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熊本の珈琲レジェンドに聞く、珈琲で彩り広がる世界と、ちょっと暮らしを豊かにする珈琲の愉しみ方

毎朝の日課といえば、一昨年のクリスマスに夫に買ってもらったエスプレッソマシンで挽きたてのコーヒー☕️を一杯飲むのが楽しみなエムコです。

特に仕事に向き合う時、自分の頭を切り替えたい時など、コーヒーに大変お世話になっている方も多いのではないでしょうか??

本日は、Hub.craftのメンバーも日頃からとってもとってもとーってもお世話になっている熊本のレジェンド・日本コーヒー文化学会会員の佐野俊郎さんにお話を伺って参りました!

あなたにとって、コーヒーってどんな存在ですか?

日頃どんな風にコーヒーとの時間を愉しんでますか??

クリエイターにとってもきっと、切っても切り離せない身近なコーヒーという存在について、改めてちょっと佐野さんと一緒に見つめてみたいと思っております。


やっぱりコーヒーは苦くてコクがあるものがいい。
コーヒーは嗜好品ですから。

カウンター越しの佐野さん。すでにコーヒーの芳醇な香りがしてきそうです。


熊本市内のとあるカフェに赴くと、カウンター越しに佐野さんがお出迎えしてくださいました。ご挨拶させていただくやいなや、「じゃあ淹れながらお話させてもらいますね。」とコーヒーを2つ、見ているだけでもワクワクするほどにふわ〜っとふくらむ美しいドリップで淹れてくださいました。

*エムコは名古屋からリモートでインタビュー。現場にはHub.craft山下さんに代わりにかけつけていただきました。

佐野さん(以下佐野)「今、お2人分たてたんですけど、すいません今朝はこちらで2人で飲みますので、エムコさんは、ちょっと飲んだつもりになってくださいね。 」

ーなんと!私は今ほど、今熊本にいないことを悔しく思ったことはありません(笑) や、山下さん、一言コーヒーの感想をぜひ・・・。

山下さん(以下山下)「あー・・・。。。・・・おいし。(素)」

佐野「エムコさんも熊本来てくださったらいつでもお淹れしますからね。いますぐでもいいですよ(笑) 」

ーいますぐ飛んでゆきたい気持ちでいっぱいです・・・が、ここで佐野さんと山下さんの出会いのお話などお聞きできますでしょうか?

佐野「山下さんとはラジオの時代にご一緒させていただき、それからのお付き合いになりまして、もう10年弱くらいになりますね。」

山下「そうなんです。当時僕が担当していたコーヒーをテーマにした番組で、3年ぐらい佐野さんと一緒にやらせていただきました。佐野さんには番組でコーヒーについてお話しいただいたり、監修を担当していただいたり。さらに毎回収録の時に、わざわざその日に合わせたコーヒーを持ってきてくださったりして、めちゃくちゃ有意義な時間だったんですよ。」

ーそれはすごく素敵な企画ですね!!

山下「僕それまでコーヒーを飲む習慣が全くなくて、紅茶か日本茶しか飲まない人間だったんですけど、佐野さんと過ごさせていただいた3年ぐらいで完全にコーヒーファンになってしまいまして…。ついには喫茶店も自分から行くようになっちゃいました。」

ー山下さんのコーヒーの原体験は、佐野さんが淹れてくださったコーヒーだったんですね。

山下「そうです。完全に」

佐野「はい、だましてコーヒーに麻痺させちゃいました。(笑) 」


ー佐野さんの淹れるコーヒーは、言葉で表現するとしたら、どのような味のコーヒーなんでしょうか?

佐野「コーヒーっていうのは、大前提として、美味しいものではないんです。 やっぱりガツンときたり、苦っ!って思ったり。でも飲んでいくうちに気がついたらすーっと入っていったとか、そんな感じのコーヒーが美味しいのかなと私は思っています。嗜好品ですから。最近スルッと飲めるとか、これなら子供でも飲めるかも、なんて言われるコーヒーも多いんですが、私はやっぱりコーヒーは強くないとって思っています。」



手挽きのコーヒーと、イチゴと、焼き立てのパンと。

Zoom越しにお話し聞かせていただいておりました!

