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『議員探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ / 天祢涼』(講談社文庫)を読んで。

久しぶりの投稿です!忙しくてほとんど読書をしていませんでした。

お正月にNintendoSwitchを買い『あつまれどうぶつの森』と『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』を熱中してやってました。どちらも発売したのはかなり前の作品ですが名作にはかわりなく、面白くてハマってます。

ゲームと読書、この二つは並行してできません。あつ森はともかくゼルダは特に音も重要な情報なので難しく。ゲーム以外だと、料理を作るとき音楽を聴きながらやったり、イラストを描くときだったらradikoのタイムフリーを聴きながらできますし、ルームランナーだったらアニメや映画を観ながらできます。マルチタスクは脳をぶっ壊すという話もあるようにあまり褒められることではありませんが音楽はリラックスにもなるんで悪いことばかりでもないかと。

読書は集中しないとダメな人なので基本は無音です。小説を書くときなどは環境音です。川のせせらぎの音です。たまたま近所の川の音源がYoutubeにありまして。でも冬場は水の音だと寒かったので暖炉の映像にしてました。

今回は、天祢涼先生著の『議員探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』(講談社文庫)の感想を綴ってまいります。押忍。

―― 注意 ――

・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。

◆議員探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ / 天祢涼

(あらすじ)イケメン世襲議員・漆原翔太郎が連発する問題発言でネットやマスコミは大盛り上がり。一方で評判はガタ落ち、次は落選必至!? 政界一のマジメ秘書・雲井は人気回復を狙い、公園取り壊し計画の不可解な謎や官僚の疑惑など選挙区内の5つの事件に漆原と挑むが……。ミステリファン笑って大満足の連作短編集。
見事に作者の罠にかかった。――辻 真先(ミステリ作家)
まさかの結末!イケメン議員が5つの謎に挑む ユーモア・ミステリ!!
イケメン世襲議員・漆原翔太郎が連発する問題発言でネットやマスコミは大盛り上がり。一方で評判はガタ落ち、次は落選必至!? 政界一のマジメ秘書・雲井は人気回復を狙い、公園取り壊し計画の不可解な謎や官僚の疑惑など選挙区内の5つの事件に漆原と挑むが……。ミステリファン笑って大満足の連作短編集。

◇この本との出会い

コミラノでマンガを探していたところ、桃源暗鬼という漫画に出会いました。絵が好みだったんですぐ買って今も集めてます。作者は漆原侑来さん。読書メーターに漆原って入力したら出てきたのがこの小説でした。「なにこれ『アキラとあきら』の表紙の人じゃん」(正しくはイラストレーターさんのほうが)って興味で、あらすじやレビューを読んでみたところ「バカか?天才か?」で面白そう??となりました。バ〇クシー展みたいな響き。

結果、面白かったです。買ってからなかなか読めなかったのが反省点ですが、出会えてよかった作品のひとつになりました。

作者紹介は字がたくさんだったので読了まで読まなかったんですが、メフィスト賞を受賞された方なのですね!ソーシャルディスタンスの達人・森博嗣さんになにかの受賞歴をつけたいというとんでもな理由でできたメフィスト賞。メフィスト賞受賞された方って面白い作品を書かれる方ばっかりで(好みもあるのかな)小説の賞で、一番気にしてる賞です。

◇作家は天祢涼さん

いつもは折り返しの部分を引用して紹介していますが、とにかく字がいっぱいで(作品紹介がたくさんなのです)、写しミスがあるといけないので、個人HPへのリンクを貼って、ご紹介と致します。

@天祢涼 ( https://www.amaneryo.com/ )

作者さんがサラッと紹介するタイトルの中にも漆原翔太郎の名前がない……。単行本を含めると何年か前の作品ですし、

こんな不穏なツイートが!面白いのでめちゃくちゃ読まれてほしい。たしかに私も探して探して買いました。電子書籍でもいいので買って読んでいただきたいです。漆原翔太郎がバカなのか、天才なのか、ぜひ作品全文を読んで検証していただきたいです。

◇登場人物紹介

・漆原 翔太郎 (うるしはら しょうたろう)

自由国民党の傑物・漆原善壱の一人息子。昨年、善壱が心臓発作で逝去したあとに勤めていた電力会社営業職を辞め、善壱の地盤(Z県)を引き継いで議員に初当選した世襲議員。イケメン。顔がいい。30歳の雲井さんと「たいして変わらない年齢」なのでおそらく30代半ばから後半。口が達者なのだけど余計なことを言い過ぎる炎上系議員。なものだからテレビや週刊誌は翔太郎が大好きでよく注目されてる。やることなすこと問題児なため、雲井さんの頭痛の種なのだが、こんなんでもミステリーでいうところのホームズのほう。最後まで読むと印象が変わるのでなんとも紹介しにくいです。雲井さんいわく『黙っていれば文句のつけようがない美青年』。

