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年俸制って実際どうなの?従業員/会社側のメリット・デメリット

社会人なら、年俸制という言葉を一度は目にしたことがあるでしょう。

「聞いたことはあるが馴染みがないし、よくわからない」

そんなキャリアパーソンに向けて、実際に年俸制の会社で働いている筆者が年俸制についてわかりやすく解説します。

*この記事は5分程度で読むことができます。


年俸制について知ろう

年俸制とは、給与の決定形態の一種で、年単位で給与を決定する仕組みのことです。
その他の給与の決定形態にはアルバイトでよく見られる時給制、日本企業の9割以上に採用されている月給制(日給月給制を含む)などが存在します。

年俸制と聞くと、「実力主義の会社なのではないか」「残業代が支払われないのではないか」などの不安を持つ方がいます。
この章で年俸制に関するモヤモヤをまとめて解消します。

Q. 年俸制は年1回だけ給与が支払われますか?

A. いいえ。
労働基準法第24条という法律で労働者に対する給与は「毎月1回以上」「一定期日」に支払うよう定められているため、年俸制だからといって給与が年に1回まとめて支払われるわけではありません。
一般的には年俸を12分割した金額が毎月一定期日に支払われています。ただし後述するように、年俸を12よりも多く分割して余った分を賞与として支給する会社もあります。

Q. 年俸制だと残業代は出ませんか?

A. 出ます。
年俸制でも、時間外労働について定めた労働基準法に則り残業代を支給されなくてはなりません。ただ、会社によっては固定残業代制度(みなし残業)を採用している場合もあります。
例えば毎月20時間分の残業代が年俸の中に組み込まれている場合には、毎月20時間以下の残業に対しては追加で残業代が支払われることはありません。一方で、20時間を超える残業をした場合には、労働基準法に則り超えた分だけの残業代が支払われる必要があります。

ただし、以下の場合は残業代の支払い適用外となるため基本的には残業代が支払われません。

・法律上の管理監督者の場合(例えば、部長や役員などである場合です。)
・農業、漁業などに従事する労働者の場合
・個人事業主の場合(例えば、プロスポーツ選手は個人事業主のためそもそも労働基準法は適用されません。)

Q. 年俸制だと賞与は支払われませんか?

A. 会社によって異なります。
夏と冬に支払われる賞与という意味であれば、事前に定めておいた金額が支払われることがあります。
例えば、あらかじめ12より多く分けておいた部分の金額を定まったタイミングに支給することはあります。

なお、業績賞与の仕組みがある会社の場合、年俸が定まっていても、それに加えて賞与が支払われる場合があります。

従業員から見た年俸制のメリット・デメリット

メリット①:月給が高い

最大のメリットは何と言っても月給が高くなることです。
例えば年収480万円で12分割の年俸制の場合、月給は40万円となります。これに対して、夏冬賞与がある会社の場合、たとえば月給は30万円で、夏冬賞与がそれぞれ2か月分で60万円ずつ、となることなどがあります(※年間賞与を月給の4か月分とする場合)。
支払われる年収は同じですが、月給10万円の差は大きいですね。

 メリット②:年収が安定する

2つ目のメリットは年収が安定することです。
あまり知られていませんが、夏冬賞与を支払う会社でも法的に賞与の支払いが義務化されているわけではありません。
例えば業績が悪い場合には、2か月といっていた賞与が極端な場合ゼロになることもあります。またそのことを法的に問題だということも指摘しづらいのです。
しかし年俸制の場合には定まった年俸は必ず支払われることになります。月額が多くなることと併せて、生活設計はしやすくなります。

メリット③:仕事への意識変容ができる

3つ目のメリットは仕事への意識変容ができることです。
毎年1回、「あなたの働きぶりをふまえて来年度の年俸は〇〇円です」と上司から伝えらえることで、自分の仕事で生み出す価値と報酬の結びつきが明確になり、「自分の力で稼ぐ報酬」という意識が高められる可能性があります。
給与は「月々支給される」ものではなく「自ら手に入れる」ものであるというマインドで働くことができます。

