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「静かな退職」を人事は防止できるのか?採用コンサルタントが多角的に検証します。

4月1日、多くの企業で執り行われた入社式。
早朝からリクルートスーツ姿の新社会人が
街のあちこちで見かけられました。

初々しくも、将来を担う若者の姿に
私はつい目がいってしまったのですが、
一方で、早期離職が3人に一人の割合で
会社を去っていく現実があります。

直近の厚労省の発表では
大卒の3年以内の早期離職は31.2%と出ており
学歴によっても以下のような違いが出ています。

【学歴別の早期離職率】
中学 55.0%
高校 36.9%
短専 41.4%
大学 31.2%

また、これ以外にも
退職自体はしていないものの、
少し前に流行ったワードをご存じでしょうか?

静かな退職(quiet quitting)

このワードが流行ってから約1年経ちますが、
急速に広まっており、早く手を打たないと
企業は競争力を失うと懸念されています。

このような状況に対して
企業側がどのように対策すればよいのか?
詳しくお話してみようと思います。



1.静かな退職とは?


既にみなさんもご存じだと思いますが、
これは、退職者のことを指す
ことばではありません。

・企業には所属しているが、
 最低限の業務をこなしながら働く
・仕事とプライベートを切り離し、
 仕事に対してやりがい等を求めない働き方

分かり易く定義すると上記の通りです。

無理して仕事をしない。
お金を稼ぐための手段だから、
最低限の努力に留めたい。

このような考え方は、
TikTokでバズったことからも、
若者を中心に流行りそうなフレーズですが、
あなたはどう思いますか?

私からは、以下の3点の疑問が浮かびました。

疑問点① 正当性
合理的な現代人の賢い生き方なのか?
それとも
キャリアを崩壊させる危険な考え方なのか?

疑問点② 原因
仕事や待遇に対して不満があるから?
それとも
ワークライフバランスを重視する
価値観の変化によるものなのか?

疑問点③ 対策
声無き声をどうキャッチアップするのか?
解決の道筋は立てられるのか?

この3点に対して、
私なりの見解を出してお答えしつつ、
掘り下げていきたいと思います。


2.ぶら下がり社員、アンチワークとの違い


では次に、よく似たフレーズとして
ぶら下がり社員」ということばがあります。

最近では「働かないおじさん」といった風に
年齢、仕事内容と報酬が見合わない
シニア世代を揶揄されることばです。

この両者の違いは何か分かりますか?

答えは
「自分からなろうとした訳ではない」
という点です。

ぶら下がり社員は
年功序列による賃金制度が崩壊し、
また年齢による役職定年といった制度等で
生み出されてしまった存在であり、

その結果として働く意欲を失い、
仕事内容と待遇が見合っていない
お荷物社員のことを指します。

一方で「静かな退職」は
自らの意思で仕事に消極的な姿勢を貫く
という特徴があります。

また、同じような用語として
アンチワーク」という言葉が
米国で流行りました。

「Reddit」というSNS内に立ち上がった
コミュニティは160万人を超える勢いです。

こちらはもっと過激な思想で
以下のような考え方があります。

・資本主義という概念そのものへの違和感
・資本家・雇用主による中間搾取への反発
・働くことそのものへの問題提起

日本のものはそこまで過激ではありませんが、
仕事よりもプライベート優先
という確固たる意志がある点が特徴です。

企業側から見れば、静かな退職よりも、
見た目に分かり易いが、
企業への貢献度が低い社員という意味では
大きな問題であることに変わりありません。

もしかすると、これは
新しい形に生まれ変わる過渡期という
考え方もできると思います。

少なくとも、この現象は
一部の変わり者が流行らせたバズワード
では決してないということです。

このように、時代の変化とともに
今までは「倫理観」や「不文律」として
いわゆる常識とされてきた概念が
見事に崩壊してきました。

仕事は辛くて当たり前!
家族のために我慢して働くものだ!

これらの昭和の思想に対して
令和の労働者たちは
明確にNOを突き付けています。

彼らには彼らなりの正義があるのだと
疑問点①の正当性の視点から感じました。


3.アンチワークへの反論


一通り彼らの主張をご説明した上で
ここからは私の意見をお話します。

(あくまで個人的見解です。
 その点はご承知おきください。)

先にアンチワークへの反論ですが、
資本主義の否定労働者からの搾取など
彼らの主張を人事の人が聞いたら
どう答えるか考えてみてください。


少し想定問答をしてみましょう。

企業側が何の努力もせずに
一方的に労働者から搾取しているのか?

と質問を受けたら
彼らはどう答えるでしょうか?