ー佐野さんにとっての、一番古いコーヒーとの記憶ってどのような風景の中にありますか?

佐野「そうですね、ずっとさかのぼっていきますと、小学校入る前ぐらいの頃に、うちの祖母がよくこの街中のコーヒー店に来てたんですね。そしてそこに私も一緒に連れて行かれてコーヒーを飲んだのが、私にとってのコーヒーとの最初の出会いかな、と思います。

そして祖母のところに泊まると、次の日の朝、祖母がカリカリカリカリ、と、手挽きのミルでコーヒー豆を挽いてくれていました。そしてイチゴの季節に、庭に植えてあったイチゴをとってらっしゃいって祖母が言うもんですから、自分で摘んできまして、そしてそこに自分でこねたパン、そしてコーヒーという朝食を食べていたんですね。これが私のコーヒーの原体験、原風景です。」


ーコーヒーとイチゴと焼き立てパン・・・。想像しただけで美味しそうですね。

佐野「こんな詩をご存知ですか。

『好きなもの。いちご、コーヒー、花、美人。懐手(ふところで)して、宇宙見物。』

寺田寅彦さんという物理学者の方がコーヒーを詠んだ詩なんですが、この壮大な宇宙を見物している方の好きなものの中に、コーヒーやイチゴが入ってるという。なんだかすごく嬉しいですよね。」



日頃の"うさ"を捨て、代わりに
その人の人生の凝縮したものを置いていってくれる
そんなスイッチの切り替えの場所

ー佐野さんにとって、コーヒー店でのお仕事の楽しみはどのようなところがポイントですか?

佐野「コーヒー店で働いていて楽しいなと感じるのは、やっぱりお客さまとの会話ですね。いろんな専門家の方がいっぱいいらっしゃって、本当にいろいろなことが話題になるんですが、そういう方が自分の人生を凝縮したものをコーヒー店に置いてってくださるんですよ。お客さまにコーヒーを出す、すると美味しかったよと逆に言っていただいてお代金もいただいて、そしてそういう凝縮したものを置いていってくださる。コーヒー店はそんな場所なのかな、と思います。

はじめの頃は恥ずかしながら、例えば絵画のお話だったり、知らない話題も多かったので、自分でも休みの日に調べてみたりしていました。でもそれもやらなければならない勉強という感じではなく、お客さまとより深いコミュニケーションをするために必要なものとして楽しんでやっていたように思います。」

ーそんなお客さまにとって、コーヒー店での時間ってどのようなものなんでしょうか?

佐野「夜、営業が終わってお店側の人間が掃除をするじゃないですか。なんでそれをしなくてはいけないのかというと、それはみんなお客さまはコーヒー店に日頃の "うさ" を捨てていっているから、それを集めて捨てないと、次の日に息が詰まってしまう。だから掃除をするんだ、なんていう話を修行をさせていただいていたコーヒー店で教わったことを覚えています。

お客さまが捨てた "うさ" を綺麗に掃除してあげると、また次の日、みなさんあーだこーだと "うさ" を捨てていく。そして "うさ" を捨て終わったところでさらにちょっとお話を振ってあげると、今度は専門の話をどんどん出して置いていってくれる。そんな空間だったような気がします。みなさんそうやって "うさ" を捨てきることで、上手にコーヒー店でスイッチの切り替えをされているんじゃないかなと思います。」



人生で一番おいしかったコーヒーは、
ボランティアの学生がくれた
インスタントのコーヒーだった

ー佐野さんが忘れられないコーヒーとの思い出は何かありますか?

