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「おいしい」は次の世代へと続く愛情の恩送り - 熊本の「食」を支える料理家・相藤春陽さんに聞くこれまでとこれから -

「今夜の夕飯何にしよう?」

毎日のおうちごはんに、悩みはつきもの。
でもそんなあなたに、熊本から寄り添ってくれる家庭料理の強い味方がいます。それが今回ご紹介する、料理家の相藤春陽(あいとうはるひ)さん。家庭料理の味方であり、熊本の食のスペシャルなコーディネーターでもある相藤さんに今回、「食」を通したコミュニケーションについてお話を伺って来ました!


Hub.craftと春陽さんの出会いは新町の事務所。当時春陽さんも同じビルにいらっしゃったご縁から、春陽さんが主催のHARU lab.kitchenのレッスンの配信のお手伝いをさせていただいたり、「Premium chefs of Kumamoto」や「もったいなかレストラン」などのプロジェクトで食のコーディネートをお願いするなど、公私共にお世話になっております。

今回は、春陽さんとHub.craftの山下史さんお二人に、春陽さんのお仕事について、そして「食」を通じたコミュニケーションについてお伺いしました。

きっとあなたもこれを読んだら、なんだかおうちごはんが恋しくなるはず。
ぜひお楽しみください!



「おいしい」の瞬間、人は笑顔にしかならない。

<相藤春陽さん @HARU lab.kitchen>

ー春陽さんの現在のお仕事は、どんなきっかけで始められたんでしょうか。

相藤春陽さん(以下相藤)「以前は管理栄養士として病院で栄養指導などを行っていました。その時に、『病気になる前に健康的な食事ができていれば病気にもなりにくいはずなのに、病院以外で食事について気軽に聞ける人っていないのってなんでなんだろう。』と疑問に感じ、だったらそういう食事についてカジュアルに聞ける場所を自分で作ろうと思い、10年前に料理教室を始めたのがきっかけです。」

ー春陽さんは、どんな瞬間に「このお仕事やっていてよかったな」などと喜びを感じますか?

相藤「一番嬉しいのは、料理教室に来てくださったみなさんが家に帰って復習して『家族からすごく喜ばれて嬉しかった!』と言ってくださった時が一番嬉しいですね。私自身も色々な料理教室に行ったことがあるんですが、やはり家に帰って再現しようとしても、自分は教室で食べて満足してしまっているし、材料がなかったり道具がなかったりで、二の足を踏んでしまうことって多いんです。だからなるべく再現しやすいように、季節のものでスーパーで手に入りやすい材料などを使って、この工程だったらできそうというものを料理教室では取り入れるようにしているので、家で作りましたー、っていう感想とか、SNSなどで家族がすごいおかわりしてくれた、というコメントを見ると『よしっ。』って思いますね。」

ー春陽さんは、料理教室に来てくださった方に、どんなメッセージを伝えたいと思われてますか。

相藤『おいしい』って言う時って、誰でも笑顔にしかならないんですよね。おいしいものを食べると元気になれるし、夕食でおいしいものが出て来たら、その日1日何か嫌なことがあって疲れていても白紙に戻せちゃう。でもお母さんたちって、日々日々ご飯を一生懸命作っても、なかなかおいしいとかありがとうって言ってもらえない。それが、料理教室に来たことで家族においしいって言ってもらえたとか、家族から料理教室また行って来て!って言われるとか。そういうのって、家族もしあわせだし、お母さんもしあわせですよね。そんな風に家族が仲良くなれたり、しあわせ感が増したり、その真ん中に食があったらいいな、と。そのお手伝いができたらと思っています。」

<昭和なミートソース | HARU lab.kitchen>


食は家族の絆。
食の力の偉大さを感じた「家出カレー事件」

ー家族にとっての「食」の大切さを改めて感じた思い出はありますか。

相藤「息子が中学生くらいの時に、反抗期で『俺は家出する』とか言って出て行こうとしていたことがあるんです。その時、まさに玄関先で家を出ようとする息子に、ひとこと私が、

『今日はカレーなんだけど。』

って言ったら、そのまま黙って家に戻って来た、というエピソードがあります。他には何も言わなかったのに、すごい面白いなって思いましたね。ちなみにそのあとは黙ってカレー食べてました(笑)。」

ーカレーのひとことで家出を取りやめ!(笑)それはでも、たった一言でこれまでの春陽さんが作ってくれていた、愛情込めたこれまでのごはんの記憶がばーっと息子さんの中に蘇ったんでしょうか。なんだか素敵で、息子さんが可愛くて、なんだか私も泣けて来ちゃいました。

