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黄酒とは?中国最古の醸造酒はどんな酒なのかをざっくり解説!<前編>

黄酒屋と肩書きしておいて、noteで黄酒についてしっかり説明をしたことがないな・・・ということで、黄酒がどのような酒なのかを簡単にまとめてみます。

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「黄酒?なにそれ?」


そう思われる方がほとんどだと思います。

でも、そういう方でも紹興酒はご存じですよね。


実は「紹興酒」は、黄酒の一種です。


と聞いても、まだ「???」という方がほとんどだと思います(笑)

なんとなく、中国酒=紹興酒と思われている方は少なくないのではないでしょうか。これは、紹興酒がひとつの酒ジャンルになってしまっていることを意味します。

紹興酒は酒のジャンルではなく、とある地方の地酒です。

なので、この先を読む前にまず最初に行っていただきたいのは「中国酒=紹興酒」という概念をポイッと捨ててください。

紹興酒は確かに中国酒を代表するものですが、中国酒=紹興酒と思っていると頭が混乱して理解しづらいかと思います。真っさらな状態でお読み頂けたら幸いです。

///執筆者紹介///
中華郷土料理店に9年在籍し、黄酒専門店「酒中旨仙(うません)」初代仙長との兼任を経てフリーへ。ブログやYouTubeなどで中国酒の啓蒙活動を続ける。現在、紹興酒専門家資格の立ち上げに携わり、鋭意テキスト制作中。また、都内某店で酒&サービス担当(神出鬼没)。



黄酒とは?

読み方は黄酒(ファンジョウ:huang jiu)といいます。日本では他にもファンジュウとか、ホワンチュウ、ファンチュウなど呼ばれています。

黄酒は中国最古の醸造酒として4000年〜10,000年という大変長い歴史を持っています。中国では世界三大古酒のひとつとして紹介されることもあります。

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簡単に言えば清酒の中国版と思っていただければわかりやすいのではないでしょうか。

以前「日本酒と紹興酒の違い」でも書きましたが、2つの酒は製法や原料など大まかな部分で似ている部分があります。しかし、黄酒には他の酒にはない非常にユニークな個性があります。

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黄酒は何からできている?

黄酒は穀物からできています。最もよく用いられている糯米をはじめ、黍米(きび)や黒米、モロコシなどなど種類はさまざまです。

この点が黄酒の個性を形作っている要素のひとつといえます。

他の酒を見てみると、日本酒は米、ワインはぶどうなど、品種はあれど原料はひとつのジャンルで決められています。しかし、黄酒は「穀物」なので、自由度の高い原料選定が可能です。

原料が異なれば味わいも異なります。そして実際にその違いは、色や香り、風味へ如実に表れています。

黄酒と紹興酒って何が違うの?

日本酒が全国各地で作られているのと同じように、黄酒も中国各地で醸されています。

産地を一部挙げてみると、ビールが有名な「山東省青島」、烏龍茶の名産地「福建省」、シルクロードの始まりの都"長安"のある「陝西省」など北から南に点在しています。

その中でも最も有名な黄酒といえば「紹興酒」です。黄酒生産量の大半を占め、日本のみならず世界的にも知られるチャイニーズライスワイン。

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「紹興酒は知っているけど黄酒は知らない。」そんな方がほとんどでしょう。

紹興酒はいわゆる原産地呼称の認定酒。上海の南にある浙江省紹興市で造られ、中国国家が定めた品質規格をクリアした一級品の地酒です。

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↑2018年撮影。浙江省紹興市の風景。昔ながらの街並みが残っています

黄酒が知られていないのは、お酒のカテゴリーよりも地方の地酒が有名になってしまったという事態を表しています。

実は中国でも地方によっては黄酒という名称があまり使われていなかったりします。(広西チワン族自治区へ行ったときに「黄酒ありますか?」と聞いても通用せず、「糯米酒」と呼ばれていました。)

この事態はそんなにおかしなことでもなくて、他のお酒のジャンルでも起きています。

身近なところでいえば、テキーラがそうですね。メスカルの一種ですが、メスカルよりもテキーラの認知度の方が圧倒的に高いです。

あとは、シャンパン。僕がお店で黄酒と紹興酒の違いについてお話するときはシャンパンを例に出すと、みなさん「あー!」と納得していただけます(笑)(シャンパーニュ地方のスパークリングワイン:紹興地方の黄酒)

なぜ黄酒の中で紹興酒だけ認知度が高いのかはまた別の機会に考察してみてもいいと思うのですが、2000年以上の長い歴史があり、中国が国を上げてプッシュし続けてきたのが大きな理由じゃないかなと思います。

少し話がずれましたが、紹興酒は日本では一般的です。飲んだことがある方なら、味もなんとなくイメージが湧きますよね?