・雲井 進 (くもい すすむ)

政治秘書。漆原善壱の元秘書で、今は翔太郎の秘書。仕事がめっちゃできるらしくて、サムライ秘書という通称で国会関係者に有名。週刊誌が企画した『国会女性職員が選ぶ抱かれたい議員秘書ナンバーワン』に選ばれたりしてるくらいにイケメン。仕事はできるが、中身はチャーミングな人なので読んでいて飽きない。(『議員探偵・漆原翔太郎』は雲井さんの一人称視点小説です)翔太郎の「バカなのか?天才なのか?」にずっと振り回されている不憫な人。

◇政治家や政治思想がテーマの小説ではない

小説を開くと目次のページ、タイトルのページのつぎに「おことわり」のページがありました。引用します。

おことわり
 本書に登場する政策は特定の政治信条に基づくものではありませんので、お気軽にお楽しみください。

短いので全文引用になってしまった。

小説を読めば、この「おことわり」の通りだなとわかりますが、前もって言っておく必要があるものなのですね。このようなおことわりは多分、初めて見ました。

◇中3の公民相当の知識があれば、難しくもないカモ

わかってないといけない用語は「総理大臣」「与党」「野党」くらいでしょうか。政党も政治家も企業名もすべて架空のものですし、地名も「Z県」などとすべて架空のものでした。書かれている情報からは東京から遠いのか近いのかもわからない。翔太郎は「地方に帰るのがめんどくさい」って言ってるのですが、翔太郎なら埼玉くらいの距離でもめんどくさいと言いそうなので、ほんとにわかりません。

作中で現実にもある固有名詞は、千葉ロッテマリーンズ、バレンタイン監督、西岡剛選手、くらいなものでしょうか。(一応本物もあるよ~って意味で紹介してます)

政治家の名前も出てきますが、誰に似てるななどと連想などもさせません。苗字の読み方が似てるor同じ人もいますが、現実は衆参合わせて700人越えいるので、そんな現象もあって当然です。

物語を読むうえで必要なこと、たとえば「議員秘書ってどんな仕事するの?」などはそのつどわかりやすく説明&補足してもらえてるので、ほんと中3もいらないくらいです。小6でサラッとやる社会の授業レベルでも読めると思います。

こんなふうに書いてしまいましたが、簡単なのは政治の部分についてだけです。本題はミステリーなので、ミステリーの部分は子ども向けではないので安心していただきたいです。

◇フラグが砂利道に砂利撒いてるんじゃないかってぐらいにありまくる特殊な作品

『議員探偵・漆原翔太郎』を読んでいて、一番驚いた点です。

ミステリーを読んでいると、「これはフラグだな」と感じる部分がいくつかあると思います。もしくは、なにげない物事も謎解きの時に「あれは実はフラグだったのか」ということが多々あるのがミステリーかと思います。

こちら『議員探偵・漆原翔太郎』は、わたしは読んでる途中、誰が犯人だとかどれがフラグだとかはほとんどわかりませんでした。ちょっと怪しいかな? と思う程度でした。

『議員探偵・漆原翔太郎』は章ごとに事件があり、ひとつひとつ解かれる短編形式です。各章の謎解きの部分を読むと、フラグだったという部分がわかるんですが、もうそれが酷い(←褒めてます)。

例えば、わたしが適当に即興で作った仮の話ですが「あのたこ焼き屋おいしそうだね。ちょっと買っていこうよ」「なに言ってるんですか。あと30分後には駅前で演説なんですよ? 青のり付けたまま演説する気ですか。明日にはテレビや週刊誌に『青のり議員』なんて言われますよ」「それが雲井、青のり抜きにできるみたいだよ。朝からなにも食べてないから腹ペコ議員と呼ばれてしまうだろうな」「寝坊したのはご自分のせいでしょう。わかりましたよ。ちゃっちゃと食べてしっかり演説なさってください。それでチャラにしてあげます」という文章があったとすると(←これは私が3秒で作った例文です!本文引用だとネタバレになっちゃうんで)、それが3行程度の描写であろうと、もうフラグなんです。恐ろしいです。読者も数章読むと、漆原翔太郎のこのフラグ率の高さを学習していくので、全部の行がフラグなのではないかという錯覚に陥ること待ったなしです。しかも全体的にとてもあっさりな描写なので(会話の中のたった一言など)、漆原翔太郎を初読みした人にはフラグかそうじゃないかを容易に気付かせもしない。