相藤「私ももらい泣きしちゃいました(笑)。そうですね、食卓で別に普段からいろいろ食べ物の話をしているわけではないですが、母親が毎日毎日料理を作ってくれているっていうことを、子供は子供なりに感じた瞬間だったのかもしれないですね。ちなみに、うちのカレーは特別なカレーでもなんでもなくて、ただのバーモントカレーなんですけどね(笑)。カレーの威力ってすごいなと思って。」

親子の絆になぜか泣いちゃうエムコともらい泣きする春陽さん

ーHubさんにCMにしてほしいくらい素敵なエピソードでした。

相藤「ハウスに売り込みにいきましょう(笑)。」

ーお話を聞いていて、料理って、本当に積み重ねた家族との愛情のコミュニケーションなんだなって感じました。

相藤「そうなんですよね。ひとつ、世の中のお母さんたちが勘違いしているのかなと感じるのが、『おいしい料理を作らないとだめ』って思い込んでしまっているんじゃないかなと。私は、大人になって辛いときとか苦しいときに、やっぱりお母さんのあの料理を食べたいと思い出すことがあるんですが、それって他の人が食べたら別にそんなにおいしいものじゃなかったりするんですよね。お母さんの料理はおいしいとか美味しくないとかじゃなくて、お母さんが食べさせ続けることでそれが家の味になっていくもの。だからバーモントカレーでも立派な母親の味なんですよ。その味を食べることで、ちょっと元気がもらえたり、頑張らなきゃと思えたり、家出を思いとどまったり(笑)。頑張って自分のために作ってくれる料理っていうのは、それだけですごく大事なものなんじゃないかなって思います。」

ー私も料理があまり得意でない母親なんですが、とても勇気づけられるお話です。

相藤「だからなぜ今家庭料理をやっているかというと、お母さんがたとえ下手くそでも一生懸命作ってくれたということそのものに子供は愛情を感じられる。そしてその経験があることで、その子が大人になって自分が親になった時に同じことをしてあげられる人になるんじゃないかと思っています。」

ーなるほど、家庭料理を通じた、愛情の"恩送り"っていうことですね。めちゃくちゃ素敵です。



本気の「食べたい!」で、
カメラマンのポテンシャルを引き出すのが仕事

ーお料理教室のお仕事のほか、食のコーディネーターとしても活躍中の春陽さんには、Hub.craftでもたくさんお世話になっていると言うことでしたが、山下さんから見た春陽さんの素敵なところはどんなところか教えてください。

山下史さん(以下山下)「相藤さんとは、最初に事務所を構えたビルが同じというご縁でお知り合いになったんですが、Hub.craftは食に無頓着な独身男性メンバーも多いので、本当にお仕事だけじゃなくてプライベートでもメンバー全員めちゃくちゃ胃袋掴まれています。

相藤さんはものすごく良い意味で『食の変態』でして(笑) 。熊本県の稀有な生産者さんたちとのつながりも強く、本当においしいものをめちゃくちゃご存知でいつも素晴らしいセレクションをしてくださるんです。僕もこれまで食関係の仕事もたくさんしてきたので知っているつもりになっていましたが、相藤さんに出会ってから、僕もまだまだだったんだなーと気付かされました。

<もったいなかレストランでのワンシーン>

先日noteでも取材いただいたコーヒーの佐野俊郎さんと相藤さん、お二人とも扱うものが違うだけで、こだわりの強さは同じ変態レベル。このお二人合わさるともう最強ですよ。」

相藤「Hubさん、本当に食関係のお仕事多いですもんね。多分ご本人が食べ物が好きだからなのかもしれないですが(笑)。」

山下「おいしいか、楽しいかでしかお仕事選ばないですからね(笑)」

<コーディネートを担当された Premium chefs of Kumamoto プロジェクト>


ーコーディネートの他に、撮影時の食べ物のスタイリングなどではどんな撮影スタイルで取り組まれているんでしょうか。

山下「相藤さんに撮影の時の食べ物のスタイリングをお願いする時にめちゃくちゃ素敵だなと思うのは、もうそのまま撮影隊が『食べてもいいですか』って言いたくなるような"食べられる"スタイリングなんですよ。よくあるのが、映像で食べ物をおいしそうに見せるために、艶だしのためのスプレーをかけたり、湯気の代わりにタバコの煙で演出したりと、食べられないスタイリングって多いんです。でも相藤さんがしてくださるスタイリングは全く違って、もうそのままとにかく美味しそうなんです。そういうのって映像を通しても伝わると思っていて。」

