【感想】映画「あのこは貴族」を観て
本作は今年2月26日に公開されたが、地元では劇場公開されず、10月27日Blu-ray&DVD・配信リリースとなったこのタイミングでの鑑賞となった。
なお、この記事は内容にも触れているので、ネタバレが気になる方はご注意下さい。
華子
家族との会食のため、ホテルに向かう華子(門脇麦)。
タクシーの窓から見えるのは、灯に照らされた夜の東京の街。
会食には婚約者も同席する予定だったが、振られてしまったことを家族に告げる。
「もう20代後半でしょ」と結婚を迫り、縁談を持ちかける家族。
華子はその後お見合い・知人からの紹介、あらゆる手を尽くして次のお相手探しに奔走していく。
華子はいわゆる「貴族」の生まれ、箱入り娘で何不自由なく過ごしてきた。
婚約していた男性に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。
そんな中、良家の生まれである幸一郎(高良健吾)と出会い、そのまま結婚へと進むことになるが、嫁ぎ先で目の当たりにする良家ならではの「普通」の数々。
戸惑いを隠せない華子は、自らの価値観に問いかけていく。
美紀
地元・富山県に帰省した美紀(水原希子)。
車の窓から見えるのは、シャッターの閉まった寂しげな故郷の街。
美紀は高校卒業後、東京の名門大学に入学した。
内部生とのギャップに戸惑いつつも、学生生活を送っていた。
ところが、学費が続かず、夜のバイトで賄おうとするも、やむなく大学を中退してしまう。
現在は東京で働いているが、このまま東京にしがみつく意味を見出せずにいた。
実は幸一郎とは大学の同級生で、関係も持っていた。
東京に戻った美紀は、共通の知人を介して華子と出会うことになる。
縛り
嫁ぎ先で跡継ぎを期待される華子。
生まれてくる子どもにもすでに将来が決められていることに愕然とする。
家庭の事情で大学を中退せざるを得なくなった美紀。
親に援助を求められ、憤りを感じる。
家柄に翻弄されるのは、貴族だろうと庶民だろうと同じ。
「家族」という繋がりは、どこに行こうとも追い払うことは難しい。
それは時に「縛り」にも感じさせる。
大切なのはそれを分かった上で今後どうしていくのか。
華子と美紀の答えとは?
分断
華子と美紀を引き合わせようとする逸子(石橋静河)はこう話す。
「日本には、女性を分断させる文化がある」
「私そういうの嫌なんです」
逸子はこの悲しみを十分に分かっていた。
そして華子と美紀は対面する。
確かに大抵この場合は修羅場になって激しく言い争ったりするものだ。
しかしこの映画では、穏やかな雰囲気で話し合いが行われる。
非常に新鮮だった。
話し合いのシーンはそこまで長くはないが、分断・煽り・炎上、メディアに現存する価値観に問いかける象徴的な場面だろう。
自立
結婚することだけが「幸せ」ではないと気づいた華子。
「仕事がしたい」と相談したり、家庭菜園を始めてみたりする。
「やっぱり旦那と相談した方がいいよ、家のこともあるし」
「(育てるより)買った方が早いよ」
思うに華子の言動は、その先の目標がある訳ではなく、何か行動を起こしたいという意思の表れではないかと考える。
買うだけでは満たされないもの。
専業主婦や出産後、子どもを育てる中で社会的疎外感を感じる女性は少なくないと聞く。
今まで知らなかった、女性の過酷な現実。
結論
本作は階級社会とその中で生きる女性について描いた作品だ。
結末は伏せるが、華子と美紀の出した答えは、決断した女性の今後を期待させるものだ。
女性の社会進出が推奨されているが、現状様々な課題が残されている。
例えば「男性=仕事、女性=家事・育児」という既成概念。
男は自尊心の強い生き物だ。
その自尊心を満たすには仕事という手段が一番合っているのは、十分に理解している。
しかし華子と美紀の決断は大いに尊重するし、この映画を観て「女性」の現実をより深く理解したいと感じた。
そして住む階層<セカイ>が違えば、それぞれの「普通」も大きく異なる。
価値観の違いから「ありえない」と受け取れるセリフも目立つ。
私たちに求められるのは、上の階層を嫉むことでも、下の階層を蔑むことでもなく、それぞれの「普通」を容認すること。
このことが多くのメディアを触れる上での心掛けにも繋がるのではないだろうか。
決して無視できない現実と向き合える、おすすめの一本。
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