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いつかまた、駅の見えるスナックで

接待終わりはいつもスナック。さっきまでとは別人の酔っぱらったおじさま上司の話にちょうどよい受け答えをして、リクエストされた曲を歌う。

焼酎水割りが延々と出されるが、ぜんぜん酔えないと思っていた。まだ20代前半なのに、「私も歳をとったな」とか心で呟きながら分かったようになっていた。

今思えば、私の為にしてくれていた話がたくさんあった。
今思えば、あれは酔っていないと言い張る酔っ払い…

接待が終わると必ず寄るスナック

最初連れて行ってもらえることになった時は、懐ほかほかのおじさまが行きつけにしているバーならさぞ豪華だろうと期待したのも束の間、重いドアを開けるとタバコの煙は立ち込めるは、出てくるおつまみは〇ッキーかえびせんかチョコレート。

カウンターに並ぶお酒は豊富だけれど、それまでにたくさん飲んだ胃の調子が不安なので延々焼酎水割りをいただくだけ。それでもアルコールを絶やさないのは、おじさまのおしゃべりをにこにこして聞いていないといけないから。

それでも、二度目に誘っていただいた時、今晩もまあいいかな、とついていってしまったのはきっとカラオケがあったからでしょう。

ここでは今流行りのノリの良い曲を無理に選ばなくても良い。むしろ、昔の曲の方が好まれます。

平成に生まれて、80年代、90年代初頭の曲が好きだった私にとって、それが許される場所は車の中くらいだったので、マイクを通して歌えるなんてちょっと嬉しかった。しかも手拍子、合いの手付き。但し、おじさまの。

何度も聞いた、りさちゃんと駅の思い出

何か歌う度、その歌にまつわる自分の思い出話を聞かせてもらえました。酔ったおじさまから、酔った小娘が聞くその思い出話は、きっとシラフだったらあんなにも綺麗に想像できなかったかもしれません。

思い出の中の青年からうん十年も経って、ただでさえ美化されているであろう思い出が、お酒の力でさらに美しく聞こえていたのでしょう。しかもそのスナックのカウンターからは横目に新幹線が見えるのですから、それはもうセンチな気持ちに拍車がかかります。

当時私は遠距離恋愛中だったので、新幹線ホームを見るだけで胸がぎゅっと締め付けられたりして。月に多くて3回、会えても2日目の日曜の夜には改札の前で手を振る。

そうやって、次の日曜の別れ際のことをぼんやり考えていたりする時に、上司から竹内まりやの「駅」のリクエスト。竹内まりやさんの曲は知っているのもあるけれど、それは知らないな断ろうかと思いましたが、ここが昔の曲の良いところで、横で人が歌ってくれれば何となく歌えてしまう。

最初は上司が殆ど歌っていましたが、次からは毎回私がフルで歌わされることに。もちろん、それにまつわる思い出話も、そのたびに聞くことになります。もう、登場人物もストーリーも完全に覚えています。美人なりさちゃんと、可愛い系の将来の奥様。りさちゃんとの再開・・・

3度目からはママも、チイママも「あら~~~ちゃん。また一緒にお付き合いしてくれるのね。」と言ってくれて。はじめてお店の方に顔を覚えてもらったのがそのスナックでした。

社会人2年目というまだまだ未熟者であったのにもかかわらず、職場では任される仕事が増えてきて、何でも分かったような気持ちになっていた頃です。

もっと新しいものを求めたあの頃

今思えば、もちろんママやちいママは”私に”付き合ってくれていたのだし、おじ様たちも、分かったような顔した小娘に付き合ってくれていたことが分かります。

そんな周りの気持ちには気づかないうちに、職場ではどんどん任される仕事のレベルは上がっていっても、自分はそれをどうにかひとりでやっていけていると思っていました。

その後、もっと新しいやり方、新しい場所を求めて3年経たずに転職し、今ではスナックとは縁のない生活です。

でも、ふとした時にあのスナックでのことを思い出します。あんなに、仕事も、人間関係までもが古いやり方にうんざりしていたのに、今では恋しいなとさえ思うのです。

やってきた仕事、その成果よりも、よく思い出すのは案外こんなこと。きっと、私はこういう思い出を大事にしてきたいんだろうな…おセンチめ…。

でもそのことに気づいた時からは、仕事関係だと割り切るばかりではないご縁だとか、結果は大事だけれど急ぎすぎない姿勢とかを大切にできるようになった気がします。

もちろん、まだどうやっていいか分からないときも沢山ありますが、そりゃあ、まだまだ分かるはずないよなあと思えます。

いつかまた、あのスナックで

こんな自分を、今また、歳をとったなあと思ったり。けどきっと別のタイミングでまた、歳をとったなあと思って、本当に歳をとったころには、まだ若い!とかいうのでしょうか。

因みに、本当に酔っぱらっている人は、逆に、酔っぱらってないよ!まだまだ行ける!と言い張ることがよくある気がします。

いつかまたスナックに行くことがあれば、私も誰かに「駅」を歌ってもらって、私の思い出話をするのかもしれませんし、「昔こういう上司がいてね。」と美人なりさちゃんの話をするかもしれません。いや絶対にしてしまうと思います。それも何回も…ごめんなさい…その時の誰か…。

もし、その上司とまた会えたら、私が覚えているその話と本当の話の答え合わせをしたいです。今度は好みのウイスキーでほろ酔いながら。もちろん、あの駅の見えるスナックで。

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