佐野コーヒーっていうのは、嗜好品であって、正直、生きていくために必要なものではありません。特に私達は2016年に熊本地震を経験しました。そういう地震などの災害の後って、コーヒーなんかいらないんですよ。お水が必要です。食料が必要です。寝るところも必要です。でもコーヒーなんかいりません。

でも、私も当時体育館に避難をしていたんですけれども、4日、5日避難して、水ももらえて、食事もできた。そんなときに、ある大学生のボランティアの方が、インスタントコーヒーをくれたんです。

このインスタントコーヒーの、なんと美味しいこと。
この、香りの良いこと。

やっぱり人間、必要な順番があるんですよね。こんなときには、ドリップのコーヒーだから、とか手挽きのだから、とかじゃないんです。鼻に届いたコーヒーの香りが、ただそれだけで元気が出てくるというか、もう1回トライしようという気持ちになれるというか、心の切り替えをしてくれた、そんな経験をしました。だから最近飲んだコーヒーの中で一番美味しかったのは、避難場所で飲んだインスタントコーヒーです。」



そのときの気分に合わせてカップを変えて
コーヒータイムで気分の切り替えを

ーとてもコーヒーを通じてたくさんの方と素敵な関係を築かれている佐野さんに最後にアドバイスをいただきたいのですが、仕事場や自宅で仕事をしていて、スイッチをうまく切り替えたいとき、どんなふうにコーヒーを愉しんだらいいでしょうか?

佐野「自宅で仕事をされてる方ってなかなか気持ちの切り替えできませんよね。そんな方にはコーヒーを飲む時に、カップをちょっと変えてみることをぜひ試してみていただきたいなと思います。

朝から飲むときのコーヒー、食後のコーヒー、ほっと一息のコーヒーで、全部美味しく感じる大きさ・量が違うんですよね。 ずっとマグカップで飲んでたら、美味しい食事のあとだと量が多くて飲めない。カップが大きすぎるんです。食後はちょっと小ぶりで、濃厚なコーヒーを。作業してるときはマグカップでもいいですし、ゆっくりするときはカップ&ソーサーでゆっくり愉しむ。そうするだけでさらに美味しく感じるコーヒーになると思います。」

ーカップを変えるだけでも気分がぐっと変わって、コーヒーがさらに美味しく感じられそうですね!

佐野「自宅にいると気分を変えるのは一番難しいですよね。切り替えのスイッチを、いつでも切り替えられる代わりに、いつでも切り替えられない。外に出ればですね、ちょっと公園に座るだけでも切り替えができますけど、家の中にいるとなかなかできない。 そのスイッチの切り替えのお手伝いが、もしかしたらコーヒーができるのかもしれません。

お子さんを抱きながら飲まなきゃいけないコーヒーもあります。でもそれでやけどをしないようにと思いながら飲むコーヒーも、コーヒーなんですよね。 コーヒーはちゃんとドリップしなきゃいけない、とか全てがそうではないので、インスタントでもいいと思います。どんなコーヒーでも、美味しいコーヒーを用意して、自分で "さ、切り替えをしよう" と思えば、もうその思った時点でもうその瞬間、切り替えできているんじゃないかなと、そんなふうにも思います。」


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佐野さんにお話を伺ってから、今までなんとなく飲んでいたコーヒーの一杯一杯を愉しみ尽くしたい気持ちになり、しまってあったコーヒーミルとドリッパーを取り出して、佐野さんのいらっしゃるコーヒー店にいる気持ちになりながらとっておきのカップ&ソーサーでコーヒーを飲んでみました。

"気持ちの切り替え" は、コーヒーの苦さだったり、香りだったりを通じて頭の中にあったものを一度すっからかんにして、またよーし、と思うことで自分でもスイッチしていけるものなのかもしれません。

佐野さんのコーヒー店は、事情によりお店の場所は記載できませんが、熊本市内でもしカウンター越しに佐野さんを見つけることができたそのときには、是非ぜひ、みるだけでも楽しく美しい、佐野さんのドリップコーヒーと、やわらかいトーンでお話しくださる佐野さんの話術とを存分に愉しんで、みなさんも「スイッチ」いれてもらってみてくださいね!

▽佐野さんがドリップを淹れられている動画がこちら

佐野さん、本当に素敵な時間をありがとうございました!



インタビュー:佐野俊郎
写真:山下史(Hub.craft)
文:谷本 明夢







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