相藤「この間、Hubの野田さんと一緒に撮影してる時に『野田さんがカメラを通して食べ物を見て、本気で食べたーい、って思ってくれないとだめだよね』っていう話をしたんです。そしたら野田さんが『常に思いながら撮影してます。』って言ってくれたので、だったらよかったって。そういうカメラマンの感じている気持ちって、映像に出ると思うんですよ。だから香りとかは映像には映らないけど、カメラマンさんが撮影しながら『うわこれいい匂い〜』とか言ってくれるように作らないと、本当においしそうな映像は出てこない。そんなカメラマンさんのポテンシャルを引き出すのが、私たちの仕事かなっていう気がしています。」

ーカメラマンのゴクリっていう音が入ってしまいそうな臨場感ある映像が出て来そうですね!!

山下「やっぱり、ご依頼いただいた企業の方とかも、実際に本当に美味しそうなスタイリングであがってくると関係者のモチベーションって絶対上がってると思うんですよ。こんなに綺麗になるんですね!とか、こんなにおいしくなるんですね!とか。物はすごく良くても素人が作ると冴えないのが、相藤さんにお願いすることで見栄えも味も最高においしそうになるので。」



熊本の「お母ちゃん」、相藤春陽さんのこれから

ー料理教室や、レシピ開発、食のコーディネーター、スタイリスト。さまざまな形で熊本のみなさまに「おいしい」を届け続けている春陽さんが、これからも続けていきたいこと、挑戦してみたいことがあればぜひ教えてください。

相藤「今の料理教室の形はとても気に入っているので、これからも続けていきたいなと思っています。次は、このワイワイやっている雰囲気をそのまま配信して、『あ、こんなもんでいいんだ!』とか思って気軽に来てくださったら嬉しいですね。映像を通して、料理の楽しさが伝わって、料理の世界に飛び込んでくれる人が増えたらいいなと思います。

チャレンジしてみたいことは、以前1年間だけ家庭料理のお店を開いていたことがあったんですが、あと5年くらいたったらまたその『春陽食堂』を再開したいなと思っています。」

ーえっ、それはもうたくさんの熊本の胃袋満たされたい癒されたい方が集まりますね!

相藤「基本ランチのみの営業で、たまに夜の営業をやるスタイルだったんですが、メニューは日替わり定食のみで、15食限定。角煮を作ったり、肉じゃがを作ったり、鯖を焼いたり。家で食べられそうで食べられないもの。今まではずっとあったんだけど、なくなってしまいそうな家庭料理を出していました。昔は家で切り干し大根とかきんぴらとか作ってましたけど、最近はお惣菜で買うことが増えて家では面倒くさいので作らない。でもやっぱり食べるとおいしいし、食べたらやっぱり作ろうかなって思ってもらえると思うので、ハードルを下げながらこれからも『家庭の味』を応援していけたらと思います。」





おはなしが楽しくてインタビューをやや忘れるエムコ


春陽さんとお話しさせていただいた1時間はあっという間で、なんだか自分も春陽さんのご自宅に招かれて一緒に食卓を囲んでいるようなあたたかい素敵な時間でした。春陽さんの作られるごはんはおいしいんだろうなあ。春陽さんの作ったコロッケ食べたいなあ、と思いながら過ごしていたため(春陽さんのFacebookの投稿で写真があがっていた)、早速夜ごはんにはコロッケを作ることにしました。

1日3食、365日。
私たちの暮らしに「食」って切っても切り離せません。

食べるのは好きだけど、作るのはなぁ・・。と思っていたエムコですが、その「おいしい」のその先にある、1日の疲れのねぎらいや、その人のしあわせな未来、ちょっと凹んだ時、辛い時になんか頑張れちゃう力にもしかしたらちょこっとでもなれるのかもなと思ったら、なんだかごはんづくりもいいもんじゃないかと思えてしまったのです。

熊本だけでなく、日本全国の"家庭の味"を支えるために日々頑張っているみなみなさま。ぜひちょっと誰かに頼りたくなったら、ぜひ包み込む優しさと明るさを併せ持つ、熊本の「お母ちゃん」相藤春陽さんのHARU lab.kitchenへ!

お仕事のその先に、「おいしい」をみんなで囲みたいみなさまも、ご連絡お待ちしております。

春陽さん、ありがとうございました!



インタビュー:相藤 春陽、山下 史(Hub.craft)
写真:野田 和樹
映像:Hub.craft
文:谷本 明夢

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