おそらく
「きっとそうに違いない!」
と答えるでしょう。

ではその根拠は?

と尋ねたら、彼らの大多数の人は
「分からない」
「SNSで〇〇さんが言っていた」

という答えると思います。

これでは議論になりません。

仮に理由として挙げるとすれば、
以下のようなものが考えられます。

・利益は十分に出ているが内部留保が多い
・株主への還元は多いが労働分配率は低い
・インフレ率よりも賃上げ率が低い

本当に搾取を主張したいのなら
具体的な数値で説明できるはずであり、
これが正当な理由でないと
人事側としては取り合ってくれない
と思います。

世の中の大半の単純労働が機械化し、
お金は働かなくてもベーシックインカムで
ある程度の生活ができる環境

これらが揃うまでは、
理想的だが現実的な意見ではない
と私は主張したいのです。

アンチワークだけでなく、
静かなる退職に関してもそうですが、

この議論は大半の人にとって
エンタメとして捉えているだけ
あるいは
無知で過激な思想の持主
その程度のものではないか
そう受け止めています。

仕事が全てではない、
ワークライフバランスも重要という
ご意見には100%賛成の立場です。

しかし、
最低限の仕事だけしていればよい
という考え方は非常に危険です。

なぜなら、業績が傾いた時は
真っ先にリストラ候補になる可能性が高く、
現在の転職は売り手市場とはいえ、
ホワイト企業への転職は容易ではありません。

短期的には良くても、
長続きしないのてはないか?

ゆえに現時点では、
自身のキャリアを崩壊させてしまう
危険な思想であると言わざるを得ない

と私は考えています。

疑問点①の正当性は
個人的見解ではありますが、
ないと判断します。

もしかすると、
一部の人からはSNSに感化されて、
インフルエンサーが主張するような

「働きたくなければ
 生活保護でもいいじゃないか?」

という話が出てくるかもしれません。

詳しくはこちらを見て欲しいのですが、
申請には各種調査を経てからとなり、
この過程で親族へ扶養義務調査が入ります。

これが理由で受理されない場合や
申請者の名誉を著しく傷つけるため
躊躇する人が多いのです。

政府も、ただ怠惰な国民を
扶養しようなんて考えていません。

孤立無援でどうしても働けない人や
親族一同から絶縁でもされていて
全く気にならないような立場でもない限り
どうしてもプライドが邪魔をする…
そのような制度なのです。

だから、簡単な話ではないですよ…
私からはこう主張したいのです。


4.静かな退職の原因と解決策を究明せよ


日本人の仕事観が変化してきた
キッカケは何でしょうか?

昭和から平成、令和で大きく変わった点

それは
働き方改革関連法による労働時間の削減

新型コロナウィルスによる働き方の変容

この二つが大きな変化ではないでしょうか?

週休は昭和から平成にかけて1日から2日へ、
そして令和では3日の議論が登場しており、

労働時間を減らして生産性を上げる

という議論が活発になっているのは
あなたもご存じだと思います。

まだまだ大企業が中心ですが
働き方改革に伴い、労働生産性の向上
に取り組む企業はたくさんあります。

そんな改革を迫られる人事の立場から
この問題を見たとき、静かな退職など
彼らの主張はワガママと感じるはずです。

「どうすれば良いのか教えて欲しい!」

というご質問を多く伺います。


あなたはこの問題に対する
解決方法が分かりましたか?

私から解決策を提案する前に
問題解決のフレームワークをご紹介します。

【問題解決のフレームワーク】
(1)現状の理解
(2)根本原因の見極め
(3)打ち手の決定
(4)実行&検証

上記はPBL(Project Based Learning)に通じ
学校で課題解決型の学習を行う際に用いられる
フレームワークでもあります。

今回はこのフレームワークを用いて
以下に静かな退職の解決策を提示します。

(1)現状の理解


米国のギャラップ社の統計結果で
State of the Global Workplace: 2023 Report
によると、日本人の仕事に対する意欲
(従業員エンゲージメント)の低さが
注目を集めました。

同じ東アジアの国々と比較して
以下の通りとなります。

モンゴル:38%
中国:18%
韓国:12%
台湾:11%
香港:6%
日本:5%

なんと日本人で仕事に意欲的に取り組む人は
20人に一人という結果でした。

また「静かな退職」を選択する人の内、
62%が「エンゲージメントがない」
と回答しているそうです。

つまり、冒頭の疑問点②の原因
職場の従業員エンゲージメントの低さ
にあると推測されます。

(2)根本原因の見極め


先程の調査結果には続きがあり、
同社は管理職に覚えておいて欲しいこと
として、以下のことを伝えています。

(以下、要約文)

