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Parlez moi d’amour

「聞かせてよ、愛の言葉を」
がらんと広く
静まりかえった部屋に
衣ずれのように
レコードはまわり
古ぼけた歌声が
遠慮がちに流れ出す

聞かせてよ、愛の言葉を
誰もが求めているんだ
その言葉を
自分だけに向けられた
愛の言葉を
ああ
それなのに

愛が失われて初めて、
僕たちは、ようやく
その言葉の意味を知る
愛し合っているときには、
知ろうともせず、
知る必要もなかった、
愛の言葉の意味を

聞かせてよ、愛の言葉を
もう、何も力を持たない
その言葉を
今なら安心して笑えるから
その言葉のためなら
何だってできた
そんな時もあったのにね、と

特別な出来事なんかじゃない
ただ、ふと気づいてしまったんだ
ずっと、ひとりぼっちだったこと
誰もかもが
ひとりずつ
去っていって
空が崩れ落ちてゆくけれど
僕の心は穏やかだった

聞かせてよ、愛の言葉を
待ち焦がれる苦しみも
もういらなくなった
その言葉を
どこか、遠くへと
旅立ってしまった
愛を懐かしむ
その言葉を

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