雲井さん視点で語られる物語で、雲井さんは翔太郎を『善壱先生には遠く及ばないボンクラ世襲議員』と舐めて見てるので、このようになるのかもしれません……。

◇雲井さん視点ならではの面白さがあります。

『議員探偵・漆原翔太郎』は、雲井さんの一人称視点で語られる物語です。なものですから、おのずと雲井さんが注目しない部分はサッと書かれたりなどしてます。ボンクラと思ってるから翔太郎の行動には呆れるばかりでさほどの注目もしません、最初のうちは。

章を追うごとに、翔太郎が『こいつ実は天才じゃね?』という具合に事件を解決していきます。最初のうちは『ただの運か?』と思わせるところもあるので、天才かどうかの判別はできません。ちょっと怪しいぞ、って程度です。翔太郎を信じるにはまだ遠い。この、雲井さんが翔太郎を怪しむという、ひとつのスケールが『議員探偵・漆原翔太郎』をより面白く魅せる装置になっているような気がします。信じていいのか、信じてはダメなのか、を雲井さん自身も迷っている。その迷いが、描写にも反映されているので、よりこの作品を面白く感じます。……というか、この雲井さんのキャラクター性が作品一の魅せたいところ、なのではないかと。

雲井さん、仕事は鬼のようにできる人なので、そんな人が振り回されてるのはコミカルで面白いんですよ~。

ちょっとだけ文章を紹介します。

(前略)しかし一番怪しくない奴が犯人なのはミステリの鉄則……何を云ってるんだ。私がやっているのはミステリではなく選挙じゃないか。
 冷静になれ、雲井進。お前は世界で一番、スパイを見つけるのが得意な秘書だ。
 自己暗示をかけ、打開策を考える。
 こうなったら、自白してくれるように頭を下げるしかない。


(『議員探偵・漆原翔太郎』P164より引用)

これで雲井さんに惚れない人がどこにいる!?

物語集大成の最後の章の、最後に『翔太郎がどうなるのか』よりも『雲井さんがどうなるのか』を楽しんでいただきたい。

◇雲井さん、翔太郎のこと大好きだな!?

 全身の血液が、瞬時にして頭に駆け上った。
――いい加減にしろ、橘君。こんな漆原先生を見せてくれるな。仮に漆原先生を追いつめていい者がいるとしたら、それは私だけなんだぞ!
 そう叫びかけた自分に、心底驚く。こんな「ルパンを誰にも渡したくない銭形警部」みたいな感情を抱くなんて。そういえば昨日は、翔太郎が見舞いに来る夢まで見ているし。まさか、私は……。

(『議員探偵・漆原翔太郎』P217より引用)

どーですか。雲井さんめっちゃ面白いでしょ。ルパン三世をみてそんなこと一度も思ったこともないけど、雲井さんが面白い人だってことだけはしっかりわかる文章です。ユーモアに富んでる。面白い小説です。

◇はたして寿司は夢なのか、夢じゃないのか

夢っぽいんですけど、夢じゃない気がして何度か確認のために読みました。

何度読んでもどうにも夢っぽいんですが、夢じゃない気がなんかちょっとだけしてます。気のせいでしょうか。気のせいなんですけど、夢じゃない気がします。(堂々巡り…)

◇復刊しようよ

講談社~~~~~。頼む~~~~~~~。
この小説は面白いぞ。

解説も面白かったので、もし在庫を探すことがあるようなら文庫版をオススメします。

◇外部リンク

講談社ノベルズ『セシューズ・ハイ 議員探偵 漆原翔太郎』特設ページ
・天祢涼 Twitter( @amaneryo_on_tw
     個人サイト ( https://www.amaneryo.com/ )
・装画:加藤木茉莉  個人サイト( http://katogimari.com/ )

◆後記

以下、読まなくていいところ。

久々なので短め。レビュー見てると2巻目のがオススメみたい?早く読みたい。さっと数ページ読んだら二人が同居始めてた!雲井さんがますます翔太郎沼から抜けられなくなりそうで怖い。

現代の政治を舞台にするなんて(すべて架空でも)勇気があるなぁと思いました。私が普段読んでるキャラクター文芸レーベル産では多分ほとんど読めない貴重な作品じゃないかなぁ。

政治的なことを押し付けるような思想はまったく書かれていないので、(もちろん、押し付けてない思想もまったく書かれてない)そこは作者さんが一番上手にされたテクニカルな部分ではなかろーかと思います。

翔太郎も、口が軽いけど間違ったことは言ってないんですよね。ただ多分、現実の政治家が隠しちゃう本音の部分や一般人だって「そこは濁せよ!」みたいに思っちゃう本音を翔太郎は喋っちゃう。憎めないヤツな翔太郎の素質のもあるけど、雲井さんが全部反論(反撃?)してくれるので悪い気分にはならない。いいバディだ。こんなのと24時間一緒にいるのは大変だと思うけど。男二人のバディモノ好きの網には簡単に引っかかりそうではある。

――おことわり――

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