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【医師論文解説】「公営住宅」こそ最強長寿の地!?データが明かす住環境の影響【Open】

背景: 世界的に高齢化が進む中、日本は最も高齢化が進んでいる国の一つです。高齢者にとって住居は安全と健康の維持に不可欠です。住宅の所有状況が健康に影響を及ぼすことが従来の研究で示唆されていますが、民間賃貸住宅と公的賃貸住宅の違いについては十分な検討がされていませんでした。日本の公的賃貸住宅は、都市再生機構(UR)などによって計画的な住宅地開発が行われており、周辺環境も民間賃貸住宅とは異なっています。

方法: 本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)という大規模なコホート研究のデータを用いて、民間賃貸住宅、公的賃貸住宅、自己所有住宅に住む65歳以上の高齢者44,007人の9年間の死亡リスクを比較しました。Cox回帰モデルを用いて、年齢、性別、教育年数、収入、健康状態、社会活動、居住環境などを調整した上で、住宅の所有形態別の死亡リスクを算出しました。

結果:追跡期間中に10,638人が死亡しました。自己所有住宅に住む高齢者が最も死亡リスクが低く、次いで公的賃貸住宅、民間賃貸住宅の順に死亡リスクが高くなりました。潜在的な交絡因子を調整した上で、民間賃貸住宅居住者は自己所有住宅居住者に比べて1.45倍、公的賃貸住宅居住者は1.17倍の死亡リスクが高いことが分かりました。さらに、多重比較の結果、公的賃貸住宅居住者は民間賃貸住宅居住者に比べて0.80倍と有意に低い死亡リスクでした。

論点: 自己所有住宅居住者が最も死亡リスクが低かった理由として、社会経済的地位の影響が完全に調整できていない可能性があげられます。また、公的賃貸住宅周辺の整備された環境(公園、歩道、緑地など)が、高齢者の身体活動や社会参加を促進し、健康に良い影響を与えている可能性が示唆されました。緑地の存在が精神的健康に良い影響を及ぼすことや、計画的なコミュニティ形成が社会的つながりを強め、主観的な幸福感につながるという仮説も提示されています。

結論: 本研究では、日本の高齢者において、公的賃貸住宅居住者の死亡リスクは民間賃貸住宅居住者より低いことが示されました。これは、公的賃貸住宅周辺の整備された環境が、身体活動の促進や社会的つながりの形成を通じて、高齢者の健康に良い影響を与えている可能性を示唆しています。高齢化が進む中、健康で住みよい居住環境の確保が重要であり、今後の都市開発の方針を考える上で貴重な知見となります。

参考文献: Koga, Chie et al. “Living in public rental housing is healthier than private rental housing a 9-year cohort study from Japan Gerontological Evaluation Study.” Scientific reports vol. 14,1 7547. 30 Mar. 2024, doi:10.1038/s41598-024-58244-y

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所感: 

疫学的に因果関係を示すことは容易ではありませんが、本研究の大規模サンプルと長期追跡期間によって、住宅の種類と死亡リスクの関連に一定の証拠が得られました。

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