従業員は良くも悪くもエンゲージメントがなく
従業員満足度調査だけでエンゲージメントを
測ることはできないことが分かっている。

チームエンゲージメントは70%はマネージャー
に起因しており、彼らの適切な教育によって、
従業員の仕事に対する意欲は向上する。

しかし、多くのマネージャーも「静かな退職」
を選択している。

つまり、マネージャーのケアが重要であり、
チームエンゲージメントの7割はマネージャー
が占めていることから、彼らが適切に従業員へ
アプローチできる環境づくりが必要になる
ということが判明しました。

(3)打ち手の決定


先程の内容を踏まえた上で、
私から提案することは以下の通りです。

【解決の打ち手】
①従業員エンゲージメント調査の実施
②マネージャーの負担軽減策(DX化)

マネージャーへの教育制度見直し
④上司と部下の1on1の導入

【打ち手の根拠】
①定量的な調査だけでは不足しているが。
 どこで何が起きているのか定量で判断する
 材料は必須です。
②マネージャー自身が静かな退職となって
 いないか調査をして、負担となっているもの
 経営層への無駄な会議体を減らしたり、
 事務作業の軽減でRPAの導入等を検討すると
 効果があると判断しました。
③従業員のエンゲージメント調査だけでは
 解決できない問題として、エンゲージメント
 の要であるマネージャーの教育が必要です。
④部下の特徴や何を望んでいるのかを把握し、
 適切な教育を行うために、傾聴主体である
 1on1が効果的であるといえます。

疑問点③の解決策は
従業員エンゲージメント調査でマスを検知し
1on1で個々人の事情を把握して
解決策の提示を行う
が答えでした。

(4)実行&検証


先程の事例では、
現状の理解と根本原因の見極めにより、
従業員エンゲージメントに注目しました。

しかし、
打ち手の選択ミスで想定通りの成果がでない
という結果も十分考えられます。

その場合は、現状の理解からやり直して
新しい原因によって導き出された
打ち手を色々試してください。

単純な解決方法であるケースもあるでしょう。

給与に対する不満が多く、給与アップをしたり
頑張りが評価されない評価制度に不満があり、
インセンティブを導入したら改善することも
考えられます。

検証に関しての注意事項として、
数値で測れるものを指標にする
という部分がポイントになります。


5.週休3日制の罠


海外では実証実験が行われて
大幅な生産性のアップが確認されていますが、
日本では一部の企業で実験をしている段階です。

「既に当社では導入しているが?」

そう思った方もいるかもしれませんが、
日本の週休3日制は海外のものとは
少し異なるのです。

週休3日制を導入済の一部の企業では
働き方改革を悪用してコストカットに
躍起になっている姿が垣間見えます。

例えば、週休3日を導入した場合、
1日減らした分は給与は払いません。
実質の給与カットですが、残り1日は
副業を認めるので、自分で稼いでください。

あるいは、日本では労働者の権利として
不利益変更が原則禁止されていますが、
変更労働時間制を導入して
週休3日で労働時間を毎日10時間とする…

こうすれば毎日2時間の残業代カットです。

(厳密にいえば、これも不利益変更ですが…)

海外では、
給与は据え置きした状態で、
労働時間を減らして生産性を上げるために
どうすれば良いのかを真剣に議論する。

そのような企業が実在します。

日本でもこうならないと
モチベーションは確実に低下してしまいます。

小手先の真似事で
海外の制度を導入すると逆効果となりますので
よく吟味して検討する必要があります。


6.まとめ


静かな退職とは以下の定義です。

・企業には所属しているが、
 最低限の業務をこなしながら働く
・仕事とプライベートを切り離し、
 仕事に対してやりがい等を求めない働き方

疑問点3つの答えは以下の通りです。

疑問点① 正当性
合理的な現代人の賢い生き方なのか?
それとも
キャリアを崩壊させる危険な考え方なのか?

a:現時点では
  キャリアを崩壊させる危険な考え方
  ベーシックインカム等の制度が導入される
  と見解が変わる可能性もある。

疑問点② 原因
仕事や待遇に対して不満があるから?
それとも
ワークライフバランスを重視する
価値観の変化によるものなのか?

a:従業員エンゲージメントが大きく影響
  解決策は4(3)に記載の通り

疑問点③ 対策
声無き声をどうキャッチアップするのか?
解決の道筋は立てられるのか?

a:マスの検知は従業員エンゲージメント調査
  個の事情は1on1で見定め、解決を図る
  というのが私からの提案


如何だったでしょうか?

久々の5,500文字を突破で
ここまで長文を読んで頂き
誠にありがとうございました。

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