だからこそ、黄酒を飲むときっと驚かれるはず。それは、銘柄によって味が明確に異なるからです。

黄酒の魅力は銘柄ごとに異なる個性!

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黄酒の個性はこの色彩豊かな酒色を見るだけでも明らか!

この写真を見ていただくだけでもご理解いただけると思うのですが、色が見事に違いますよね。もちろん、味も全然違います。紹興酒っぽいのもあれば、シェリーのようだったり、日本酒の古酒のようだったり、バリエーション豊かです。

ボトルデザインも画一性が全くなし!形がユニークすぎてボトルの開け方がわからないときもあります(笑)専門店の店長時代には、お客さんからも「開け方がわかりません」とお問合せいただくことが多数ありました・・・(開け方の説明書を作りました)

黄酒のボトルは陶器製のものが多いです。これが古風な厳格さと、親しみやすい可愛らしさを兼ね備えていて、いいんですよね。「花瓶用に持って帰ってもいいですか?」なんてお客さんもいたりします。ボトルデザインも酒を楽しむという点では、大事な要素のひとつです。

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瓶や陶器、ハーフワインのような形などさまざまな形があります。

個性溢れる酒、黄酒。次からその個性をさらに詳しく見ていきましょう。代表的な産地を大きく3つに分類して解説していきます。

各エリアの特徴で分類される"中国三大醸造酒"

黄酒が生産されている各エリアの特徴を紐解いていくと、大きく3つのエリアに分類ができると言われています。

それが「北方派」「江南派」「南方派」です。

各エリアの主な産地や原料、特徴や代表銘柄などをそれぞれまとめてみました!

❶北方派(ほっぽうは)

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・産地:山東省、内蒙古、陝西省など
・原料:黍や黒米などさまざまな主原料を用いる個性派が集うエリア
・味わい:風味も斬新なものが多い
・代表:即墨老酒(ジーモウラオジョウ)
黍を大鍋でドロドロになるまで炒め煮込み、その焙煎の香りがお酒の味わいとしてダイレクトに表れる唯一無二な黄酒。

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▲個性的なスモーキーフレーバーがクセになる「即墨老酒」


❷江南派(こうなんは)

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・産地:上海、浙江省、江蘇省など
・原料:糯米、麦曲を使用する黄酒が多い
・味わい:紹興酒系統の味わいがメイン
・代表:紹興酒
さまざまな国家基準をクリアした中国を代表する黄酒。上質な糯米と麦曲を使用し、他の酒にはない独特な酸や厚みのあるボディ感が特徴。

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▲紹興酒も銘柄によって味が異なります。これは甘酸のバランスが絶妙の
「東湖12年」。ぜひ飲んでみていただきた紹興酒!


❸南方派(なんぽうは)

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・産地:福建省、広東省など
・原料:麹に紅曲を使用するものが多い
・味わい:濃醇でコクがあり甘口タイプが多い
・代表:沉缸酒(チェンガンジョウ)
福建省の歴史ある黄酒。糯米を主原料として、紅曲の他、多数の漢方を使用した「薬麹」を使用し、濃醇で甘味のある味わいが特徴。

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▲全国評酒会で過去最多の3度金賞を受賞している「沉缸酒」

各地方の黄酒を制覇している方は、なかなかのツウです。ぜひ友達になっていただきたい(笑)

ただ、説明しておいてなんですが・・・ここで一点注意していただきたいことがあります。

中国三大醸造酒というのは中国で一般的に知られている定義というわけではなく、日本において過去の文献を参考に解釈されたものです。なので、中国の方に聞いても「何それ?」と言われるでしょう。

そもそも中国でも黄酒が一般的に親しまれている酒か?というとそういうものでもなく、詳しい人も多くありません。(これが悲しい現実・・・。)

中国の方に「僕は黄酒が好きだ」というと「黄酒は料理酒だよ」と一笑されることも多々あります。

それでも、僕は黄酒が面白くて楽しい酒だと思うし、可能性を大いに秘めているなと思っています。まさに、眠れる獅子!

僕たちが知らない黄酒はまだまだたくさんあります。でも、日本には流通している銘柄も情報も限られています。

そういう状況下で生まれた三大醸造酒という定義。今後、この定義は変わっていくのではないかと思っています。なのでここでは「黄酒っていろいろなお酒があるんだなぁ」という認識程度で納めていただければと思います。


さて、黄酒の紹介は以上です。他にもっと知りたいことや疑問などあれば気軽にいつでもコメント等でお聞きください。わかる範囲でお答えさせていただきます!

次回は後編として「紹興酒」について紹介します。

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