地の自立を意識するタイミングがやってきます。その時期を見極め、少しずつ手を離していくことも大切なのだと思うのです。

夏川医師①
医療資材を担いで山奥の被災地へ

Relief―医療に限らず、心身を救う手だてを

HuMAは「必要な人に、必要な支援を」という考えを大切にしています。水がなくて健康被害が起こっているのであれば水を確保する手段を講じるというように、身体だけでなく生活上の困難にも目を向け、人々が安心して暮らせる状態を目指します。

そして大きな災害が起こると、悲しいことに多くの命が失われてしまいます。しかし、たとえ命が絶えることになってしまっても、そこに心の救いがあってほしい。そのために私たちは最善を尽くしたいと考えています。

コロナという“災害”の中で

コロナ禍の今、私たちはいわば被災地の中にいるような状況に置かれています。これまで支援に訪れた被災地の医療従事者の方々の気持ちを、今自分自身の実感をもって受け止めています。

特に大阪でも感染者が激増した2021年春の第4波では、医療体制のひっ迫を受けて難しい判断を迫られ、時には自分の医師としての信念を覆しかねない事態に直面したこともありました。

そんな時に脳裏に浮かぶのは「もしこの患者さんが自分の家族だったら」ということ。誰しもが誰かの大切な人で、そこに重みの差はないのです。

私たちには何かできることがあるはず。その希望がいつも自分の背中を押しているように思います。

夏川医師③

災害医療支援活動には多くの方々の支援が必要です。一人ひとりの協力が支えになります。HuMAについて、より詳しく知りたい方はこちら

[TEXT:堂本侑希(広報ボランティア)]




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