朝5時のコーヒー

外はまだ暗い。

冬のひんやりとした、澄んで静かな空気で世界が満たされているこの時間。

少しずつ白みはじめる空と、時折通りかかる新聞配達の音。

そんな空気を壊さないように、手になじんだミルを僕はゆっくりと回し始める。ゴリゴリと小気味良い音が空気を震わせ、豆を挽く確かな重みを手に感じる。ふわりと鼻腔をくすぐるモカコーヒーの華やかな香りが、早朝の透明に色を付けていく。

にわかにやかんの湯が沸騰し、静寂の帳を破るかのようにシューッと白い湯気を噴き出す。

やかんをなだめるようにコンロの火を消して、ポットに湯を注ぎ、丁寧に水気を取ったネルに挽いたばかりのコーヒー粉を入れる。

粉の上に、ゆっくりと、置くように湯を落としていく。粉がマフィンのように膨らみ、艶やかな香りがぱっと一面に広がる。まるで森の中にいるかのような、静寂と植物の匂いが立ち昇る。

十分にコーヒーを蒸らしたら、「の」を描くように丁寧に丁寧に湯を注ぐ。コーヒーと一緒に、心の中を漉すようにゆっくりと。コーヒーが落ちる音に耳を澄ませながら。

そうして淹れたコーヒーを片手に、お気に入りの本を読む。不思議なくらい心地よく、内容が頭に入ってくる。

メモ帳にその日することを書き出して頭の中を整える。

朝日の柔らかな光を感じたら思い切って窓を開ける。ゆっくりと深呼吸。冷たい空気が肺を満たし、背筋がピンと伸びる。新鮮な酸素がカフェインと共に脳を巡り、微睡から一転すきっと冴え渡る。コーヒーの香りに包まれて、心の底から充実感が湧き上がり、来るべき新しい1日への活力が戻るのを感じる。

世界が起きる前の、最高の一杯。





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