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小説|晩産のたしなみ。

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いわゆる晩婚、もしかしたら「晩産」に至れるかもしれない40代のリアルデイズ……。いちコピーライターとして初めて書き残したくなった自分ごとは、苦節9年、不妊治療の行末でした。普通の…
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2022年4月の記事一覧

DAY20.  この世界の愉しみかた

DAY20.  この世界の愉しみかた

 まんちゃん。この子に、名前がついた。ついてしまったと言うべきか。

「お腹にいるときに呼ぶための胎児ネーム? そりゃあ、まんちゃんでしょう」

 夫が勝手に言い出したのを、最初は「なんかヤダそれ」と笑っていたのに。妙にインパクトがあって、それ以外思いつく間もなかった。

 2022年3月26日。妊娠判定日は“今年最強の日”だった。風水だか暦的なものだか、実際のところなんだかよくわからないけれど。

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DAY19.  ちょうど桜の咲く頃に

 まず、謝らなければならない。そのとき、血の気が引くほど動揺してしまったことを。手放しに喜ぶ気持ちになれなかったことを。

「可能性は、まだ、あるんでしょうか……」

 医師に向けた私の言葉は、語尾が少し震えてしまった。

「hcgが21.2出ているので、可能性はありますよ。この表で言うと、ここになります。5人にひとりは、この数値でも出産に至っているわけですから」

 目の前の紙の表に書かれている

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