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『都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ / 天祢涼』(講談社文庫)を読んで。

こんにちは。自称読書好きの春風です。前回に引き続き、漆原翔太郎シリーズ第二弾の感想を書いていきたいと思います。押忍。

前巻の記事はこちら。

 ―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

◆都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ / 天祢涼

(あらすじ)弁舌巧みな爽やかイケメン、でも天然な世襲政治家・翔太郎が、都知事選に立候補すると言い出した!真面目で融通が利かない秘書・雲井は、翔太郎のために奔走し、妨害工作を退け、彼は都知事に当選する。だが、二人の前に次々と現れる難事件―テロ組織・アイスクリーム党による都議会襲撃、ゆるキャラ「ケンダマダー」殺害、そして都の賓客である美人王女のダイヤ盗難…。支持率が急落する都知事と秘書が真実を明らかにするとき、東京の、そして日本の政治が変わる!?最後の1行まで目が離せない、空前絶後・驚天動地・当選確実の傑作ミステリー!!

◇帰ってきた、漆原翔太郎

時系列の面からいえば、1巻の最後と2巻の最初はほぼ同時のシーンが描かれています。父・漆原善壱の悪事を暴き公にし議員辞職した漆原翔太郎が今度は都知事になって帰ってくる。ただしくは、都知事に立候補するぞ!と翔太郎が騒ぎ出して雲井さんが待ったをかける、まずそこからのお話ですが。

第一章『出馬』。これがまた、よく『漆原翔太郎シリーズ』を思い出させてくれる構成になっていることに感動を覚えました。そうだよ、これが漆原翔太郎だよ!とそう言いたくなるような、見事な入りの第一章です。都内のマンションに同居して、都知事に立候補する準備を整える翔太郎と雲井のもとに現総理大臣・正宗謙吾の遣いとしてやってきた高畑氏。彼はいったい何者なのか。正宗謙吾の思惑とはなんなのか。謎は第一章のうちに解かれることになりましたが、ほんとフラグが砂利。翔太郎の言動のすべてがフラグになっている。謎解き部分では「こいつは天才なのか? バカなのか?」の疑問を剛速球で投げかけてくる。永遠に解けない疑問に頭をぐるぐるさせるサムライ秘書・雲井進。ヘラヘラしてるだけにしか見えない漆原翔太郎。

ほんとうに、これが漆原翔太郎です。参りました。

◇1巻を読んでからのほうがいいのか問題

読まなくても大丈夫と言えば大丈夫なのですが、『漆原翔太郎シリーズ』をより楽しみたいならぜひ1巻から読んでいただきたい作品です。

彼がどのようにして政治家を目指すことになったのか。どうして都知事を目指すことになったのか。1巻を読まなければ、ニュアンスでしかわかることができないので非常に勿体ないです。特に勿体ないと思うのは、雲井さんの感情です。翔太郎のバカなのか天才なのか判別できない行動に振り回されっぱなしの雲井さんでしたが、1巻の終わりに、少しだけ、少しだけ、その結論を導いてくれそうなできごとがあり、それを経た上での雲井さんが、この2巻にいます。

ですので、ぜひ1巻から読んで下さい。

◇砂利は砂利でも今度は色付きの砂利

2巻の内容に戻ります。

砂利=フラグのことです。(1巻感想記事三章

読者は学習する生き物でした。1巻を読んだ読者なら、漆原翔太郎シリーズの特性についてを学んでいます。翔太郎が天気予報を見ていたらそれがフラグであり、翔太郎がコンビニに寄ったらそれがフラグであり、翔太郎がピザを頼んだらそれがフラグ、なことを読者はもう学んでいるのです!!!(←本文のネタバレ防止に、仮ものを創作してます)

わたしが学習をしただけなのかもしれませんが、砂利に色がついたように見えました。まるでボルダリングのアレみたいに、です。読んでいると、これは怪しい。これはきっとあとあと何かになる情報だな、と暗に『ここテストに出るよ~』と作家さんに言われてるみたいで面白いです。

重要そうな部分を覚えておいて、謎解きのシーンになると、なるほどこれそういう意味だったんだ、となるんです。怪しいのはわかるんですが、それがどう結末(謎解き)に繋がっているのかという一番重要な部分が結局謎解き読まないとわからないという楽しさがあります。

さらにいえば、それが漆原翔太郎の「偶然」なのか「必然」なのか「当然」なのかが、もう本当にわからない。

謎解きの後の後で、雲井さんと翔太郎が内輪の話をするのですが、ここでもまた裏切られる。

ミステリーはこの『裏切られ』が気持ちいいか、気持ちよくないかが好みのわかれる点だと思いますが、漆原翔太郎の『裏切り』は、わたしは気持ちがいいです。翔太郎の人柄があって憎めないです。憎む担当は雲井さんが全部肩代わりしてくれているので、読者が翔太郎を憎まなくてもいいようにできていると考えます。