デメリット①:自分の成績が即座に賃金に反映されない

年俸制は1年間に支払われる給与をあらかじめ決めておく仕組みです。
例えば、期初に大きな業績を上げたとしても、その評価が給与に反映されるのは来年度の年俸決定時となり、給与反映までに最大1年の時間がかかります。
自分の成績が即座に給与に反映されないことに、もどかしさを感じる方もいるかもしれません。

なお、会社によっては、年俸制であっても、期中に変動させる場合もあります。その場合にはこのデメリットは解消されます。

デメリット②:ローンの賞与払いに適さない

住宅ローンなどには年2回の賞与に合わせてその月だけローンの返済額を高く設定する賞与払いの仕組みが存在します。
年俸制で賞与の支給がなくなったとすると、賞与払いの仕組みは適さなくなると考えられます。
ただ、夏冬賞与払いのローンの仕組みは、金利的にはかなり不利な仕組みです。だから総支払額的には、賞与払いを選択しない方が得をすることを理解しておきましょう。

会社の経営者から見た年俸制のメリット・デメリット

メリット①:人件費予測が容易

経営上の年俸制のメリットは、人件費の予測が容易になり運用負荷が減ることです。
年俸制では1年間に支払う給与があらかた決められているため、毎月の給与計算の負荷が小さくなります。また、期初の早い時期から総額人件費の見通しがつくため、経営計画が立てやすくなります。

メリット②:従業員の離職防止

2つ目のメリットは従業員の離職防止です。
従業員が年俸制の会社から月給制の会社へ転職する場合、年収が大きく変わらなければひと月当たりの給与は下がる傾向にあります。
例えば完全年俸制で年収480万円の人が同じ年収で月給制の会社へ転職する場合、これまでは40万円が月々支払われていたのに対し、転職先では30万円の月給となります(※年間賞与を月給の4か月分とする場合)。
月給の差から、従業員の転職を引き留める効果があると考えられます。

デメリット①:給与を下げづらい

1つ目のデメリットは給与を下げづらいことです。
降格などで従業員の給与を下げたい場合、年俸提示の際の減給額が大きいため、従業員に大きなインパクトを与えてしまう可能性があります。
従業員のモチベーションダウンを懸念して給与を下げづらくなると人件費の圧迫につながる恐れがあります。

デメリット②:業績悪化時に調整がしづらい

2つ目のデメリットは会社の業績悪化時に人件費の調整がしづらいことです。
年俸制は従業員に1年間に支払う給与を期初にあらかじめ決めておく制度です。会社の業績が急激に悪化したとしても、個人の成績がどんなに悪かろうとも、1年間は決められた給与を払い続けなければなりません。

逆にいえば、会社が従業員のリスクを負担しているという風にも理解できます。

年俸制の会社で働く人の声

月給制の会社から年俸制の会社に転職した3名の方に、年俸制についてどう思うかインタビューしてみました。

「純粋に月給が高くなったので嬉しい。基本的に毎月定額が入ってくるので家計のやりくりがシンプルになった。一方で賞与がないので同年代がボーナスで何を買うか話していると少し寂しい」

「良いところはある程度入金額がわかり、計画が立てやすくなること。また、月給がある程度担保されているので、残業代を気にせずに仕事することができる」

「賞与がなくなるので不安ではあったが、それまでの手取りより上がったので嬉しい。悪いところは特にない。」

さいごに

いかがだったでしょうか。
年俸制は、従業員にとっては月給が上昇し、会社側にとっては運用のしやすい制度だといえます。
皆さんが働く会社を選ぶ際に、単純に夏冬賞与があるほうが良いと考えるのではなく、自分の生活スタイルとの整合性などを踏まえて考えてみてはいかがでしょうか。


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参考文献

・平成26年就労条件総合調査