◇異例の第四話

事件が起こり、謎が解決される。その流れは、どの章も同じなのですが、2巻の第四話・外交だけは異例を感じました。

第四話のあらすじを簡単に説明すると、アール王国のコンスタンス女王が東京都の賓客として訪日し、彼らが宿泊する大使公邸に漆原も雲井も宿泊することになり、ここで事件が起こります。雲井さんが女王に色仕掛けをされ、それはなんとか回避するのですが、翌朝になってダイヤを盗んだ犯人に仕立て上げられてしまうという事件です。場所は密室。どうみたって雲井さんしか犯行ができる状況にない。

雲井さんは容疑者という扱いを受けるのですが、それを翔太郎が解決します。

◇バカでも、天才でもない

第四話の解決の手口は、バカでも、天才でもなく、努力だったような気がします。翔太郎は、雲井がダイヤを盗むはずがないと信じて、関係者に聞き込みをしたり、大使公邸のすみずみまでヒントがないかと調べ上げる、地道な作業。

今までの事件は、運だったり、才能だったりする部分があったかもしれませんが、今回ばかりは、雲井さんのために奔走した翔太郎の努力が解決したのだろうと思いたいです。

◇失言議員・漆原翔太郎が憎めない

雲井さんを信じていたのかというと、信じてたといえば信じていたでしょうが、

……
「お待ちください」
 静観を決め込んでいると思っていた翔太郎が立ち上がった。
「雲井は人様のものを盗むような、卑しい男ではありません。百歩譲って盗んだのだとしても、テーブルに放っておくような杜撰なことはしない」

……
(『都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』P237より引用)

百歩譲って盗んだのだとしても、なんて『信じてないんかーい』って思った方、多くいらっしゃると思いますが、よくよく見てみるとこの翔太郎は演説モード。いつも通りの余計な一言であるわけです。しかし雲井さんも自分がやってないのにもう自分が犯人としか思えない状況で腹をくくる気持ちの準備までしているほど弱っているところなので、翔太郎の失言に気付きもしません。

少年漫画の世界だと『根拠はないけどこいつはこんなことをする奴じゃない!』のような、火元不明の熱い信頼があることが当然の世界なのですが、漆原翔太郎は普通に大人の世界でした。

◇やっぱり漆原翔太郎だったと思わせてくれる最後

2巻、最後の章『第五話・辞職』のことです。タイトルからして不穏さを感じてしまうタイトル。目次を読んだ時から、なんだよ翔太郎また辞職しちゃうわけ?って思っちゃう。

とりあえず辞職についてはおいておいて、やはり漆原翔太郎シリーズだったというまとめの章です。これまで都知事としての漆原&雲井に降りかかる事件を読むたびに、色付きの砂利を拾ってきた読者でしたが、お気づきになっていることと思います。使われなかった色付きの砂利の存在に……。

『あれ? これフラグじゃないの? 使わないの?』って……。

それが見事に使われているのが、第五話です。使わなかった砂利だけではなく、使った砂利も、新しい使われ方をしています。

1巻の最後を読んで感動した読者を同じかそれ以上に感動させてくれる。

見事だなと思いました。

◇翔太郎と雲井さん、少しは腹割って話せばいいのに

政治家と秘書の関係の二人。仕事の面では相棒をしていても、友達というわけでもない。とにかく、雲井さんが翔太郎のことをまるで信じてない描写が多過ぎる。違和感というわけじゃないのですが、もっと腹を割って話したら、雲井さんの「翔太郎は私を玩具にして楽しんでいるのか!?」と疑わずに済むのではないかと考えます。

同居もしてるし、仲良く餃子を包んでいても、まあいいよ? いいけどさ、でももうちょっと、お話したらどうかしら。

翔太郎、雲井さんを玩具にしてないよ。

まぁ、被害妄想フル回転の雲井さんの右往左往を読者は楽しんでいるけどね。サムライ秘書の名折れであることは間違いないです。

あ、ってことは、3巻が出るとしたら、雲井さんが活躍するかも?

◇漆原翔太郎シリーズ、続きを、出しとくれ

3巻を出してほしいです!言うだけでは言っておく!
講談社~~~~~!頼む~~~~~~!(二回目)

叫んでばかりでは、にっちもさっちもなので、天祢涼先生の最新刊をご紹介。

◇外部リンク

講談社ノベルズ『都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』特設ページ
・天祢涼 Twitter( @amaneryo_on_tw
     個人サイト ( https://www.amaneryo.com/ )
・装画:加藤木茉莉  個人サイト( http://katogimari.com/ )

◆後記

以下、読まなくていいところ。

流行らない(売れてない?←セールスの失敗らしい)のがおかしいぐらいに面白かった。政治家で秘書の凸凹コンビ、政治を舞台にしてこんなライトにコミカルな男二人のバディモノなんて砂漠でダイヤ見つけるレベルの貴重な作品だと思うので、『漆原翔太郎シリーズ』はぜひ読んでほしい。

記事最初の雑談止めてみた。

――おことわり――

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